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主文

1被告A,被告B,被告C,被告D及び被告Eは,原告訴訟引受人(株式会社整理回収機構)に対し,連帯して,金2億円及びこれに対する平成11年12月30日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
2被告A,被告B,被告F,被告C,被告G及び被告Hは,原告訴訟引受人に対し,連帯して,金3億円及びこれに対する被告A,被告B,被告F,被告C及び被告Hについては平成11年12月30日から,被告Gについては平成11年12月31日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
3被告A及び被告Bは,原告訴訟引受人に対し,連帯して,金4000万円及びこれに対する平成11年12月30日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
4被告A,被告B,被告C,被告I及び被告Kは,原告訴訟引受人に対し,連帯して,金1億円及びこれに対する平成11年12月30日からから支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
5被告J,被告A,被告B,被告F及び被告Gは,原告訴訟引受人に対し,連帯して,金4億円及びこれに対する被告J,被告A,被告B及び被告Fについては平成11年12月30日から,被告Gについては平成11年12月31日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
6被告A,被告B,被告C,被告I及び被告Kは,原告訴訟引受人に対し,連帯して,金5億5950万円及びこれに対する被告A及び被告Cについては平成12年7月14日から,被告B及び被告Iについては平成12年7月18日から,被告Kについては平成12年7月19日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
7被告A,被告B,被告C及び被告Iは,原告訴訟引受人に対し,連帯して,金1億8760万円及びこれに対する被告A及び被告Cについては平成12年7月14日から,被告B及び被告Iについては平成12年7月18日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
8被告A,被告B,被告C及び被告Kは,原告訴訟引受人に対し,連帯して,金2億5290万円及びこれに対する被告A及び被告Cについては平成12年7月14日から,被告Bについては平成12年7月18日から,被告Kについては平成12年7月19日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
9原告(株式会社国民銀行)の請求をいずれも棄却する。
10被告Kの反訴請求を棄却する。
11訴訟費用は,第1事件及び第2事件については,これを100分し,被告A及び被告Bについてはそれぞれその20の,被告Cについてはその16の,被告F及び被告Gについてはそれぞれその7の,被告Kについてはその10の,被告Jについてはその4の,被告Hについてはその3の,被告D及び被告Eについてはそれぞれその2の,被告Iについてはその9の負担とし,反訴事件については被告Kの負担とする。
12この判決は第9項及び第10項を除き仮に執行することができる。

事実及び理由

第1請求

1原告の請求
(1)被告A,被告B,被告C,被告D及び被告Eは,原告に対し,連帯して,金2億円及びこれに対する平成11年12月30日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
(2)被告A,被告B,被告F,被告C,被告G及び被告Hは,原告に対し,連帯して,金3億円及びこれに対する被告A,被告B,被告F,被告C及び被告Hについては平成11年12月30日から,被告Gについては平成11年12月31日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
(3)被告A及び被告Bは,原告に対し,連帯して,金4000万円及びこれに対する平成11年12月30日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
(4)被告A,被告B,被告C,被告I及び被告Kは,原告に対し,連帯して,金1億円及びこれに対する平成11年12月30日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
(5)被告J,被告A,被告B,被告F及び被告Gは,原告に対し,連帯して,金4億円及びこれに対する被告J,被告A,被告B及び被告Fについては平成11年12月30日から,被告Gについては平成11年12月31日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
(6)被告A,被告B,被告C,被告I及び被告Kは,原告に対し,連帯して,金5億5950万円及びこれに対する被告A及び被告Cについては平成12年7月14日から,被告B及び被告Iについては平成12年7月18日から,被告Kについては平成12年7月19日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
(7)被告A,被告B,被告C及び被告Iは,原告に対し,連帯して,金1億8760万円及びこれに対する被告A及び被告Cについては平成12年7月14日から,被告B及び被告Iについては平成12年7月18日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
(8)被告A,被告B,被告C及び被告Kは,原告に対し,連帯して,金2億5290万円及びこれに対する被告A及び被告Cについては平成12年7月14日から,被告Bについては平成12年7月18日から,被告Kについては平成12年7月19日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
2原告訴訟引受人の請求
主文と同旨
3被告Kの反訴請求
原告は,被告Kに対し,金2399万2489円及び内金1735万3108円に対する平成12年8月11日から支払済みまで年6パーセントの割合による金員を,内金663万9381円に対する平成12年12月23日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。

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第2事案の概要

本件は,原告が,貸付先に対して行った融資がいずれも回収不能となり損害が生じたとして,融資に関与した取締役である被告らに対して,取締役の善管注意義務違反を理由とする損害賠償請求権に基づき回収不能金額の一部及びこれに対する訴状送達の日の翌日から民法所定の遅延損害金の支払を求めて訴えを提起した事案である。
原告は,その後,上記債権を株式会社整理回収機構に譲渡し,同社が訴訟引受けを行っている。
これに対し,被告Kは,原告が被告Kに対する損害賠償請求権を有しないにもかかわらず,これを理由として,被告Kの定期預金及び定期積金を相殺処理するとともに,被告K所有の不動産を仮に差し押さえたとして,定期預金等の一部の払戻し及び不法行為による損害の一部の支払い,並びにこれらに対する遅延損害金の支払いを,反訴として,原告に請求している。
1争いのない事実等
(1)原告
原告は,昭和28年6月19日,株式会社國民相互銀行の商号で設立され,同月30日に相互銀行法に基づく相互銀行業の免許を受けて,翌7月1日からその業務を開始した。
原告は,その後,平成元年3月29日に銀行法に基づく銀行業の免許を受けて,同年4月1日に現在の商号に変更し,普通銀行に転換した。
原告は,バブル経済崩壊後,不良債権が拡大し続け経営が悪化し,信用不安が高まり,平成11年4月8日以降,預金者による預金引き出しの急増により,自力での資金調達及び予想される預金流出に対応することが困難となったことから,同月11日,金融機能の再生のための緊急措置に関する法律(以下「金融再生法」という。)68条1項に基づき,金融再生委員会に預金等の払戻しを停止するおそれがある旨の申出を行い,同日,同法8条1項に基づき,金融再生委員会により金融整理管財人による業務及び財産の管理を命ずる処分を受けた。
(2)被告ら
被告Jは,昭和58年4月1日から平成4年6月25日まで原告の代表取締役(平成元年3月31日までは代表取締役社長)であった。
被告Aは,平成元年6月29日から平成4年6月25日まで原告の代表取締役副頭取,同月26日から平成11年4月11日まで代表取締役頭取であった。
被告Bは,平成元年6月29日から平成5年3月31日まで原告の常務取締役,同年4月1日から平成6年6月28日まで代表取締役専務,同月29日から平成11年4月11日まで代表取締役副頭取であった。
被告Fは,平成元年6月29日から平成5年6月29日まで原告の代表取締役専務であった。
被告Cは,昭和63年4月1日から平成5年3月31日まで原告の常務取締役,同年4月1日から平成10年6月26日まで代表取締役専務であった。
被告Dは,平成5年4月1日から平成9年6月27日まで原告の常務取締役であった。
被告Gは,平成3年6月27日から平成6年3月31日まで原告の常務取締役であった。
被告Iは,平成7年6月29日から平成11年4月19日まで原告の常務取締役であった。
被告Kは,平成9年6月27日から平成11年4月19日まで原告の常務取締役であった。
被告Eは,平成5年6月29日から平成8年10月31日まで原告の取締役本店営業部長であった。
被告Hは,平成元年6月29日から平成5年8月31日まで原告の取締役新宿支店長の地位にあった。
(3)原告における融資手続及び決裁権限者
ア融資の手続
原告においては,支店と本店営業部とを併せて「営業店」と呼んでおり,また本店から本店営業部を除いた組織を「本部」と呼んでいた。
原告における融資手続は,まず,営業店において,貸付案件を受け付け,営業店長,次長,渉外課長,融資課長,営業課長及び担当者等を含めた店内協議を行い,貸付案件の内容の検討・審査を行い,その経過を店内融資協議書に記録し,営業店長が申込み受理の可否を決する。
申込み受理を可とされた案件のうち支店長専決案件以外のものは,営業店において稟議書を起案し,本店審査部に稟議を求める。
本部審査部においては,営業店からの稟議内容の審査・検討を行い,融資稟議書に審査部としての意見を付して,融資の決裁権限者の決裁に回すというものであった。
イ融資の決裁権限者
原告における融資の決裁権限は,貸付先の貸付残高に応じて定められており,一般取引先については,以下のとおりであった。
貸出残高5億円以上の取引先頭取
貸出残高3億円以上5億円未満の取引先担当常務
貸出残高2億円以上3億円未満の取引先審査部長
貸出残高2億円未満の取引先審査部副部長
本件において問題となる融資は,いずれも貸出残高5億円以上の一般取引先に対する融資であり,頭取が決裁権限者であった。
ウ融資審議会
頭取が決裁権限を有している案件のうち,一般取引先の増額1件につき1億円以上の案件等については,融資審議会に付するものとされていた。
融資審議会の構成メンバーは,頭取,副頭取,専務,頭取が指名する常務,審査部長及び審査部長が指名する審査部副部長又は審査部次長であり,副頭取,専務又は常務2名以上の出席を要するものとされていた。
頭取が融資審議会の構成メンバーとなったのは,平成7年10月11日以降であり,同日以降,与信額が20億円以上の貸付先に係る案件については,頭取の融資審議会への出席が義務づけられた。
(4)本件各融資の概要
ア有限会社陶陶商事(以下「陶陶商事」という。)に対する融資
原告は,平成6年12月14日,陶陶商事に対し,最終返済期限を平成27年11月20日と定めて2億5900万円(以下「本件融資1」という。)を貸し付けた。
被告Eは担当部店である本店営業部長として,被告B,被告C及び被告Dは融資審議会のメンバーとして,被告Aは融資決裁権限者として,本件融資1に関与した。
イ株式会社トーコー(以下「トーコー」という。)に対する融資
原告は,トーコーに対して,平成4年12月24日,返済期限を平成5年12月24日と定めて,11億7000万円(以下「本件融資2」という。)及び1億円(以下「本件融資3」という。)を貸し付け,平成5年1月29日,返済期限を平成6年5月31日と定めて,1億円(以下「本件融資4」という。)を貸し付けた。
被告Hは新宿支店長として,被告F,被告C,被告B及び被告Gは融資審議会のメンバーとして,被告Aは融資決裁権限者として,本件融資2ないし4に関与した。
ウ株式会社トーコーアドに対する融資(以下「トーコーアド」という。)原告は,平成9年6月10日,トーコーアドに対して,返済期限を平成16年6月6日と定めて,5500万円(以下「本件融資5」という。)を貸し付けた。
被告Bは審査部及び監査部担当の代表取締役副頭取として,被告Aは融資決裁権限者として,本件融資5に関与した。
また,原告は,平成9年7月30日,トーコーアドに対して,返済期限を平成16年7月6日と定めて,1億1500万円(以下「本件融資6」という。)を貸し付けた。
被告B,被告C,被告I及び被告Kは融資審議会のメンバーとして,被告Aは融資決裁権限者として,本件融資6に関与した。
エ国際販売株式会社(以下「国際販売」という。)に対する融資
原告は,平成4年2月6日,国際販売に対して,返済期限を同年4月3日と定めて13億円(以下「本件融資7」という。)を貸し付けた。
被告A,被告F,被告B及び被告Gは融資審議会のメンバーとして,被告Jは融資決裁権限者として本件融資7に関与した。
オカミパレス株式会社(以下「カミパレス」という。)に対する融資原告は,カミパレスに対して,平成9年7月31日から平成10年6月1日までの間に,別紙1「貸付債権一覧表」(省略)記載のとおり20件,合計90億5100万円(以下「本件融資8から27」という。)を貸し付けた。
なお,被告Aは融資決裁権限者として本件各融資に関与(本件融資16については,被告Bの代決及び被告Aの承認)した。
また,被告B及び被告Cは本件各融資につき,被告Iは,本件融資8,10,12ないし15,17ないし26につき,被告Kは,本件融資8,9,11ないし13,15ないし21,24ないし27につきそれぞれ審議をした融資審議会のメンバーであり,いずれの融資も融資を可として上位者の決裁に回したものである。
(5)訴訟引受け
原告は,平成12年8月14日,被告らに対する本件訴訟による損害賠償請求権を原告訴訟引受人に譲渡し,同日付の書面で被告らに対してこれを通知し,同通知は翌日被告らに到達した。
(甲A12の1及び2,甲A13の1ないし11)
原告から,平成12年9月26日,原告訴訟引受人に本件訴訟の引受けを命ずる旨の裁判の申立てがなされ,当裁判所は,同年10月23日,原告訴訟引受人に本件訴訟を引き受けることを命じる決定を行い,原告訴訟引受人により訴訟の引受けがなされた。
なお,被告らは,原告が本件訴訟から脱退することを承諾していない。
2争点
(1)全般にかかわる主張
