第4 被告人らの故意について
1 営業譲渡に関する5億円分の資産にかかる株式払込みの有効性の認識につい て
関係各証拠によれば,本件の一連の増資手続においては,D側では,代表取 締役である被告人Aの具体的指示の下,取締役である被告人Bが中心となって, E側では,代表取締役である被告人Cが中心となって,それぞれこれに携わり, 被告人ら3名の了解の下,Eが払い込んだ11億4680万円のうち5億円分 を営業譲渡代金として処理し,最終的にI銀行本店に還流させるスキームが実 行されたことが認められるところ,それらのことからすれば,被告人ら3名は, いずれも,上記スキームにかかるDとEとの間の営業譲渡に関する契約が内容 希薄であったことや,株主総会の特別決議等の必要な手続が行われていなかっ たことを十分認識していたものと考えられる。
被告人Aが「私は,民事再生手 続が終わっていなかったこの段階では,Hの営業譲渡を受けることは不可能だ と思っていました。
また,営業譲渡代金は,後日,第三者機関の査定により双 方話し合いの上で決定することになっており,5億円という額は確定したもの ではなかった上,そもそも,その対象もHの営業権なのか,Hの株式なのかは っきりと決まっていない状況でした。」などと供述したり,被告人Bが「当社 は,営業譲渡代金という名目で5億円を支払ったものの,増資の時点では,譲 渡の時期や,方法,金額等が確定しておらず,その後の資産査定や,また,民 事再生手続中でしたので,裁判所の許可等の手続を経なければならず,その当 時は,営業譲渡が本当に実行されるかどうかの確証もなく,正直なところ,増 資を行うのに併せて,名目上,営業譲渡という形を取って5億円を支払ったに すぎませんでした。」などと供述したりしている点は,かかる認識があったこ とを裏付けるものということができるし,被告人Cが「本件営業譲渡は,店舗 の賃借権を例えばDさんに渡すとか,あるいは従業員を丸ごと渡すとか,そん な話じゃなくて,会社ごと渡すというイメージでした。
HがDさんの子会社に なるというような感じですね。」などと供述する一方で,「営業譲渡後にHで 売り上げたお金は,まずHに帰属する。
Dさんのメリットとしては,株式配当 としては受け取れるかも分からないですけど。」などといった矛盾した供述を している点も,かかる認識があったことを推認させるものといえる。
そして,それらの事情についての認識があった以上,被告人ら3名は,いず れも,11億4680万円のうち営業譲渡代金として処理された5億円分に関 しては,Dに「実質的な資産」が帰属していないことを認識していたものと認 定するのが相当である(なお,上記第3の2(4)のとおり,Hの営業の客観的 な価格が5億円もの高額ではなかった点は,Hの代表取締役でもあった被告人 Cについては,当然にそのことを認識していたものと推認できるが,Dの役員 であった被告人A及び被告人Bについては,かかるHの内情までをも認識して いたかは必ずしも定かでない。

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