(原告及び原告訴訟引受人の主張)
ア融資における経営判断について
(ア)取締役は,会社との間で委任関係に立ち(商法254条3項,民法644条),取締役としての職務を行うにつき受任者としての善管注意義務を負う。
すなわち,取締役は,社会通念上,取締役たる地位にある者に通常要求される注意をもってその職務を行うことが要求される。
また,取締役は,その職務を遂行するにあたっては,法令及び定款の定め並びに総会の決議を遵守し,会社のために忠実にその職務を遂行する義務も負っている(商法254条の3)。
(イ)銀行の取締役は,融資を実行するに当たり,安全性の原則,収益性の原則,成長性の原則,流動性の原則及び公共性の原則の5原則を考慮しなければならないが,その中でも安全性の原則を最も慎重に吟味すべきである。
安全性の原則とは,融資の可否を判断する際には,融資金が当初の約定どおりに間違いなく安全に回収されることを第一に検討するということである。
預金の受入れ等により資金調達をし,これを貸し付けることによりわずかな利ざやを稼ぐ銀行業務において,万が一,融資金が回収不能となった場合には,当該銀行の収益を大きく圧迫し,その存立基盤さえも危うくさせることになるのであるから,銀行の公共的性格からも,安全性の原則が他の原則に優先することは自明のことである。
すなわち,銀行の場合には,一般の事業会社と比べれば許容されるリスクの程度が限定され,取締役の裁量の幅がその分だけ一般の事業会社の取締役より狭いというべきである。
したがって,銀行の取締役は,現在及び予想しうる将来の経済情勢
(景気の動向,資産の価格の動向,各業界の発展・衰退の動向を含む)を踏まえて,融資先企業の業種,規模,業績,経営者の能力及び保有資産並びにこれらを前提とする当該企業の発展の見込み等の当該企業の経営状況全般のほか,予定されている返済資金の調達方法とその方法による調達の見込み,従前の融資金の返済状況,当該融資の必要性,当該融資に係る担保の性質・内容・価値等の諸事情を総合勘案し,融資金の回収可能性について十分に検討した上で,当該融資を実行すべきかどうかを判断する必要がある。
そして,銀行の取締役は,上記諸般の事情を総合勘案し,融資金の回収可能性について検討した結果,融資金の回収が困難であると判断される場合には,当該融資を決裁し,あるいはこれを推進するような行為をしてはならないのであり,この義務を怠った場合には,当該融資金が回収不能となったことによる損害を賠償する責任を負わなければならない。
(ウ)被告らは,第二地銀は都銀と異なり,担保の十分でない取引先にも融資を行う必要があり,自己の償却体力も勘案しつつ,収益確保の観点も含めて総合的に融資の可否を判断すべきであり,安全性の原則のみによることはできない旨主張するが,銀行においては一般の事業会社に比べて許容されるリスクが限定されることは既に述べたとおりであり,取引先が十分な資力を有しない場合が多いというのであれば,融資にあたってはより一層慎重な検討を要するのであって,安全性の原則を無視して良いということにはならない。
イ融資審議会の機能とメンバーたる取締役の責任
(ア)原告においては,頭取が決裁権限を有している案件のうち,一般取引先の増額1件につき1億円以上の案件等については,「融資審議会に付する。」ものとされていた。
融資審議会には,重要な案件について,決裁権限者である頭取の独断を排し,回収可能性等を検討して,慎重に融資の可否について審議をし,貸付不適格と判断される案件につき,頭取に対し適切な意見を述べる等することを通じて頭取の決裁を阻止することが期待されていた。
融資審議会に出席した取締役は,融資金の回収が困難であると判断される場合には,決裁権者の融資実行を阻止すべき義務があり,この義務に違反して当該融資の実行を看過した場合には善管注意義務違反がある。
(イ)原告の組織体制を前提とすると,取締役において部下が調査した事案について,これを信頼することは許されるが,稟議書に記載された事実を総合的に判断して,問題がある場合には,これを質すべきであり,部下の判断をそのまま鵜呑みにすることまで許容されるものではない。
本件各融資には,稟議書及びこれに添付された書類から回収可能性に疑念を抱くべき事情があったのであるから,これを看過し部下の判断を鵜呑みにしたことは取締役としての任務懈怠がある。
ウ原告の破綻回避のための融資継続の相当性
金融機関において「安全性の原則」は,融資の利息と預金者に対する利息の間のわずかな差額が金融機関の利益であるという点やその行う事務の公共性等に照らして,絶対的な要請と考えられるべきである。
したがって,回収可能性のないことが判っているのに,金融機関自体の破綻を回避するために融資するというようなことは到底正当化されない。
仮に,破綻回避融資が正当化される場合があるとしても,それは金融機関が再建できる,つまり破綻を回避できると判断されるような事情が必要であり,金融機関自体の再建時期を明確にした確実な再建計画なくして融資を継続することは,先送りに過ぎず,その分損失を拡大させることになり許されない。
本件各融資は,仮に破綻回避を目的とするものであったとしても,このような観点からいずれも許容されないものであった。
(被告らの主張)
ア融資における経営判断について
(ア)取締役の経営判断が善管注意義務に違反するか否かの審査は,取締役の経営判断の内容を意思決定の過程とその内容に区別し,その双方について通常の企業人として著しく不合理なものといえない限り,善管注意義務に違反するものではなく,取締役の裁量権を尊重する観点から,経営判断の過程については厳格に審査するものの,経営判断の内容については謙抑的に審査されるべきである。
そして当該審査は,取締役によって当該行為がなされた当時における会社の状況及び会社を取り巻く社会・経済・文化の下において,当該会社の属する業界における通常の経営者の有すべき知見及び経験を基準とすべきである。
(イ)金融機関は,国民経済そのものに直結する影響力を持ち,日本経済全体のマクロ的視点からの動きを敏感に読みとり,あるいは国の政策変更にも迅速に対応することが要求される。
また,金融機関の取引先となる貸出先の業種が多種多様にわたることからして,各業種ごとの専門的知識と業界の最新情報をその都度補いつつミクロ的に判断し,リスクを回避するぎりぎりの線を見極め,新規有望産業に融資を行うという,投機的ともいいうる判断を要求される。
このように,金融機関においては,マクロ的な視点とミクロ的な視点のバランスをとりつつ,金融政策の実現と,最大限の利益を追求することの二面性が要求されるのであり,金融機関の取締役の経営判断における裁量の幅は,他の一般企業の取締役の裁量の幅よりも広いことを承認すべきである。
特に,原告のようないわゆる第二地銀においては,その資金力,信用供与能力(同一債務者宛融資限度規制),取引条件(第二地銀のコスト高から来る貸出金利高)などから,貸出先は零細企業も含めた地元企業が中心となる。
したがって,第二地銀は,信用に全く問題のない企業とのみ取引していたのでは経営が成り立たないし,融資において保全不足を問題としていたのでは融資先は極めて限られてしまうのであって,保全不足となる場合があることを前提として,融資案件の採算性,融資先企業の収益力,将来性及び成長性等の単純に数値化できない部分をもその取引先の信用力に加味した上で総合判断を行い,融資の可否を決するのである。
また,銀行は,単なる貸金業者ではなく,取引先の企業の育成をも社会的使命とするものであり,景気の低迷により一時的に資金繰りが困難となり利息の延滞が生じたような場合に必要な事業資金を融資しなければ,当該取引先の経営が苦しくなり,既往の融資金も回収できなくなる可能性があることからすれば,直ちに事業資金の融資をストップするようなことはせずに,金融支援を行い取引先の業容の回復を図るのが普通である。
資金繰りの悪い企業について,融資を継続すべきか否かは,高度の経営判断であり,原告の主張するような単純な融資に関する一般原則に反するか否かだけで判断されるものではない。
このように,第二地銀は,都銀と比較して,高い貸倒れリスクを内在しつつ経営がなされるため,毎年相当額の貸倒れが発生しているが,これを償却しながらそれ以上の収益を上げて経営を継続しているのであり,融資の可否の判断にあたっても,自行の償却能力を勘案しつつ,収益確保の観点も含めて総合的に判断することになる。
したがって,第二地銀たる原告の融資にはそもそも全くリスクのないものは一つもないのであり,融資稟議書を個別の融資ごとに検討すれば何らかのリスクを内在しているのは当然であり,そのことをもって違法な融資であるということはできない。
融資を可とした判断が違法か否かは,単にその融資にリスクが存したか否かの観点ではなく,そのリスクが当時の原告として許容されるリスクといえるか否かの観点
から考察されなければならないのであり,原告のような金融機関が少しでもリスクがあると融資してはならず,一切貸倒れを生じさせてはならないかのような主張は,すべての金融機関が毎年多額の償却を行いつつ健全に経営されている実態を無視したものであるといわざるを得ず失当である。
イ融資審議会の機能とメンバーたる取締役の責任等
(ア)融資審議会の設置目的は「融資案件の審議」,「大口貸出先個社別与信限度の決定」及び「優遇貸出先格付の決定」を行うことであり,融資審議会は,個別の融資案件については,審議はするが決裁権限はなく,また可否の結論を出すものでもなく,ただ審議会における議論の状況を通じて,決裁権限を有する頭取に参考となる意見を提供する諮問機関的な存在であり,融資を阻止する権限はなかったのであって,融資審議会の融資阻止権限を前提とする原告の主張は理由がない。
(イ)また,融資審議会に出席する取締役としては,以下に述べるような融資審議会の実状に照らすと,審査の対象について,基本的には,営業部店及び審査部での審査を経ている案件であることから,これらの段階で十分な審査を経ていることを前提とし,構成員がその知識と経験を生かして融資審議会に提出された資料に不合理な点がないか否かを検討し,当該資料に記載された事実関係を前提に,会社全体の経営状況を勘案して,大局的な観点から融資の可否について意見を述べれば,取締役としての責任を果たしたことになる。
すなわち,原告では,個々の融資案件は,まず担当営業部店で融資すべきか否かについて判断し,融資すべきであると判断した場合には,稟議書を作成して本店審査部に案件を上げ,本店審査部でその可否について審査
し,融資を可と判断したものが,融資審議会にかけられ審議されることになっていた。
融資審議会では,前日あるいは当日に配布される稟議書をもとに審議することとなっており,それ以外に大部な資料は配付されなかった。
そして,融資審議会のメンバーは,当日口頭で審査担当者から概要と補足説明を受け,その上で,配付された資料と説明から,限られた時間の中で融資の妥当性について審議を行ったのであり,時間的にも資料の細かな内容を精査することは不可能であった。
(ウ)個々の被告について
a被告Aの主張
原告においては,融資案件の審査体制は,営業店又は支店における
第一次審査,本店審査部における第二次審査及び融資審議会における第三次審査の慎重な審査を経た上で,融資が妥当であるとの結論が出た案件だけが頭取に回付されてきていたのであり,業務執行の前提となる事実認定については,巨大な組織を有する大規模な企業においては,頭取あるいは副頭取が個々の業務についてつぶさに監督することは,効率的かつ合理的な経営という観点からは適当ではないし,不可能である。
したがって,融資審議会及び頭取に提出された資料から,さらなる資料の裏付けが必要不可欠と判断されるような問題性の大きな融資案件といった例外的な場合を除き,それをもとに判断すれば足りると解するべきである。
b被告Fの主張
被告Fは,平成4年2月から平成5年1月時点まで,一貫して人事
を担当してきており,経歴からしていわゆる「審査」は専門外であった。
また,専務取締役である被告Fは,会社全体の経営を考慮する立場にあり,原告では各部門の役割が分化されており,当時の担当部が人事部・管理部・事務指導部といった総務部門の他は「業務推進部」という融資を拡大する部門を担当していたことからすれば,審査については,支店や審査部の審査内容を基本的に信頼した上で,収益性も含めた銀行全体の経営の観点からの意見を述べる立場にあった。
c被告Cの主張
被告Cは,経営管理・総務等を所管する専務取締役(あるいは常務
取締役)であり,融資業務は担当していなかった。
また,融資審議会は,定例のものでも毎週2回開催され,付議される案件も相当の数に上るが,取締役としての本来の所管業務に加え,営業店指導及び取引先訪問等の業務も抱えている現状では,融資審議会の審議だけには集中できなかった。
このような状況でも,被告Cは,融資審議会の構成員としての責務を可能な限り果たしてきた。
d被告Kの主張
被告Kは,昭和33年4月に原告に入行した後,主として経理畑を
歩んできたが,平成9年6月27日に常務取締役に就任と同時に融資審議会委員に任命された。
しかし,融資審議会においては,初めて資料が配られ5分で審議が終わってしまい,審査担当常務,審査部及び支店のいずれもが融資実行に積極的な案件についてそこで提示された資料だけから問題点を発見し,当該融資実行を制止することは,融資に精通していない被告Kにとって不可能に近い状況であった。
ウ原告の破綻回避のための融資継続の相当性
原告は,不良債権の増加,有価証券運用の失敗等による経営悪化から,平成4年4月に行われた大蔵省検査の結果,決算承認銀行に指定されたが,その後の予想もしなかった不況の長期化により,原告の経営改善は順調に進まず,むしろ悪化の一途をたどっていた。
そして,原告の貸付債権のうち,第2分類,第3分類及び第4分類の分類債権が急増し,その中でも発生した期中に全額償却する必要のある第4分類債権と50パーセント以上償却する必要のある第3分類債権が増加した。
この第3分類,第4分類債権について,当期利益を財源にして償却する場合には,平成4年9月以降は,平成5年3月期を除き,赤字となり償却財源がなくなってしまう状態であった。
このため,原告では,本来,引き当て,償却すべきである第3分類,第4分類債権の一部について償却を行うことができず,任意積立金を取り崩してこれを償却財源に充てると,資本勘定が減少する結果,資本を総資産で割った自己資本比率の低下を招来するとともに,銀行法で一取引先に対する貸付限度額が資本の20パーセントと定められているのでこの限度額も大幅に下落し,限度額以上の貸付が発生してしまう事態が生じることとなった。
自己資本比率が4パーセント未満であった原告にとって,資本勘定が減少すると,自己資本比率は著しく低下して2パーセント未満となり,一部業務停止の処分を受けかねない事態となって銀行としては信用力がなくなり,預金の取付騒ぎ等の日本の金融システム全体に対する重大な影響を及ぼす事態が発生するとともに,原告が破綻せざるを得なくなることが想定され,原告としては,資本勘定を減少させるような方法での償却はできなかった。
このような状況では,金融機関は経営状態の悪化した融資先に対する金融支援をすぐに取りやめるという措置はとらず,とりあえず金融支援をして融資先を存続させ,自己の償却能力を見ながら,償却能力の範囲内で段階的に償却し最終的には金融支援を打ち切って倒産させるというソフトランディング的な処理方法を採っている。
本件各融資においても,以上のとおり,各取引先が倒産すれば,原告において償却財源がなく,一挙に債務超過となって破綻してしまう状況にあったことから,原告の存続を図るために,各取引先を存続させてその間に資産を処分させるなどして償却可能な程度までに融資残高を減少させるために行われたものであり,異常な経済状況における金融機関として他に選択の余地がなかった止むに止まれぬ融資であり,この融資を承認したことは正当な経営判断であった。
(2)陶陶商事に対する融資についての被告らの善管注意義務違反の有無(原告及び原告訴訟引受人の主張)
ア本件融資1は,以下のとおりの問題点を有する違法なものであった。
(ア)陶陶商事の返済能力の不存在
陶陶商事の売上高は,平成6年10月の売上高が840万円(平成5年10月の売上高は1500万円),平成6年11月の売上高が880万円(平成5年11月の売上高が1300万円)となっており,本件融資1の当時,前年同期と比べて激減していた。
また,陶陶商事の平成6年7月31日現在の財産状況は,資産の部の合計は3億5540万2308円,負債の部の合計は3億9573万4935円であり,4033万2627円の債務超過であった。
このように,陶陶商事は,本件融資1当時,業績が悪化していた上,債務超過状態に陥っていた。
さらに,陶陶商事の代表者である春山一郎(以下「春山」という。)は,陶陶商事の他にも有限会社世新商事(以下「世新商事」という。)及び有限会社豊丘商事(以下「豊丘商事」という。)の代表者を務めていたが(以下,春山が代表者であった会社を総称して「春山グループ」という。),春山グループは,原告からの既存融資について延滞を繰り返し,本件融資1の稟議段階においても延滞を発生させており,さらに高利貸しから借り入れざるを得ない程,資金繰りが逼迫していた。
したがって,本件融資1の当時,陶陶商事には,もはや返済能力は存在しなかった。
(イ)大幅な保全不足
本件融資1における保全措置については,入居保証金1億3000万円の70パーセントである9100万円について質権設定がされているが,上記のとおり資金繰りが逼迫している状況では,家賃等の債務についても同様の延滞状況が発生していると解されるのが通常であり,質権に優先するオーナーの賃料債権等の担保として確保されてしまい,返済不能時点での最終的な保全措置としての担保価値はほとんど期待できないものであった。
そして,原告の春山グループに対する当時の融資残高は8億2200万円(このうち陶陶商事に対するものは3億7950万6000円)であり,保全額は,不動産担保価値9200万円とゴルフ会員権1900万円の合計1億1100万円であり,差額7億1100万円が保全不足額であった。
本件融資1実行後の春山グループに対する融資残高は,10億7983万7000円となることが見込まれたのであって,本件融資1の当時,既に,陶陶商事を含む春山グループに対する保全は大幅に不足していたのであるが,本件融資1によって保全不足額が一層拡大することとなるものであった。
なお,本件融資1に際しては,春山及び同人の妻の春山桃子が極度額なしの根保証人となっているが,春山桃子は,その正味資産は60万円にすぎず,春山個人の正味資産も60万円であったことから,人的担保としての評価はゼロに等しい。
以上のとおり,本件融資1に際しては,実質的な保全措置は全くとられていない状況であった。
(ウ)借入条件の安易な変更と審査の不備
本件融資1の借入れ条件は3度にわたって変更され,最終的には当初の申請案よりも5900万円もの増額となっていたにもかかわらず,その理由は不明確のままであった。
さらに,返済方法についても3度変更され,その都度毎月の返済額が増額されているが,これを裏付けるに足りる営業収入の増額に関する資料は一切融資稟議書に添付されておらず,返済額が増額することに伴う返済可能性についての検討が全くなされていなかった。
また,開業する店舗の営業方法についても当初の申請内容から変遷があるが,当時の春山グループの営業状況からして到底実現可能性があるものと解することができるようなものではなく,借入金が当初計画よりも増加したことに伴うつじつま合わせの数字が記載されているに過ぎない。
(エ)本件事業計画の実現不可能性
本件融資1は,陶陶商事が渋谷区宇田川町に新店を出店するための資金として2億5900万円を融資するというものであったが,当該出店計画は以下のとおり全く実現可能性が認められないものであった。
a計画策定の目的及び動機
原告の,本件融資1の時点における春山グループに対する融資残高
は,8億2200万円であったが,その返済が滞っている状況であり,差し入れられている担保についても不動産とゴルフ会員権を合わせて1億円余りにすぎなかった。
また,春山グループでは既存店舗の売上が激減し,店舗を順次閉鎖しており,担保で保全されていない7億円余りについての回収見込みはほぼ皆無の状況であった。
そこで,本件融資1は,これを開業資金とする新規事業による売上
によって,既存融資を含めて回収することを目論む,一発逆転的発想によるものであり,その考え方自体が相当ではない。
b売上計画の問題点
売上計画は,本件融資1及び既存貸付の毎月の返済分の合計額を前
提に,毎月の営業利益750万円を算定しており,返済額から逆算したつじつま合わせに過ぎず,その前提となる来客予定者数や一日の予定売上額などについては何らの客観的裏付けをも欠くものであり合理性を有しない。
現に,陶陶商事は本件融資1の実行後,わずか半年後に早くもその返済の延滞を開始しており,本件売上計画は直ちに破綻を来しており,その現実性がないことが裏付けられている。
c類似業種の事業計画との比較
本件事業計画においては,キャッシュフロー率は33.9パーセン
トと想定されていたが,これは,被告Eの提出する業種別飲食ビジネス事業計画・設計資料集(乙ヌ1)の類似業種の事業計画例によるキャッシュフロー率14.3パーセントあるいは,陶陶商事の平成6年6月段階の実績値6.99パーセントと比較しても,明らかに過大なものであった。
同様に,本件事業計画における人件費の売上比は13.7パーセントであるのに対して,乙ヌ1によるそれは22パーセント,陶陶商事の実績は28.6パーセントであり,本件事業計画においては人件費を過小に見積もっていたものといわざるを得ない。
さらに,乙ヌ1によれば,客単価が1500円から3000円の場
合,店舗規模は30から50坪であり,これ以上の規模になると初期投資の負担が大きくなりすぎ,採算がとりにくくなるとされているところ,本件事業計画においては75坪を前提としており,過大なものであった。
また,乙ヌ1では,賃借料は,坪8000から1万5000円,初期投資額が1億2000万円として売上高予測を行っているのに対して,本件事業計画においては,賃借料の坪単価は3万5000円,初期投資は2億5900万円としており,その負担が過大であることは明らかであった。
(オ)まとめ
以上のとおり,本件融資1の当時,陶陶商事には返済能力が認められないにもかかわらず,実質的な保全措置は全くとられず,また本件事業計画についてもその実現は不可能なものであったことからして,本件融資1は,回収可能性のない不当な融資であった。
イ被告らの注意義務違反
(ア)被告A
被告Aは,本件融資1の当時,原告の代表取締役頭取として原告の業務を統括しており,本件融資1の決裁権者であり,本件融資1以前は,平成4年6月25日までは代表取締役副頭取として,同月26日以降は代表取締役頭取として,陶陶商事を含む春山グループに対する融資に関与していた。
被告Aは,従来からの春山グループに対する融資への関与並びに本件融資1に関する融資内伺書及び融資稟議書の記載内容から,本件融資1には上記のとおりの問題点があること,ひいては本件融資金の回収が困難であることを知っていたか,あるいは,少なくとも容易に知り得たのであるから,被告Aとしては,本件融資1を承認する決裁をしてはならない義務があった。
しかし,被告Aは,義務を怠り,本件融資1を承認する決裁を行った。
したがって,被告Aの本件融資1の決裁は,取締役としての善管注意義務・忠実義務に違反することは明らかである。
(イ)被告B,被告C及び被告D
本件融資1の当時,被告Bは原告の代表取締役副頭取として,被告Cは原告の代表取締役専務として,被告Dは常務取締役として,いずれも代表取締役頭取を補佐する立場にあり,かつ,融資審議会の構成メンバーであった。
被告B,被告C及び被告Dは,本件融資1に関する融資内伺書及び融資稟議書の記載内容から,本件融資1に上記のとおりの問題点があること,ひいては本件融資金の回収が困難であることを知っていたか,あるいは,少なくとも容易に知り得たのであるから,融資審議会において本件融資1について反対するなどして,その実行を制止すべき義務があった。
しかし,被告B,被告C及び被告Dは,義務を怠り,本件融資1に反対するなどせず,融資審議会において本件融資1を承認して被告Aに融資稟議書を回付した。
したがって,被告B,被告C及び被告Dの行為が取締役としての善管注意義務・忠実義務に違反することは明らかである。
(ウ)被告E
被告Eは,本件融資1の当時,原告の取締役であり,本店営業部長として上長の指揮を受けて営業店業務を推進・統括し,所属の職員を指揮監督する職務権限を有していた。
被告Eは,平成3年5月13日から平成8年10月30日まで本店営業部長(平成5年6月29日以降は取締役)を務めており,陶陶商事に対するすべての融資に営業店長として関与していた。
被告Eは,上記関与並びに本件融資1に関する融資内伺書及び融資稟議書の記載内容等から,本件融資1には上記のとおりの問題点があること,ひいては本件融資金の回収が困難であることを知っていたか,あるいは,少なくとも容易に知り得たのであるから,本件貸付の申込みを拒絶するなどして,本件融資1の実行を阻止すべき義務があった。
しかるに,被告Eは,上記義務を怠り,かえって,陶陶商事からの本件融資1についての申込みを受けて,本件融資1を終始積極的に推進し,融資稟議書を作成した上で,本件融資1を承認し,融資稟議書を上位者を通じて被告Aに回付した。
したがって,被告Eの行為が取締役としての善管注意義務・忠実義務に違反することは明らかである。
ウ損害
陶陶商事は,すべての店舗経営に失敗し,平成10年9月15日を期限として,最後の店舗からも立ち退き,事業の実態はなくなったため,原告の陶陶商事に対する融資金残金の回収が不可能となった。
陶陶商事は,本件融資1について,平成9年3月28日までの間に,合計1728万円を返済したため,その残金は2億4172万円となっていたところ,同年4月28日,別口の融資金の残金と一本化され,4億1400万円の融資金とされていた。
その後,陶陶商事は,合計550万円を返済したが,一本化される前の2億4172万円に充当したとしても,本件融資1の貸付残高は2億3622万円となり,同額の損害を被った。
よって,被告A,被告B,被告C,被告D及び被告Eに対し,連帯して内金2億円及び遅延損害金の支払を求める。
(被告らの主張)
ア被告Aの主張
被告Aは,融資審議会からの報告や融資稟議書の検討から,現状のままでは陶陶商事に対する既存融資金の回収が困難であること,他方で本件融資1を前提とする事業計画は,前例のない24時間営業の新規店舗を開業するものであり,売上の大幅な増加が見込まれたこと,資産売却等のリストラ計画の下にリストラが推進されており,収支の改善が見込まれたこと,陶陶商事は平成5年中までは順調に業績を伸ばしていたこと,融資審議会も本件融資1に賛成していたことなどから,保全が万全とはいえないとしても,本件融資1を実行して既存貸付も含めて回収を図るべきであると判断して決裁をした。
したがって,被告Aの判断は,取締役の裁量の範囲内にとどまるものであり,善管注意義務に違反しない。
イ被告Bの主張
被告Bは,本件陶陶商事に対する融資については反対意見であり,融資内伺についての融資審議会でも反対意見を述べたのであり,本件融資内伺の融資審議会は3回も開催された。
最終的には,本件の担当者である本店営業部長の被告Eによる,経営状態が悪化している陶陶商事に対する既存の融資金の回収を図るためにも,新規事業資金を融資して新規事業をやらせる必要があるとの説明を信じ,消極的ながら賛成した。
しかし,被告Bは,陶陶商事の経営者である春山に,本件融資1を受けて渋谷にバイキング専門店を出店し,既存の融資金を含めて確実に返済する意思が本当にあるのかを確認する必要があると考え,融資審議会で「春山の意思が確認できれば,再度のチャンスを与えてもよい。」旨の発言をし,さらに,その意思を自ら確認するため,平成6年12月6日に春山夫婦に直接面談したりした。
以上のとおり,被告Bは,本件融資1について当初反対意見を述べたり,経営者の能力,意思を自ら確認するなど,副頭取としてできるだけの義務を果たしており,善管注意義務,忠実義務違反はない。
ウ被告Cの主張
被告Cは,融資審議会で配付された資料からして,本件融資1について疑問が残ったので,「10億円以上の資産家の保証が必要である。」旨の発言をしたのであり,当該融資について慎重な態度で臨むように意見を表明し,取締役としての責任を果たしている。
エ被告Dの主張
被告Dは,陶陶商事に関する融資審議会において,審査部職員の説明及び当日配布された資料に基づいて,陶陶商事の代表者である春山が従来その経営に失敗を重ねており,税金の滞納等があることからすれば,経営能力のないことが明らかであるから,追加融資に対する返済の可能性が危ういため,融資には反対であると意見を述べた。
しかし,被告Eなど長年中小零細企業を対象に融資実務を担当してその体験の豊富な委員たちが,貸し増しによって経営が回復し,貸出金の回収可能な状態になることを目指すことができると説得され,被告Dは,原則論を述べるのみの反対論には限界があると判断をし,平成6年11月30日に開催された融資審議会において,「可」の部分に押捺した。
以上のとおり,被告Dは,その義務を果たしたのであり,原告に対して損害を賠償する責任はない。
オ被告Eの主張
本件融資1が持ち込まれた当時,陶陶商事に対する既存の融資残高は8億2200万円で,担保は不動産担保とゴルフ会員権を併せて1億1100万円しかなかった。
そして,春山グループでは既存店舗の売上が減少し,順次閉鎖していたのであり,担保で保全されていない既存の融資金を回収できる見込みは皆無であったため,本件融資1を実行しなければ,7億円以上の損失が出ることが明らかであったが,このような償却に関する判断をし得る立場にはなかった。
他方で,本件融資1は,新規事業を前提とするものであり,新規事業が失敗すれば,新たな損失を背負い込むことになるものであったが,新規事業が成功すれば,既存の融資を含め融資金を回収できる唯一の方法でもあった。
そこで,被告Eは,事業計画の検討を行ったところ,その内容は,出店予定の新規店舗については,控えめな売上数値及び妥当な経費の額で構成されており,立地条件は極めて有利で,計画されている中華料理店の業態は新しい業態のニューチャイニーズで対象客層とよく適合していることが認められ,事業計画を遂行すれば,既存融資金の回収が可能であると判断された。
ただし,同時に,新規店舗の出店にはかなりの多額の新規融資が必要であった。
そこで,当時,被告Eは,本店営業部長である使用人兼務取締役であり,原告の経営に関する事項を大所高所から判断するに適した立場になく,新規融資については当然リスクも内包し金額も多額であるため,償却の問題も含めて融資内伺制度を利用して本部の判断を仰ごうと考え実行したのであり,被告Eは,自らに課せられた具体的義務を忠実に果たしたのであって,原告に対して損害を賠償する責任はない。
被告Eの判断の内容は以上に述べたとおりであるが,本件事業計画は乙ヌ1記載の類似業種の事業事例と比較しても遜色ないものであり,本件事業計画は客観的にも実現可能性を有していたことは明らかであるから,被告Eにおいて注意義務違反を問われる理由はない。
すなわち,業種別飲食ビジネス事業計画・設計資料集(乙ヌ1)によれば,点心・飲茶を主体とした中華居酒屋における店舗規模が40坪(80席),客単価が2800円,年間売上高が2億1600万円とされ,点心・飲茶スタイルの居酒屋における店舗規模が営業面積25坪(64席),客単価が3000円,年間売上高が2億0736万円,中華ファミリーレストランにおける店舗規模が72席,客単価が時間帯により750円から1200円,営業時間が午前11時から深夜1時30分,月商が1420万円とされていたところ,本件事業計画における店舗規模は75坪(120席),客単価は時間帯により700円から2500円,営業時間は24時間,年間売上高は2億6700万円,月商は2190万円とされており,本件事業計画の
予想売上数値は,前記の事例と比較しても控えめなもので,現実感がある妥当な数値であった。
また,仮に本件事業により本件融資1及び既存融資分の全額の回収ができなくとも,本件融資1以上の回収が図られれば,本件融資1を実行するメリットはあったというべきであり,この点からも被告Eの判断には合理性があったというべきである。
(3)トーコーに対する融資についての被告らの善管注意義務違反の有無(原告及び原告訴訟引受人の主張)
ア本件融資2,3及び4は,以下のとおりの問題点を有する違法なものであった。
(ア)返済能力の不存在
本件各融資の当時,原告は,トーコーの格付をCランク(企業の内
容,取引振りから見て,現状維持の先又は現状維持を図りながら,実際の把握を行い,今後改善を図るとともに格上げを図っていく先)としており,営業利益は,平成4年8月期には1100万円の黒字であったが,平成3年8月期には5500万円の赤字であり,経常利益も,平成3年8月期及び平成4年8月期の2期連続で赤字であった。
また,平成4年9月以降,トーコーの流動性預金の平均残高は急減しており,融通手形のやりとりが開始され,手形割引金額も急増するなど資金繰りにも余裕がなかった。
原告は,本件融資2及び3の当時,トーコーに対し8億9561万4000円の債権を有していたが,トーコーの営業収益からは元金の返済が不可能な状況に至っており,融資金残金のうち6億1000万円については大蔵省の検査により長期固定を理由として第2分類として査定されている状況にあった。
よって,本件融資2ないし4の当時,トーコーには返済能力が認められなかった。
(イ)大幅な保全不足
本件融資2及び3の実行前の原告のトーコーに対する融資残高は,8億9561万4000円であり,保全不足額は約3900万円であった。
ところで,本件融資2ないし4に対する担保は,東京都渋谷区富ヶ谷○丁目○○番○○の土地(以下「富ヶ谷物件」という。)に極度額10億1000万円の根抵当権を設定し,併せて,静岡県伊東市十足の土地建物(リゾートマンション)に極度額3億円の根抵当権を追加設定するというものであったが,伊東市のリゾートマンションについては,既に,原告の別債権の担保として極度額3億円の根抵当権が設定されており,担保余力はほとんど存在しなかった。
このため稟議書の記載上も本件融資2及び3の実行後の保全不足額は6億5500万円となり,本件融資4実行後のそれは8億1200万円
となり大幅な残金不足が出ていた。
しかしながら,上記は富ヶ谷物件の価格を10億1000万円としてのものであるが,実際には富ヶ谷物件の当時の時価は4億9500万円にすぎなかったことから,これを前提として原告の担保評価規程により64パーセントの減価を行うと,本件融資2及び3実行後の保全不足額は9億8400万円,本件融資4実行後のそれは11億4100万円となり,実際の保全不足額は稟議書記載の保全不足額をさらに大幅に上回るものであった。
(ウ)事業計画の実現可能性の不存在
本件融資2から4は,トーコーの「富ヶ谷健康センター建設プロジェクト」に対するものであったが,その事業計画は以下のとおり極めてずさんであり実現可能性が認められないものであった。
そして,実際にも,上記事業計画は実現しなかったのみならず,富ヶ谷物件の購入に際して実現に向けた計画が検討された事実も窺われない。
a企業体力を無視した過大融資
トーコーが原告に提出した事業計画書によれば,プロジェクト全体
の投資金額を23億1000万円とし,入会金7億円分を除いた16億1000万円を,借入金により調達し(本件融資2及び3の時点),あるいは,プロジェクト全体の投資金額26億4550万円とし,入会金8億円分を除いた18億4550万円を借入金により調達する(本件融資4の時点)ものであった。
しかしながら,トーコーの資本金はわずか200万円であり,従業員80人と決して大きいとはいえない株式会社であり,平成3年8月期及び平成4年8月期と2期連続経常赤字であった。
そのうえ,トーコーは,「伊東リゾートマンションプロジェクト」に失敗し,多額の借入金に対する金利負担が発生したことにより,業績が悪化していた。
そして,本件融資2
ないし4の当時,トーコーは,既存融資金のうち6億1000万円について,元金の返済が不可能な状態に至っていたため,原告のトーコーに対する債権は長期固定化を理由として大蔵省により第2分類として査定されていた。
したがって,トーコーには,「富ヶ谷健康センタープロジェクト」
に投入することのできる自己資金が全くない状況であった。
以上のような状況にあるトーコーが,原告からさらに13億700
0万円もの多額の借入れをした上で,23億1000万円ないし26億4550万円もの巨額の資金を投入して本件プロジェクト事業を計画するなどということは,明らかに過大投資であり,トーコーの財務内容を一層悪化させる危険性が高かった。
b営業利益の実現不可能性
本件事業計画は,渋谷区富ヶ谷に「健康センター」を建設すること
により,初年度から年間8億2600万円の収入をあげて,5億3160万円の支出を控除した2億9440万円の年間営業利益を実現しようというものであった。
しかしながら,その積算の前提となる個々人の収入項目について一人当たりの利用単価や1日あたりの利用人数は客観的な裏付けを全く欠くのみならず,事業開始の初年度から毎年2億9440万円の営業利益を実現できるという収支予測は当時の一般的な会員制ヘルスセンターの経営の実態からかい離したものであった。
c資金計画の不合理性
本件融資2及び3の時点で提出された本件事業計画では,23億1
000万円の創業費が計上されているが,これに対する収入として会員権の入会金7億円が見込まれている。
しかし,本件当時は既にバブル経済が崩壊しており,会員権販売による7億円もの資金調達が実現可能であったのか疑わしかった。
さらに,創業費と入会金との差引き金額である16億1000万円のうち,原告からの借入金である本件融資2及び本件融資3の合計12億7000万円以外の分である3億4000万円については,事業計画書上,これをトーコーがどのような方法により調達するのか全く言及されてはいない。
したがって,プロジェクト全体に必要な資金である23億1000万円のうち,原告の融資金12億7000万円を控除した残額10億400
0万円については,資金調達の具体的な実現可能性はなく,本件事業計画は,不確実な資金計画を前提とするものであった。
そして,このことは本件融資4の時点で提出された事業計画についても同様に当てはまるものであった。
(エ)「飛ばし」目的の融資であることについて
本件融資2から4は,上記のとおり回収困難なものであったが,そのような本件融資2から4をあえて実行したのは,本件各融資が不良債権を「先送り」させる目的で,いわゆる「飛ばし」を実現するために実行されたものだったからにほかならない。
すなわち,本件融資2は,倒産した地創工業株式会社(以下「地創工業」という。)所有の担保不動産をトーコーに時価を著しく上回る価格で購入させ,当該購入代金によって,地創工業に対する原告及び原告の子会社であるこくぎんリース株式会社(以下「こくぎんリース」という。)の合計9億円の不良債権を回収したという形式を整え「先送り」し,「飛ばし」を実現するために実行されたものであった。
また,本件融資3及び4は,当該「飛ばし」の受皿となってくれたトーコーに対する「謝礼融資」として実行されたものであった。
このように不良債権の「先送り」,「飛ばし」の目的で本件融資2から4を実行すべきであるという結論が先行しているため,本件融資2から4に対する審査は,形式的なものにとどまり,実質的な審査は全く行われなかった。
(オ)まとめ
よって,本件融資2から4は回収困難であることが明らかであるにもかかわらず,本件融資2は不良債権の「先送り」,「飛ばし」として,本件融資3及び4はそのための「謝礼融資」として実行されたものであり,預金者から集めた資金を安全確実に運用すべき責任(安全性の原則)を負う銀行の行う融資としては,到底許されるものではなく,違法な融資であることは明らかである。
イ被告らの注意義務違反
(ア)被告Aの責任
被告Aは,本件融資2から4の当時,原告の代表取締役頭取として原告の業務を統括しており,本件融資2から4の決裁権者であった。
したがって,被告Aは,銀行の取締役として,諸般の事情を総合勘案し融資金の回収可能性について検討した結果,融資金の回収が困難であると判断される場合には,当該融資を推進するような行為をしてはならないことはもちろん,当該融資を決裁してはならない善管注意義務・忠実義務を負っていた。
しかし,被告Aは,融資稟議書の記載内容等から本件融資金の回収が困難であることを認識していたか,あるいは,少なくとも容易に認識し得たにもかかわらず,回収困難である違法な本件融資2から4を承認する決裁を行った。
また,被告Aは,1本件融資2及び3の受付日(平成4年12月21日)前である平成4年12月11日ないし同月16日ころに,被告Hから本件処理案の説明を受けてこれを了承し,2平成4年12月16日午前10時に,トーコーの社長である夏川太郎と面談して,同人に対してトーコーが本件土地を引き取るのであればトーコーに対して全面的に支援すると述べるなどして,金額は明確にしなかったもののトーコーに対して運転資金としての謝礼融資を行うことを約束し,3平成4年12月16日午後6時に,秋野八丁堀支店長(以下「秋野」という。)に対して,被告Hが発案した処理案に基づく10億円以上の融資及び謝礼融資としての運転資金1億円の融資をトーコーに行ってよい旨回答するなど,回収困難である違法な本件融資2か
ら4を推進するような行為をした。
以上により,被告Aは,本件融資2から4について,銀行の取締役としての善管注意義務・忠実義務を怠った。
(イ)被告F,被告B,被告C及び被告Gの責任
a本件融資2から4の当時,被告Fは代表取締役専務として,被告B及び被告Cは常務取締役として,被告Gは常務取締役審査部長として,いずれも代表取締役を補佐する立場にあり,かつ,本件融資2ないし4の可否を審議する融資審議会の構成メンバーであった。
したがって,被告F,被告B,被告C及び被告Gは,銀行の取締役として,諸般の事情を総合勘案し融資金の回収可能性について検討した結果,融資金の回収が困難であると判断される場合には,当該融資を推進するような行為をしてはならないことはもちろん,決裁権者の融資実行の決裁を制止すべき善管注意義務・忠実義務を負っていた。
しかし,被告F,被告B,被告C及び被告Gは,融資稟議書の記載
内容等から本件融資金の回収が困難であることを認識していたか,あるいは,少なくとも容易に認識し得たのみならず,以下に述べるとおり本件融資2が「飛ばし」であり,本件融資3及び4がその実現のための「謝礼融資」であることを知った上で,回収困難である違法な本件融資2から4に反対するなどして制止せずに,融資審議会において本件融資2から4を承認して決裁権者である被告Aに本件融資2から4に係る融資稟議書を回付した。
b被告Fの個別の事情
また,被告Fは,1本件融資2及び3の受付日(平成4年12月2
1日)前に,管理部担当常務として,被告Hの本件処理案の内容を検討した上で,原告新宿支店が1億円,こくぎんリースが7億円を回収した形となることから,上記処理案に賛成し,2平成4年12月17日に,謝礼融資として1億円の貸付を実行することに対して不安を述べた秋野に対して,被告Gと一緒に,頭取以下役員全員が承知しているので心配する必要はないとの対応をし,3平成5年1月27日に,夏川太郎から運転資金として2億円の謝礼融資の要求を受け,本部審査部において被告G及び被告Hとともに協議をした上で,「トーコーからの借入れ申込みは,資金使途が不明確であり,担保もない。
謝礼融資の金額について5億円出すという約束はしていない。
しかし,謝礼融資をすること自体は約束しているので,運転資金として1億円を追加貸付する。
ただし,今回の1億円の追加貸付で謝礼融資は打ち切る。
建物について追加貸付の要求があった場合に原告として貸付するかどうかはそのときになって考える。」という結論を出して,本件融資4の実行を決定するなど,回収困難である違法な本件融資2から4を推進するような行為をした。
c被告Gの個別の事情
また,被告Gは,1本件融資2及び3の受付日(平成4年12月2
1日)前に,管理部担当常務として,被告Hの本件処理案の内容を検討した上で,原告新宿支店が1億円,こくぎんリースが7億円を回収した形となることから,上記処理案に賛成し,2平成4年12月16日午前10時に,被告Aとともにトーコーの夏川太郎と面談して,同人に対してトーコーが本件土地を引き取るのであればトーコーに対して全面的に支援すると述べるなどして,金額は明確にしなかったもののトーコーに対して運転資金としての謝礼融資を行うことを約束し,3平成4年12月16日に,夏川太郎に対し「7億円の土地を10億円で引き取ってもらうことになるがそれでいいか。」などと念を押し,富ヶ谷物件を時価と大きくかい離した価格で買い取るこ
とにより飛ばしの受皿となることについての確認を求め,4平成4年12月16日午後3時10分に,秋野を本店審査部に呼び出し,上記処理案による貸付をトーコーに対して行うように指示し,5平成4年12月17日に,謝礼融資として1億円の貸付を実行することに対して不安を述べた秋野に対して,被告Gと一緒に,頭取以下役員全員が承知しているので心配する必要はないとの対応をし,6平成4年12月25日に,原告新宿支店で行われた地創工業とトーコーとの間における本件土地の売買代金10億1000万円の決裁手続終了後に原告新宿支店を訪れて売買等の確認を行い,7平成5年1月27日に,夏川太郎から運転資金として2億円の謝礼融資の要求を受け,本部審査部において被告G及び被告Hとともに協議をした上で,「トーコーから
の借入れ申込みは,資金使途が不明確であり,担保もない。
謝礼融資の金額について5億円出すという約束はしていない。
しかし,謝礼融資をすること自体は約束しているので,運転資金として1億円を追加貸付する。
ただし,今回の1億円の追加貸付で謝礼融資は打ち切る。
建物について追加貸付の要求があった場合に原告として貸付するかどうかはそのときになって考える。」という結論を出して,本件融資4の実行を決定するなど,回収困難である違法な本件融資2から4を推進するような行為をした。
以上により,被告F,被告B,被告C及び被告Gは,本件融資2から4について,銀行の取締役としての善管注意義務・忠実義務を怠った。
(ウ)被告Hの責任
被告Hは,本件融資2から4当時,原告の取締役であり,新宿支店長として上長の指揮を受けて営業店業務を推進・統括し,所属の職員を指揮監督する職務権限を有していた。
したがって,被告Hは,銀行の取締役として,諸般の事情を総合勘案し融資金の回収可能性について検討した結果,融資金の回収が困難であると判断される場合には,当該融資を推進するような行為をしてはならない善管注意義務・忠実義務を負っていた。
また,被告Hは,取締役会の構成員として,代表取締役の業務執行を監視する義務(監視義務)を負っていたから,決裁権者である代表取締役頭取が銀行の取締役としての義務に反するような融資案件の融資稟議書を決裁しないように監視し,必要があれば取締役会を通じて上記業務執行が適正に行われるようにする
善管注意義務・忠実義務を負っていた。
しかし,被告Hは,「飛ばし」及び「謝礼融資」からなる本件融資2ないし4の枠組みを策定し関与することにより,当然,本件融資金の回収が困難であることを認識していたか,あるいは,少なくとも容易に認識し得たにもかかわらず,監視義務を怠ったばかりか,かえって,回収困難である違法な本件融資2から4を積極的に推進した。
以上により,被告Hは,本件融資2ないし4について,銀行の取締役としての善管注意義務・忠実義務を怠った。
ウ損害
その後,トーコーは,平成5年9月16日に第1回目の,同月20日に第2回目の手形不渡りを出し,同月24日,銀行取引停止処分を受け,トーコーに対する貸付の大部分は,トーコーアドによって重畳的に債務が引き受けられた。
しかし,トーコーアドも,平成10年5月20日に銀行取引停止処分を受け事実上倒産した。
トーコー及びトーコーアドは,平成7年2月1日までの間に,本件融資2について,合計1359万0191円を返済したため,その残金は11億5640万9809円となっていたところ,同年6月5日,別口の貸付金の残金と一本化され,11億8340万9809円の貸付金とされていた。
その後,トーコーアドは,合計4893万円を返済したが,これを一本化される前の11億5640万9809円に充当したと
しても,本件融資2の貸付残高は11億0747万9809円となっていた。
また,本件融資3については,担保に供されていた不動産が任意売却され全額返済され,本件融資4についても,担保に供されていた不動産が任意売却され3000万円が返済されたことにより,融資残高は,7000万円となった。
したがって,本件融資2の残高(11億0747万9809円)と本件融資4の残高(7000万円)を合算した11億7747万9809円が原告の損害となる。
よって,被告A,被告B,被告F,被告C,被告G及び被告Hに対し,連帯して内金3億円及び遅延損害金の支払いを求める。
(被告らの主張)
ア被告Aの主張
被告Aは,融資審議会からの報告や融資稟議書の検討から,トーコーの赤字は,伊東リゾートマンションプロジェクトの借入金利負担が主たる原因であったところ,当該マンションの処分の目途がついたとされたこと,本業の広告企画制作業は,電通等の大手の取引先を有し,平成4年9月ないし11月の実績も前年度を上回るなど,順調に推移していたこと,富ヶ谷メディカルヘルスセンタープロジェクトには,カネボウが1階での漢方薬の物販を希望するなど,大手企業の支援が見込まれ,計画の実現に特に問題はないと思われたこと,保全面についても平成5年度中には不足分をカバーできると見込まれていたこと,融資審議会も本件各融資に賛成していたことなどから,本件各融資を決裁した。
よって,被告Aが,本件融資2ないし4に対して決裁を行ったことにつき,善管注意義務ないし忠実義務違反は存在しない。
イ被告Fの主張
(ア)原告は,トーコーに対する融資を実行した当時,まだ相当の償却能力を有していたのであり,当該融資が貸倒れとなったとしても十分に償却できる状況であった。
第二地銀の取締役として,リスクが皆無ではないものの万一リスクが現実化しても体力的に十分償却可能な範囲のリスクである案件について,リスクを回避できるに足る会社の経営内容,方策に相応の根拠が認められる場合,財務体質の改善を目指し,収益性を向上させるために,融資を行ってよいとの経営判断を行うことは,取締役として相当の判断であり,少なくとも経営判断における「著しく不合理」な点や「裁量権の逸脱」はなく,取締役としての注意義務違反はない。
(イ)十分な担保を取れずに融資を行う第二地銀では,銀行員が地域に密着し,頻繁に取引先を訪問することにより,社長と世間話をする中で社長の経営能力や経営状況を把握したり,店舗のにぎわい状況や事務所内の雰囲気によって商売が順調であるか否かを把握し,債権管理に役立てていたのであり,これらの事情を総合判断して融資を可とすることは何ら不当なことではない。
本件融資2ないし4に関する融資稟議書等からは,トーコーは,国民銀行の長年の優良取引先であり,業績も上向いてきて営業利益で黒字を達成しており,社長年齢も若く今後の成長が期待され,第二地銀として育成すべき企業と考えられること,懸案の伊東マンションも解決の目処が立ったこと,本件各融資案件はカネボウ薬品など有力企業が参画して成功が期待されること,国民銀行等としても本件取引によって1.2パーセントの黒字採算となるほか,既存の融資の回収につながるメリットがあることが読みとれ,被告Fはこれらの事情を考慮して融資を可と判断した。
また,トーコーは,このほかの融資とは異なり,当時の他の融資案件と同程度のリスクしかない,ごく通常の案件であったのであり,融資審議会に提出された資料・情報からして,融資を可とすることに特に不合理な点のない案件であったのであり,当時の融資審議会の性格,被告Fの経歴と立場,審議時間と与えられる資料・情報の制約からすれば,支店及び審査部の判断に異議を唱えないことに取締役として著しく不合理な点はない案件であった。
(ウ)なお,原告及び原告訴訟引受人は,本件融資2ないし4がいわゆる「飛ばし」を目的として実行されたと主張するが,「飛ばし」とは,表面上の決算の黒字を維持するために,実態のない極めて多数のペーパーカンパニーを設立し,複雑なう回融資により回収不能の融資先の物件を融資額で買い取らせ,貸倒れ損失を潜在化させる手法であって,大手金融機関の破綻後にマスコミで使われた用語で,本件各融資当時はそのような概念すら存在しなかった。
本件で物件を購入したのは,損失負担を問題とせず,むしろ損失を負担するためだけに設立されたペーパーカンパニーではなく,実態がある生きた企業であり,物件価格に妥当性・採算性があるから購入している。
国民銀行は,狭域高密度取引を推進する地元金融機関として営業しており,競売
申立てを行うと回収率も下がる上,地元で評判となって営業上も悪影響があるので,債権回収は,地元の情報網を駆使して,事業拡大を図る購入者への融資による任意売却の手法によるのが通例であり,実際に債権回収と新規融資先開拓ないし融資残高維持の両面で成功を収めてきていた。
本件もその一環であって,「飛ばし」とは全く異なる。
(エ)本件融資2及び3を実行せずに競売による場合には,原告とこくぎんリースに回収不能による合計7億円強の損失が確定するが,富ヶ谷物件の時価が8億円であるとすると本件融資2及び3を実行する場合は,仮にこれらの融資が回収不能となっても,損失は地創工業分の回収不能金1億円と本件融資2及び3の合計額12億7000万円から富ヶ谷物件の時価相当分を控除した5億7000万円の合計6億7000万円となり,かえって有利であり,本件融資2及び3を実行することは経済合理性にかなった判断であるとともに,原告には損害は発生していない。
ウ被告Bの主張
本件融資2ないし4は,原告新宿支店長であった被告Hが,新宿支店及びこくぎんリースが融資していた地創工業が倒産したため,同社に対する融資金を回収する方法として,同社が所有し原告が担保徴求していた不動産をトーコーに任意売却して,その売却代金から融資金を回収しようとして,その買取代金等を原告からトーコーに融資したものである。
このスキームを考えたのは,被告Hであり,被告Bは,その詳しい内容は知らされていなかった。
被告Bは,本件各融資実行当時は,営業企画部及び事務部担当の常務取締役であり,融資案件にはかかわっておらず,単に融資審議会のメンバーとして融資審議会に出席して意見を述べるだけであった。
本件各融資案件については,営業部店及び本店審査部での審査を経て,融資審議会にかけられており,本店審査部審査でも本件各融資に対する反対意見は出されておらず,融資審議会のメンバーに過ぎない被告Bとしては,これら営業部店及び本店審査部の審査結果に基づいて判断するしか方法はなかった。
したがって,反対意見を述べなかったとしても,被告Bには,何ら善管注意義務違反・忠実義務違反はない。
また,本件融資2ないし4は,融資審議会に諮る前に決裁権限を有する頭取の被告Aと審査部長である被告G,代表取締役専務である被告Fの三者に対し,担当者の被告Hが説明をして,三者の了解を得ていたとのことであり,そうであるならば,この事前説明の際に本件各融資実行については,決裁権限を有する頭取の承認があったと解され,その後行われた融資審議会において,仮に,反対意見が述べられたとしても,本件各融資は実行されていたはずであって,融資審議会で被告Bが反対意見を述べなかったことと本件各融資の実行との間には因果関係がないというべきである。
エ被告Gの主張
本件融資2から4の資金使途である「富ヶ谷健康センター建設プロジェクト」についてトーコーから提出された事業計画書の内容は,業界の一般的資料に照らして検討すれば,現実感のある数字で構成された妥当性のある計画であったし,同プロジェクトにおける建物建築の見込みも十分存在していた。
そして,当時景気見通しは上向くと一般に理解されていたのであり,本件融資2ないし4については,十分回収可能性があった。
他方で,以下述べるとおり,本件各融資を実行する場合としない場合とでは損失に変わりがないのであって,被告Gは種々の利害得失を勘案の上,本件各融資を実行することが相当であると判断したものであって,その経営判断は合理性を有するとともに,原告には損害は発生していない。
すなわち,地創工業に対する既存融資の回収について競売手続によると原告及びこくぎんリースで7億円強の損失が確定するのに対して,本件融資2及び3を実行する場合には,地創工業に対する原告及びこくぎんリースの既存貸付金9億円のうち8億円が回収可能となることから地創工業関係の融資の損失は1億円にとどまり,仮に本件融資2及び3(合計12億7000万円)が焦げ付いた場合にも富ヶ谷物件の時価相当額である6億円と貸付金のうち預金に留保される6000万円を除いた6億1000万円が回収不能となるから,損失は合計7億1000万円であり,本件各融資を実行する場合としない場合とでは損失に変わりがない。
他方で,原告の実質的子会社であるこくぎんリースは当時5億円を超える損失を償却できる余力はなく,
またこくぎんリースに資金を貸し付けていた金融機関が資金を引き上げるタイミングをうかがっていたこともあり,仮に本件各融資を実行せずこくぎんリースにおいて償却が必要な事態となるならば,原告においてこくぎんリースに対する債務免除等により償却財源を捻出するのみならず,他の金融機関の資金の引上げへの肩代わりなど多大な負担が生じたことが予想された。
本件融資2及び3は以上のような経営判断に基づき実行されたものであり,取締役の裁量の範囲内であり,また融資の実行の有無により損失に変わりがないのであるから原告に損害は生じていない。
オ被告Hの主張
本件融資2ないし4は,原告八丁堀支店の担当であり,以下に述べるとおり,被告Hが本件各融資を発案し,積極的に推進した事実はない。
したがって,当時,原告新宿支店長であり,融資審議会のメンバーでもなかった被告Hが,本件各融資について責任を問われる理由はない。
すなわち,新宿支店では,地創工業に対する2億円の融資残高を有していたが,そのうち1億5000万円が回収困難な状況であり,こくぎんリースも地創工業に対する融資金7億円のうち,5億5000万円が損失と予想される状況であった。
被告Hは,原告本部より,これらの損失の軽減を強く指示されていたが,地創工業には追加担保を供出する余力はないことも判明していた。
このような状況において,被告Hは,地創工業の事務所で夏川太郎を紹介され,夏川
太郎より「富ヶ谷健康センター建設プロジェクト」なる案を示され,同プロジェクトに対する融資の依頼を受けるようになった。
しかし,被告Hが積極的に同プロジェクトに参画したり,企画策定したということはない。
なお,被告Hは,夏川太郎の融資要請を受け,地理的にも可能性がないとは断定し得ないと判断し,トーコーに対し具体的資料の提出を求めた。
また,被告Hは,トーコーが原告八丁堀支店との間で取引があり,既に6から7億円の融資をしている会社であったことを知り,トーコーが回収不能又は回収不能が予想される会社であるとの認識はもたなかった。
地創工業所有の富ヶ谷物件は最低競売価格4億円を大きく上回る価値を有すると考えており,トーコー所有物件を追加担保として徴求することを想定していた。
さらに,被告Hは,夏川太郎から,健康ランド計画自体が当時カネボウと提携する予定であるとの説明を受けていた。
被告Hは,本件融資2及び3について,地創工業及びトーコーより健康センター計画案が出されたので,同計画案を新宿支店として本部に提示し,本社管理部を通じ,本部に提案した後,債権回収会議が開かれ,同会議に呼ばれて会議の席上において内容を説明した。
被告Hが本件融資2ないし4に関して実際にとった行動は以上であり,回収不可能な融資をあえて実行したような事実は存在せず,何ら取締役の善管注意義務ないし忠実義務に違反するものではない。
(4)トーコーアドに対する融資についての被告らの善管注意義務違反の有無(原告及び原告訴訟引受人の主張)
ア本件融資5及び本件融資6は,以下のとおりの問題点を有する違法なものであった。
(ア)トーコーアドの返済能力の不存在
トーコーアドは,平成9年3月以降,原告に対する返済を延滞しており,また,本件融資5及び6の当時,高利貸しから多額の借入れをしていた。
さらに,トーコーアドは,決算書に高利貸しからの借入金を記載しないなど粉飾していたが,そのような決算書ですらも,売上が低下しており,債務超過状態に陥っていた。
原告においても,トーコーアドは,「企業資質面で問題ありとされた先」「問題点を洗い直し,仕振,保全の強化ができない場合には圧縮する先」であるDランクとして格付されており,大蔵省検査においても,トーコーアドに対する融資金残高のうち15億8100万円が第2分類(1億8000万円)及び第3分類(14億0100万円)とされていた。
(イ)資金使途の問題性
本件融資5のうち,2300万円は「金融支援資金」という名目でトーコーアドが原告に対して延滞していた元利払いのための資金を貸し付けるというものであり,残りの3200万円は,6月10日の手形決裁資金をトーコーアドが用意できなくなったことから,当該資金を貸し付けるというものであり,本件融資6のうち,5000万円は,高利貸しである株式会社エヌ・アンド・ビー及び森田商会からの借入金をそれぞれ2500万円ずつ返済するための資金を貸し付けるというものであった。
そもそも,高利貸しに対する返済のための資金を貸し付けるというようなことは銀行実務上極めて問題がある上,トーコーアドは,資金繰り悪化を高利貸しに依存しながらしのぎつつ,高利貸しに対する返済を優先するという経営状況にあったのであり,本件融資6実行後も再び,同様の事態を繰り返すことは明らかである。
また,本件融資6のうち,残りの「自然食品センターに係る買掛金」(1500万円)及び「明治乳業契約に係る先行支払」(5000万円)については,資金使途について具体性がなく,トーコーアドに対して裏付資料等を要求しても提出されず,貸付実行後に使途も確認されず,資金使途が全く不明確であった。
(ウ)大幅な保全不足
本件融資5及び6の当時,トーコーアドに対する保全は既に大幅に不足していたが,本件融資5及び6は,いずれもトーコーアドから新たな担保を一切とらないでなされた信用貸しであったため,トーコーアドに対する保全不足額は,本件融資金の金額分だけさらに一層増大することになった。
なお,本件融資5及び6については,トーコーアドの代表者である夏川杉男,及び同社取締役である夏川太郎の2名が連帯保証人となっていたが,これらの連帯保証人についても,支払能力は全くなかった。
(エ)まとめ
以上のとおり,本件各融資が決算書に虚偽の記載をしていたトーコーアドに対する単なる一時しのぎの救済資金であり,トーコーアドには本件融資金を返済する能力は全くなく,しかも,本件各融資が新たな担保を一切とらないでなされた信用貸しであることが認められ,本件融資5及び6は安全性の原則に反するものであった。
イ被告らの注意義務違反
(ア)被告Aの責任
被告Aは,本件融資5及び6の当時,原告の代表取締役頭取として原告の業務を統括しており,本件融資5及び6の決裁権者であった。
被告Aは,融資稟議書の記載内容から,本件融資金の回収が困難であることを知っていたか,あるいは,少なくとも容易に知り得たのであるから,本件融資5及び6を承認する決裁をしてはならない義務があった。
しかし,被告Aは,上記義務を怠り,本件融資5及び6を承認する決裁を行った。
したがって,被告Aの行為は,銀行の取締役としての善管注意義務・忠実義務に違反する。
(イ)被告Bの責任
被告Bは,本件融資5及び6の当時,原告の代表取締役副頭取とし
て,代表取締役頭取を補佐する立場にあり,かつ,融資審議会の構成メンバーであった。
また,被告Bは,貸出稟議の審査に関する事項・貸出先の調査及び貸出管理の指導統括に関する事項等を所掌する審査部の担当の委嘱を受けていた。
被告Bは,融資稟議書の記載内容から,本件融資金の回収が困難であることを知っていたか,あるいは,少なくとも容易に知り得たものであるから,本件融資5については審査部担当の代表取締役副頭取として,本件融資6については融資審議会の構成メンバーとして,本件融資5及び6に反対するなどして,その実行を制止すべきであった。
しかし,被告Bは,上記義務を怠り,本件融資5及び6に反対するなどせず,本件融資5については
融資を承認し,また,本件融資6については融資審議会において融資を承認した上で,いずれも被告Aに融資稟議書を回付した。
したがって,被告Bの行為は,銀行の取締役としての善管注意義務・忠実義務に違反する。
(ウ)被告C,被告I及び被告Kの責任
本件融資6の当時,被告Cは原告の代表取締役専務として,被告I及び被告Kは原告の常務取締役として,いずれも代表取締役頭取を補佐する立場にあり,かつ,融資審議会の構成メンバーであった。
被告C,被告I及び被告Kは,融資稟議書の記載内容から,本件融資6の回収が困難であることを知っていたか,あるいは,少なくとも容易に知り得たものであるから,融資審議会において本件融資6に反対するなどして,その実行を制止すべき義務があった。
しかし,被告C,被告I及び被告Kは,上記義務を怠り,本件融資6に反対するなどせず,融資審議会において本件融資6を承認して被告Aに融資稟議書を回付した。
したがって,被告C,被告I及び被告Kの行為は,銀行の取締役としての善管注意義務・忠実義務に違反する。
ウ損害
トーコーアドは,平成10年5月20日に銀行取引停止処分を受け事実上倒産した。
トーコーアドは,本件融資5につき,平成10年4月20日までに280万円を返済し,その残金は5220万円となり,本件融資6につき,同年3月20日に294万円を返済したため,その残金は1億1206万円となった。
したがって,本件融資5については,残金5220万円が原告の損害となり,本件融資6については,残金1億1206万円が原告の損害となる。
よって,被告A及び被告Bに対し,連帯して内金4000万円及び遅延損害金の支払いを,被告A,被告B,被告C,被告I及び被告Kに対し,連帯して内金1億円及び遅延損害金の支払を求める。
(被告らの主張)
ア被告Aの主張
被告Aは,融資審議会からの報告や融資稟議書の検討から,資金繰り悪化は,トーコーアド自体ではなく,その取引先の倒産が主たる原因であったこと,高利貸しからの融資さえ返済すれば,短期間に急激な収支の改善が見込まれたこと,アイアンドエス,朝日広告社,味の素サービス,伊藤忠テクノサイエンス,サントリー等安定した取引先を有していたこと,明治乳業との本格的な取引開始により大幅な売上増が見込まれていたこと,当時,長引く不況の影響から中核的な取引先の倒産が相次いでいた中で,あえて上記のような話があるトーコーアドについて,融資を打ち切って倒産させるのは妥当ではなかったこと,被告Aが経営改善のために設置した「延滞債権回収チャレンジャー」(延滞債権の早期回収を図るため,繁忙のため債権回収に
まで手が回らない営業店とは別個に専門的に延滞回収業務に従事させていた)の加須美(支店長経験有り)が,自ら中心となって折衝した結果,債権回収の観点から本件各融資を可としていたこと,融資審議会も本件融資に賛成していたことなどから,保全が万全とはいえないとしても,本件各融資を実行して既存貸付も含めて回収を図るべきであると判断して決裁をした。
トーコーアドに対する融資について回収可能性が認められたことは他の被告らが主張するとおりである。
よって,被告Aが本件融資5及び6の実行について決裁をしたことは,何ら取締役の善管注意義務及び忠実義務に違反しない。
イ被告Bの主張
トーコーアドは,トーコーのグループ会社であり,トーコーが平成5年9月に不渡りを出して倒産したことからトーコーアドがトーコーの営業権を譲り受けるとともに債務を引き受けるというトーコーに対する不良債権の整理策が決定され,この整理策に基づいて,トーコーアドに対する融資が行われた。
トーコーアドに対する2件の融資は,手形決裁資金や高利貸しからの借入金の返済資金で,一種の救済融資であるが,この融資をせずにトーコーアドが倒産すれば,約17億円もの多額の融資金が第4分類債権となってしまい,当時,原告には,これを償却する財源はなかった。
一方,当時,トーコーアドの資金繰りは悪化していたが,焼き肉店などを経営しており,月商6800万円程度の売上は上がっていたので,救済資金を融資すれば同社が存続する可能性は十分にあった。
このような状況においては,被告Bがトーコーアドに対する本件融資5及び6の実行を阻止しなかったとしても,何ら取締役の善管注意義務及び忠実義務に違反しない。
ウ被告Iの主張
被告Iは,原告に入行してから,一度も本店融資部,審査部を務めたことはなかった。
平成2年からの本店営業部長,平成3年からの甲府支店長など現場での経験はあったが,退職するまでの間融資の審査の経験は一度もなかった。
特に常務取締役に就任してからは人事部,営業推進部(預金獲得のための企画推進部。
個別の融資には全くタッチしない。),個人ローン部(個人の提携ローン)が担当業務であり,融資の審査とは全く異なる業務に携わっていたのであり,個別の融資案件についての事情を知る由もなかったし,融資の審査についても意見を述べる立場になかった。
また,本件融資5については,融資審議会に付議されておらず,被告Iは,当該融資に至る経緯及びトーコーとトーコーアドの関係等について,当時は認識していなかった。
本件融資6については,融資審議会に付議されたものの,融資審議会に付議される以前からの融資案件であり,当時原告行内で融資の実情・実務については最も通暁している実力者として君臨していた取締役副頭取の被告Bが,本件は承認したい旨の発言があるなど既定路線の案件とされており,被告Iの立場からチェックすべき点もないので,特に意見を述べなかった。
よって,被告Iには取締役としての善管注意義務及び忠実義務に違反する事実は認められない。
エ被告Kの主張
被告Kは,本件融資5の実行後である平成9年6月27日に融資審議会のメンバーとなり,本件融資6の実行予定日の2日前である同年7月28日の融資審議会に出席し融資承認印を押印させられた。
しかも,当該融資に関する融資稟議書には,問題点はあるがいずれもクリアーできると記載されていたのであり,被告Kが融資審議会の構成員になるまで融資審査の経験が極端に乏しかったことも併せて考えれば,融資審議会に付議された一件書類から融資担当取締役らの真の意図を見抜き融資実行を阻止することは不可能であった。
よって,被告Kには取締役としての善管注意義務及び忠実義務に違反する事実は認められない。
(5)国際販売に対する融資についての被告らの善管注意義務違反の有無(原告及び原告訴訟引受人の主張)
ア本件融資7は以下のとおりの問題点を有する違法なものであった。
(ア)「飛ばし」,「先送り」のための融資
原告は,平成2年1月当時,成和鉄工株式会社(以下「成和鉄工」という。)に対し元金合計3億0320万7000円の貸付債権を有し,その担保として有限会社蜻蛉(以下「蜻蛉」という。)が所有していた物件(以下「西浅草物件」という。)に対し根抵当権を設定していたが,成和鉄工は,同月5日に2回目の手形不渡りを出し,同月10日に銀行取引停止処分を受けて事実上倒産するに至った。
西浅草物件には,第1順位者として第一勧業信用組合が極度額7億円(債務者は蜻蛉)の根抵当権を設定しており,原告は,第2順位者として極度額1億7000万円,第3順位者として極度額6000万円,第4順位者として極度額1億3000万円の各根抵当権を有していた。
第一勧業信用組合は,同年11月,西浅草物件についての競売
申立てを行ったが,同物件の最低売却価格は2億9598万円と決定され,同物件の価値からみて7億円以上で競落される見込みがないため,第2順位以下の担保しか有していない国民銀行に対する配当は期待できず,このままでは成和鉄工に対する貸付債権は,貸倒れ金として償却処理せざるを得ない状況であった。
原告神田支店長であった被告Eは,上記成和鉄工に対する貸付債権を第三者に付け替えることにより回収しようと企て,神田支店の取引先であり不動産取引を業とする国際販売に対し,購入資金を融資するので西浅草物件を購入すること,さらに謝礼として国際販売に別途融資をすることを持ちかけた。
ただし,第一勧業信用組合の債権も解消した上で原告の債権も回収するためには,最低でも10億5000万円程度という,時価をはるかに上回る金額に設定する必要があったが,3億円程度の西浅草物件を国際販売に10億5000万円もの金額で購入させるという異常な枠組みであったため,国際販売にそのような条件をのんでもらうためには謝礼融資が必要であり,実際にも,平成3年7月1日,本件融資7に先立ち,国際販売に対し,謝
礼融資として5億円の融資がなされた。
このように,本件融資7は,「飛ばし」かつ「先送り」の目的で実行されたものである。
(イ)国際販売の返済能力の欠如等
本件融資7の当時,国際販売は,業況が悪化しており,借入金の元本はおろか,金利すらほとんど支払えない状態であった。
また,返済原資については,西浅草物件を,ラブホテルからカラオケルームヘ改修し,その経営により返済原資が捻出されることが予定されていたが,本件融資7の融資稟議書には,改修費用に関する見積書も設計図も添付されておらず,そもそも改修費用を決裁するための条件が全く整っていなかった。
さらに,本件融資7については,国際販売の試算表も徴求されず,融資稟議書にも月商の記載がないなど,国際販売の近時の営業状態を示す判断資料が欠けていた。
上記のとおり,本件融資7は,成和鉄工の不良債権を国際販売に付け替える目的で実行されたものであり,そうであれば,国際販売の返済能力や,西浅草物件の活性化等について十分に検討されなければならなかった。
しかし,本件融資7の当時,国際販売には客観的に返済能力が認められず,西浅草物件の活性化についても全く不十分な資料しか存在しなかったにもかかわらず,この点についてほとんど検討されることもなかった。
(ウ)大幅な保全不足
本件融資7に対する担保としては,西浅草物件を担保徴求している
が,同物件の最低競売価格(2億9598万円)や鑑定評価額(2億9100万円と比較してみても,本件融資7は,大幅な担保不足であった。
イ被告らの注意義務違反
被告J,同A,同F,同B,同Gらは,本件融資7の融資審議会のメンバー兼取締役であった。
本件融資7には上記の問題点が存在したが,それらはいずれも融資稟議書又はその添付書類によって容易に認識し得る事実であることからすれば,被告らは,本件融資金の回収が困難であることを認識し,又は容易に認識できたのであるから,被告Jは,本件融資7を承認する決裁をしてはならず,その他の被告らにおいては,融資審議会において本件融資7に反対しなければならなかった。
しかるに,被告らは,本件融資7を承認する決裁をなし,あるいは,融資審議会において本件融資7を承認して融資稟議書を被告Jに回付した。
したがって,被告らの行為は,取締役としての善管注意義務に違反し,本件融資7を実行した結果,国民銀行に生じた損害について賠償する責任を負う。
ウ損害
国際販売は,現在も営業は行っているものの,債務超過を解消できる見込みはなく回収は不能である。
また,本件融資7は,原告の根抵当権に優先する国税局等の差押えにより西浅草物件からの回収も不能となった。
したがって,本件融資金の残高は13億円であり,同額が原告の損害である。
よって,被告J,被告A,被告F,被告B及び被告Gに対し,連帯して内金4億円及び遅延損害金の支払を求める。
(被告らの主張)
ア被告Jの主張
(ア)本件融資7については,原告が指摘するような問題点は存在しなかった。
a国際販売の返済能力には全く問題はなかった。
不動産売買では,登記を伴うため支払手形は利用されず現金決裁で行われる。
したがって銀行借入れが他の業界より多くなり,平均年商の2ないし2.5倍程度の借入れがなされるのが普通であり,国際販売の借入れも,平成3年3月には年商の2.5倍であって,業界平均程度の借入れであった。
また,国際販売の税金の支払が停滞していたとの事実も存在しなかった。
当時,国際販売の売買実績が低迷していたのは,大蔵省が平成2年3月から不動産取引を規制し,土地価格の上昇を抑えるために金融機関に対してとった「不動産融資総量規制」によるものである。
当該規制は,平成4年1月4日には解除されたため,低迷は一次的なものであると考えられていた。
さらに,国際販売の金利支払
の停止は,銀行が,「総量規制」による業界の運転資金の不足を解消し,不良債権発生による融資先の倒産を防止するために,優良取引先に限って一次的にとった「利息棚上げ」の処置であり,経営不安による「利払い不能」状態にあったことを意味するものではない。
また,国際販売の返済計画についても,国際販売が現に東上野で営
業しているカラオケルーム「タイム・エコー」の実績をもとに,根拠のある算出をし,返済計画を立てたものであり,西浅草物件の活性化等についても十分に検討されていた。
また,国際販売は,利息を年間51億円支払っている実績があり,本件融資7も国際販売全体の不動産の販売も含めた営業活動から支払われることが十分見込まれていた。
b原告は,本件融資7が,「飛ばし」かつ「先送り」であると主張するが,本件融資7は,従来あった3億円の不良債権を,国際販売に対する融資金で「肩代わり」して決裁した肩代わり融資であり,銀行業界で多用されている通常の取引である。
また,西浅草物件に対する融資により,原告の3億円の不良債権は消滅しているのであるから,原告の主張するような「先送り」の対象となる債権は存在しないのであり,何ら問題はない。
そもそも,本件融資7は,不動産販売依存体質から脱出し,安定収入を図るべく業務多角化の一環として,カラオケルーム開設を考えていた国際販売が自ら希望した融資であったし,原告が謝礼融資と主張するものも全く別の日に実行されたものであって謝礼融資などではない。
さらに,西浅草物件の時価評価も
,近隣業者のチラシ広告をもとに判断されたものであって,何ら問題は存在しない。
また,原告では「不良債権」と化した融資金については,償却手続
をとって処理しており,原告が「飛ばした」と主張する成和鉄工に対する約3億円の債権も償却しようと思えば十分可能であった。
しかし,それをせずに国際販売に対する本件融資7を通じて,債権を回収しようと考えたのであり,被告らに「飛ばし」の目的がなかったことは明らかである。
(イ)原告には,その主張するような損害は発生していない。
国際販売は,現在も営業しており,それにもかかわらず本件融資7と同額の損害が発生したとするためには,貸付時点で即貸付金相当額の損害が発生したと構成するしかないが,このような立論を可能とするためには,銀行経営による融資が,犯罪又はそれに等しいものであり,当初から融資金の回収を期待しておらず,又は回収不能が明白であるような場合に限られるというべきである。
しかし,本件融資7はそれ自体犯罪又はそれに等しいものではなく,通常の銀行業務の一環として行われたものであり,原告の損害論は成り立たない。
そもそも,銀行業務としての融資による損害があり,これについて誰にどういう責任を問い得るのかを問題にするのであれば,融資の時点から不良債権と化した時点までの全期間にわたって,借入れ側の返済
の状況及びこれに対応する融資側の対処,事後の管理の状況が明らかにされなければならないが,このような主張立証は一切なされていない。
また,国際販売に対する融資金は,平成4年10月31日以降一切弁済されていないため,本件融資金については,平成9年10月30日に消滅時効が完成した。
国際販売としては,これ以降原告が融資金の返済を請求しても消滅時効を援用するであろうから回収不可能となった。
このように,回収不可能となった理由は,原告の債権管理に問題があったためであり,被告Jの責任には帰し得ない。
イ被告Aの主張
被告Aは,被告Gの報告や融資稟議書の検討から,時価で多額の含み益を有しており債権保全上問題がないと思われたこと,営業成績も前年度を大きく上回り好調であったこと,繁華街に位置するなどカラオケルームとしての営業環境に恵まれていたこと,融資審議会でも謝礼融資,保全不足,返済能力等について,何ら問題点は指摘されず,融資審議会の構成員の間でも意見の対立などはなかったことなどから,本件融資7を実行するべきであると判断して決裁をした。
なお,本件融資7について回収可能性があったことは,他の被告らの主張するとおりである。
ウ被告Fの主張
(ア)原告は,国際販売に対する融資を実行した当時,まだ相当の償却能力を有していたのであり,当該融資が貸倒れとなったとしても十分に償却できる状況であった。
第二地銀の取締役として,リスクが皆無ではないものの万一リスクが現実化しても体力的に十分消却可能な範囲のリスクである案件について,リスクを回避できるに足る会社の経営内容,方策に相応の根拠が認められる場合,財務体質の改善を目指し,収益性を向上させるために,融資を行ってよいとの経営判断を行うことは,取締役として相当の判断であり,少なくとも経営判断における「著しく不合理」な点や「裁量権の逸脱」はなく,取締役としての注意義務違反はない。
(イ)十分な担保を取れずに融資を行う第二地銀では,銀行員が地域に密着し,頻繁に取引先を訪問することにより,社長と世間話をする中で社長の経営能力や経営状況を把握したり,店舗のにぎわい状況や事務所内の雰囲気によって商売が順調であるか否かを把握し,債権管理に役立てていたのであり,これらの事情を総合判断して融資を可とすることは何ら不当なことではない。
すなわち,国際販売は国民銀行の長年の優良取引先であり,業績は好調でさらに上向きであり,社長の年齢も若く多角化経営による今後の成長が期待され,第二地銀として育成すべき企業であると考えられたこと,本件融資案件は当時ブームとなっていたカラオケルーム資金の融資であり立地も極めてよく事業としての成功が十分期待されたこと,600億円程度の負債に対して400億円以上の含み益を有して債権回収に全く不安がないと見られたこと,既存の融資の回収につながるメリットがあることから,被告Fは本件融資7を可とした。
以上のとおり,国際販売に対する融資は,このほかの融資とは異な
り,当時の他の融資案件と同程度のリスクしかない,ごく通常の案件であったのであり,融資審議会に提出された資料・情報からして,融資を可とすることに特に不合理な点のない案件であった。
少なくとも,当時の融資審議会の性格,被告Fの経歴と立場,審議時間と与えられる資料・情報の制約からすれば,支店及び審査部の判断に異議を唱えないことに取締役として著しく不合理な点はない案件であった。
(ウ)なお,原告及び原告訴訟引受人は,本件融資7がいわゆる「飛ばし」を目的として実行されたと主張するが,「飛ばし」とは,表面上の決算の黒字を維持するために,実態のない極めて多数のペーパーカンパニーを設立し,複雑なう回融資により回収不能の融資先の物件を融資額で買い取らせ,貸倒れ損失を潜在化させる手法であって,大手金融機関の破綻後にマスコミで使われた用語で,本件融資7当時はそのような概念すら存在しなかった。
本件で物件を購入したのは,損失負担を問題とせず,むしろ損失を負担するためだけに設立されたペーパーカンパニーではなく,実態がある生きた企業であり,物件価格に妥当性・採算性があるから購入している。
国民銀行は,狭域高密度取引を推進する地元金融機関として営業しており,競売申立てを
行うと回収率も下がる上,地元で評判となって営業上も悪影響があるので,債権回収は,地元の情報網を駆使して,事業拡大を図る購入者への融資による任意売却の手法によるのが通例であり,実際に債権回収と新規融資先開拓ないし融資残高維持の両面で成功を収めてきていた。
本件もその一環であって,「飛ばし」とは全く異なる。
エ被告Bの主張
本件融資7は,国際販売が倒産して,国際販売に対する債権が要償却債権となってしまうと,当時償却財源が枯渇していた原告の存続が危ぶまれることからこれを回避するためにはやむを得ないとの経営判断に基づいて行われたものであり,被告Bには本件融資7につき善管注意義務違反・忠実義務違反は存在しない。
オ被告Gの主張
本件融資7の資金使途について国際販売から提出された事業計画書の内容は,現実感のある数字で構成された妥当性のある計画であった。
そして,当時景気見通しは上向くと一般に理解されていたのであり,本件融資7については,十分回収可能性があった。
さらに,当該事業が失敗に終わった場合の損失と,本件融資7を実行しなかった場合に生じる損失には大きな違いがないと判断されたこと,当時の原告には,成和鉄工に対する債権全額を償却する能力があり,原告及び原告訴訟引受人が主張するように「飛ばし」を行う必要性はなかったが,当時,不良債権について,他の取引先に担保物件を引き取ってもらい,銀行側も新たな事業展開に資金面で協力して回収を追及するという手法は,金融機関では一般的に行われて,成功事例もあったこ
となどを考慮して,被告Gは,本件融資7の実行に反対しなかったのであり,被告Gには,善管注意義務ないし忠実義務違反は存在しない。
(6)カミパレスに対する融資についての被告らの善管注意義務違反の有無(原告及び原告訴訟引受人の主張)
ア本件融資8ないし27は以下のとおりの問題点を有する違法なものであった。
(ア)返済能力の不存在
カミパレスの経営するカラオケ店は,オーナーに支払う高額な家賃及び採算を度外視したカラオケ店舗の立地のため,現実には大半の店舗で収支は赤字であり,カミパレスのカラオケ店舗全体で,毎月約1億円の赤字が発生していた。
このような赤字体質については,平成5年の時点で既に指摘されていたが,本件各融資当時に至ってもカミパレスの構造的赤字体質は改まっていなかった。
そして,原告,こくぎんモーゲージ及びこくぎんリース3社合計の福一産業・カミパレスに対する貸付残高は,平成8年6月末では48億6300万円,平成9年6月末では89億1000万円と,1年間で40億4700万円も増加していた。
さらに,カミパレスは,本件各融資当時,粉飾決算を行っており,このことは出向者による報告会議においても報
告されていた。
また,カミパレスは,原告においてDランクと評価されており,「企業資質面と取引振りで問題ありと評価された先」,「問題点を洗い直し,仕振,保全の強化ができない場合は圧縮する先」と認識されていた。
以上のとおり,カミパレスは本件各融資について,返済能力が全く認められない状況であった。
(イ)大幅な保全不足
本件各融資実行直前において,原告のカミパレスに対する貸付残高は28億1100万円であり,これに対する保全額は1億3900万円であった。
したがって,本件融資8実行以前に,既に原告のカミパレスに対する融資金は26億7200万円もの保全不足であった上,本件各融資時において,カミパレスは,前記のとおり返済能力はなかったから,確実な担保を徴求することなくして増額融資をしてはならない状態であった。
ところが,本件融資8の実行により原告のカミパレスに対する貸付残高は29億4400万円に増加し,保全不足額は28億0500万円に拡大し,その後本件融資9から28が実行され,本件融資28が実行された平成10年6月1日の時点では,実行後残高約89億1800万円に対し,保全額は6億2700万円ほどであり,保全不足額は82億9100万円にまで拡大していたが,この大幅な保全不足額は,本件各融資における融資稟議書に明記されていた。
(ウ)資金使途の不当性
本件各融資金の資金使途は,いわゆる赤字補てん資金であったとこ
ろ,原告の内部規程において赤字補てん資金の審査ポイントとして,損失が構造的なものではないこと,将来の収益が十分であり,収益によって比較的早期に返済が可能であること,既存融資分も含め,十分な保全措置が講じられることが必要とされていたが,本件各融資はこれらのポイントを全く満たしておらず,融資の要件を満たしていないことは明らかであった。
また,本件各融資のうち相当割合は,申込企業であるカミパレスを経由して福一産業に流れていることは,融資稟議書上から明らかであり,本件各融資は銀行実務において許されないう回融資であった。
(エ)特定先に対する過度の融資
銀行が安定した経営を行うためには貸付先が倒産して貸金が回収不能となった場合のリスクが大きくならないように注意しなければならず,また,公的な存在である銀行がその社会的使命を果たすには貸金が特定先に偏ることのないように配慮しなければならないが,本件各融資は,この点を全く考慮することなく資産信用のないカミパレスに対し多額の融資を集中するものであった。
イ被告らの注意義務違反
(ア)被告A
被告Aは,平成元年6月29日から平成4年6月25日までは代表取締役副頭取として,その後は代表取締役頭取として,福一産業及びカミパレスに対する融資に関与していた。
そして,本件各融資当時,原告の代表取締役頭取として原告の業務を統括し,本件各融資の決裁権者であり,かつ融資審議会の構成メンバーであった。
被告Aは,上記の関与並びに融資稟議書の記載内容から本件各融資には多くの問題点があり,本件各融資金の回収が困難であることを知っていたか,あるいは少なくとも容易に知りえたのであるから,被告Aとしては本件各融資を承認する決裁をしてはならない義務があった。
しかし,被告Aは,上記義務を怠り,本件各融資を承認する各決裁を行った。
したがって,被告Aの行為は,取締役としての善管注意義務・忠実義務に違反する。
(イ)被告B,被告C,被告I及び被告K
被告Bは平成元年6月29日から平成5年3月31日まで常務取締
役,同年4月1日から平成6年6月28日までは代表取締役専務,その後は代表取締役副頭取として,被告Cは平成4年2月以降平成5年3月31日までは常務取締役,その後は代表取締役専務として,被告Iは平成7年6月29日以降常務取締役として,被告Kは平成9年6月27日以降常務取締役として,それぞれ,福一産業及びカミパレスに対する融資に関与していた。
そして,本件各貸付当時,被告Bは,原告の代表取締役副頭取として,被告Cは専務取締役として,被告I及びKは常務取締役として,いずれも代表取締役頭取を補佐する立場にあり,かつ,融資審議会の構成メンバーであった。
したがって,被告B及び被告Cは本件各融資について,被告Iは本件融資8,10,12から15及び17から26について,被告Kは8,9,11から13,15から21及び24から27について,従来の関与及び融資稟議書の記載内容から,上記各融資に前記のとおり多くの問題点があること,ひいては上記各融資金の回収が困難であることを知っていたか,あるいは,少なくとも容易に知りえたのであるから,融資審議会において各融資に反対するなどして,その実行を制止すべき義務があった。
しかし,被告Bらは,上記義務を怠り,上記各融資に反対するなどせず,融資審議会において上記各融資を承認して被告Aに融資稟議書を回付した。
したがって,被告Bらの行為は,取締役としての善管注意義務・忠実義務に違反する。
ウ損害
原告のカミパレスに対する本件各融資金残高合計は58億7400万円であったが,カミパレスには,平成11年10月20日,破産宣告がなされ,同額の回収が不能となった。
したがって,原告の損害額は58億7400万円に上る。
よって,原告及び原告訴訟引受人は,本件各融資の残高に相当する損害賠償金の各内金として,別紙1「貸付債権一覧表」(省略)記載のとおりの金額及び遅延損害金の支払を求める。
(被告らの主張)
ア被告Aの主張
カミパレスに対する融資は,いずれも原告の融資審議会において融資が相当であると満場一致で議決されたものであり,被告Aは,これを尊重し,かつ,カミパレスに対する融資を継続し,カミパレスの経営を改善することによって,新たな貸付分も含め融資金全額の回収が可能であると判断をしたため,各融資を実行する決裁をした。
すなわち,様々な経緯によって,既に多額の貸付残高となっており,しかも貸付先企業の資金繰りが厳しくなっている場合で,もし追加融資を行わないと資金繰りが不可能となって倒産し,貸付残高の大半が回収不能となるような場合には,追加融資を行わないことによる影響,すなわち確実に倒産するのか否か,倒産した場合どの程度の焦げ付きが生ずるのか,多額の焦げ付きが生じた場合の銀行経営はもつのか否か,資金繰りが困難になっている当該企業の再建の可能性はあるのか否か,追加融資を行うことによって融資金全額の回収の見込みがあるのか否かということを総合判断してその可否を決しなければならない。
融資残高に対する担保が不十分で融資を打ち切れば倒産するようなケースにおいて,必要な追加資金の金額に比して,焦げ付くことが確実な融資残高がはるかに多額となっており,そのことが銀行の経営や存続自体に致命的な影響があり,他方,再建にかなりの困難が存するとしても,当該企業の属する業界の動向,当該企業の業務の改善の余地,基本的な景気の動向等を総合的に判断して,なお,再建と全額回収への可能性が残っている場合には,追加融資を行うことは合理的な経営者の選択肢に十分入るものである。
さらに,このように様々な要素を考慮しなければならない場合には,機動的な業務遂行の観点からして,基本的な方向が間違っていなければ,取締役の経営判断の裁量の余地をある程度認めざるを得ないと解するべきである。
本件においては,カラオケ業界の動向からして賃料の引下げや業務改善を進めることによりカミパレスの再建の可能性は存在したのであり,他方で,カミパレスに対する追加融資を打ち切るならば,その融資残高の大半が焦げ付いて一括償却を必要とする第4分類債権に転化し,償却財源の乏しい原告の経営あるいは存続自体に重大な支障が生じることは必至の状況であった。
すなわち,懸命な努力を継続すればカミパレスの収支を黒字に転換させることは十分に可能であり,既存融資分及び新規融資分を含めて最終的には全額回収可能であり,他方で原告の破綻を回避することができると考えられた。
また,頭取の諮問機関であった融資審議会では,議論の結果,これらの案件はすべて融資をなすべきであるという結論が下され,その旨被告Aに報告され,被告Aは原則として融資審議会の結論を尊重するスタイルで仕事をしていたこと等の事情からして,本件各融資を決裁したものである。
以上によれば,本件各融資を実行した被告Aの判断は,頭取に委ねられた裁量の範囲内にあり,忠実義務違反,善管注意義務違反とはいえないというべきである。
イ被告Bの主張
原告は,遅くとも平成6年4月以降,福一産業・カミパレスが倒産すると多額の償却を要する不良債権が発生し,原告自体の存続が危ぶまれる状況にあったことから,当面,福一産業・カミパレスを存続させ,資産売却処分等により融資残高をできる限り減少させ,その間に第4分類債権を優先的に償却し,これらの償却が終了して償却財源に余裕ができた時点で,福一産業・カミパレスの債権を順次,段階的に償却するしか方策はないと考えて,福一産業・カミパレスに対する融資を継続してきたものである。
原告は,平成8年4月の検査で指摘された255億円の第4分類債権について平成9年3月期と9月期に全額償却する必要があったことから,169億円の第三者割当増資を行い,これらの債権の償却をすることができた。本件各融資の時
点においては,これらの債権を償却した後,年間40億円ないし50億円の業務純益により逐次福一産業・カミパレスも含めた不良債権を償却していくことが可能と考えられていたので,融資を継続したものであり,被告Bの判断は経営判断として正当なものである。
カミパレスに対する本件各融資は,上記のような多額の不良債権を抱え,償却のために困難に陥って存続の危機に立たされていた原告の副頭取であった被告Bが,福一産業とカミパレスが倒産すれば,同社に対する90億円近い貸出債権を一挙に償却する必要が生じ,その償却財源がない原告が直ちに破綻しかねないという特殊な状況下で,原告の存続を図るため,苦渋の選択として,福一産業及びカミパレスを倒産させないために行った融資であり,このような特殊な状況を無視して被告Bの行った本件各融資を違法・不当であるとするのは誤りである。
なお,本件で問題となっている融資の総額は90億円余であるが,福一産業及びカミパレス両社に対する原告,こくぎんモーゲージ及びこくぎんリース3社の融資残高で見ると,平成9年7月末が約91億円で,平成10年6月末が約104億円であり,この間に13億円増加しただけであり,福一産業及びカミパレスはその間に原告に対する利息の支払もしていたのであり,原告は多額の利息収入は得ていた。
以上のように,本件各融資は,原告の存続を図るために行われた融資であり,何ら不当な融資ではなく,被告Bには損害賠償を支払うべき義務はない。
ウ被告Cの主張
本件各融資については,いずれについても融資部において融資を実行することはやむを得ないとする稟議書が作成され,これについて頭取決裁を得るために融資審議会が開催されていたが,被告Cとして特に口を差し挟むべき立場になく,仮に反対しても決裁されていたものである。
そもそも融資審議会においては,頭取決裁を阻止する権限や融資の可否を決する権限はなく,その構成員が当該融資について参考となる意見を開陳する義務を負っているに過ぎない。
なお,融資稟議書への捺印は当該融資への同意を意味するものではなく,融資審議会に出席したことの確認を持つに過ぎない。
エ被告Iの主張
被告Iは,原告銀行の主導の下,体質改善についてカミパレスが努力しているとの報告を受けていたのであり,本件各融資金を返済する能力がないことが明らかであるとの認識はなかった。
また,福一産業及びカミパレスへの融資について,隔年の大蔵省検査,日銀考査において問題であるとの指摘がなされたことはなく,毎期ごとの監査法人・監査役による監査の結果違法であるとの指摘もなかった。
また,個別案件の妥当性については審査部が判断していたところ,融資稟議書における審査部意見欄に表現の違いこそあれ,いずれも融資の続行が記載されており,融資審議会に出席の担当役員,審査部からも融資すべきであるとの方向の意見が出されていた以上,個別案件の融資先に事情に精通していない被告Iとしては個別案件について不当,違法という認識を形成することはできなかった。
よって,被告Iには,本件各融資につき善管注意義務ないし忠実義務違反の事実は存在しない。
オ被告Kの主張
被告Kは,平成9年4月2日の経営会議に出席するまで福一産業及びカミパレスの問題点について全く情報を得る機会がなく,その後も,被告Kの経歴上融資審査に精通していなかったこともあって,即座に融資実行を阻止すべきであるとの認識は持たなかった。
また,被告Kが出席した各融資審議会においては営業店及び審査部とも融資実行に積極的であり,少なくとも書面上は営業店及び審査部とも御融資願いたい旨の稟議を回していた。
被告Kは,その後の平成10年3月5日ころからカミパレスへ実態調査のため出向し,粉飾決算を発見するなどした。
しかし,カミパレスに対する融資を停止することによって,原告自体の存立が危うくなることが想定されたのであり,カミパレスを倒産させるか,倒産させるとしてその時期・方法について
は高度な経営判断を要するものであり,責任と権限のある決裁権者が融資実行をする旨判断している以上,原告全体の経営についての新参者である被告Kが安易に反対の判断などなし得なかった。
以上のとおり,被告Kは,当初カミパレスが再建不可能な会社との認識はなく,その後の対策会議・実態調査を経て再建不可能な会社との認識を得るに至ったが,既存融資金の回収などを含めてその対策について会社組織の一員として誠実に職務執行にあたってきたのであるから,被告Kに付与された裁量権の範囲を逸脱したと評価されるべき事実は存在しない。
また,本件各融資により,原告は,福一産業及びカミパレス等に対する既存の貸付金を回収することができるとともに,貸付金に対する利息をも得ることができたのであり,当該部分を損害から控除すべきである。
(7)反訴請求について
(被告Kの主張)
被告Kは,原告に対し,定期預金元利合計1498万0608円及び定期積金元利合計237万3500円の合計1735万4108円を預け入れていたが,原告は,被告Kが取締役の善管注意義務に違反して,前記のカミパレスに対する融資を阻止しなかったことにより10億1600万円の損害を被っており,これと上記預金及び積金債権とを対等額で相殺する旨主張している。
しかし,被告Kは,融資実行について決裁権限もなく,また取締役としての善管注意義務・忠実義務違反もないのでそもそも原告が主張する商法266条1項5号に基づく損害賠償債務は発生せず,原告の相殺の主張は無効である。
また,原告は,平成12年1月28日付で被告K所有の,別紙3「物件目録」(省略)記載の各不動産について不動産仮差押命令を取得し,同年2月1日仮差押えの登記を経由した。
しかし,当該仮差押えは被保全権利の存在しない違法なものであり,被告Kは,当該仮差押命令によって,各不動産の処分が制限され,当該不動産の時価合計額3583万0798円に対する金利相当分163万9381円(平成12年2月1日から同年12月31日まで(334日間)の年5パーセントの割合)及び弁護士費用500万円の損害を被った。
よって,被告Kは,原告に対し,定期預金元利合計金及び定期積金元利合計金の合計額1735万4108円の内金1735万3108円及びこれに対する相殺通知日の翌日である平成12年8月11日から支払済みまで商事法定利率年6パーセントの割合による遅延損害金並びに違法な仮差押えに基づく損害賠償金663万9381円及びこれに対する反訴状送達の日の翌日である平成12年12月23日から支払済みまで民法所定の年5パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める。
(原告の主張)
既に主張したとおり,原告は,被告Kに対して,カミパレスに対する融資に関して取締役の善管注意義務違反に基づく損害賠償請求権を有していたのであり,これに基づく相殺は有効であり,被告Kの定期預金及び定期積金の返還請求権は消滅しているし,上記損害賠償請求権を被保全権利とする各不動産の仮差押えは適法なものであり,被告Kに対する不法行為を構成するものではない。
したがって,被告Kの反訴請求はいずれも失当である。

第3争点に対する判断

1陶陶商事に対する融資について
(1)取締役の経営判断について
銀行の取締役は,融資の判断にあたっては,リスクを勘案の上,当該融資により合理的な利益を期待し得る場合にのみ融資を行うべきであるが,不特定多数から借り入れた資金を他に融資するという業務の特殊性及び金融システムの根幹を担うという公共性からして,引き受けるリスクにはおのずと限度があるというべきである。
このような観点から融資にあたっては,利息収入,取引機会の拡大,既存融資の回収可能性の増加など融資から期待される利益の検討のみならず,融資の持つリスクを的確に分析・評価し,その適正化を図ることが必要である。
特に,原告はいわゆる第二地銀として,貸出先が零細企業を含めた地元の中小企業を中心とし,十分な担保を有するとは限らないことから,地域とのつながりを活かし,貸出先の収益性や将来性に
対する慎重な審査,貸出条件の設定,貸出後のモニタリングなどによりリスク管理を徹底することが求められていたというべきである。
そして,このような融資の判断は,専門性と将来予測を伴う総合判断であることから,取締役の経営判断事項として裁量が認められるべきであり,融資の回収不能の責任を取締役に問うためには,その判断についての裁量の範囲を超えた善管注意義務違反の有無,すなわち,当該判断をするためになされた情報収集・分析,検討が当時の状況に照らして合理性を欠くものであったか否か,これらを前提とする判断の推論過程及び内容が明らかに不合理なものであったか否かが問われなければならない。
さらに,取締役の情報収集・分析,検討に上記のような不足・不備があったかどうかについては,分業と権限の委任を本質とする組織における意思決定の特質が考慮に入れられるべきであり,特に,原告のように融資の際に営業部店及び本部審査部などがそれぞれの立場から重畳的に情報収集・分析,検討を加える手続が整備された銀行においては,取締役は,特段の事情のない限り,各部署の行った情報収集・分析,検討に依拠して自らの判断を行うことが許されるべきであるが,特段の事情の有無は,当該取締役の知識・経験・担当職務,案件とのかかわり等を前提に,当該状況におかれた取締役がこれらに依拠して意思決定を行うことに当然躊躇を覚えるような不足・不備があったかどうかにより判断すべきである。
以上を前提に本件各融資につ
いて検討する(なお,以上の一般論は,陶陶商事に対する融資のみならず,他の案件の検討においてもこれを前提とする。)。
(2)証拠(後掲)及び弁論の全趣旨によれば以下の事実を認めることができる。
ア本件融資1に至る経緯
(ア)陶陶商事と春山グループ
a陶陶商事は,昭和55年5月7日に設立された中華風レストランの経営等を目的とする会社(当初の商号は有限会社雪園であり,平成2年8月30日に現商号に変更)であり,春山が代表取締役であった。
(甲B2)
b春山は,陶陶商事のほかに,世新商事及び豊丘商事の代表者も兼ねており,陶陶商事は渋谷区道玄坂で,世新商事は錦糸町と光が丘で,豊丘商事は蒲田で,それぞれ中華風レストランの店舗を経営していた。
(甲B1,甲B3)
(イ)春山グループの延滞の開始
原告の春山グループに対する貸付は,昭和59年2月から開始され,原告本店営業部が担当していた。
しかし,春山グループは各店舗の業績が悪化し,豊丘商事が平成3年5月以降,次いで世新商事が同年8月以降,春山個人も同年9月以降,それぞれ原告に対する返済を延滞するに至った。
原告は,春山グループに対して督促を重ね,平成4年1月には,春山が被告A(当時副頭取)及び被告E(当時本店営業部長)らに対して延滞分を解消する旨の確約をしたこともあったが,結局,約束どおりには履行されなかった。
(甲B4)。
(ウ)春山グループに対する延滞解消のための貸付
aこの結果,平成4年9月30日現在において,春山グループに対する原告の貸付残高は6億6417万9948円,延滞利息は5184万4933円となり,合計は7億1601万9948円となった。
そこで,原告は,春山グループに対する貸付残高等の合計額に見合
う7億2500万円を春山グループに対して新たに貸し付けることにより,春山グループに対する貸付については延滞利息も含めていったん全額返済を受けた形とする処理方針(実質は延滞利息の元金組入れ)をとり,平成4年9月30日,春山グループに対して,7億2500万円の貸付を実行した。
この貸付に,被告Aは決裁権限者として,被告B及び被告Cは融資審議会のメンバーとして,被告Eは営業店長として関与した。
この貸付の実行により原告の春山グループに対する貸付残高は次の
とおりとなった。
陶陶商事2億円
春山個人1億9800万円
世新商事4200万円
豊丘商事2億8500万円
合計7億2500万円
なお,上記のうち陶陶商事に対する2億円の貸付は,陶陶商事が平
成2年3月に渋谷区道玄坂に中華風レストラン(以下「道玄坂店」という。)を開業するに際し,原告が豊丘商事を借主として開業資金の貸付を行い,豊丘商事から陶陶商事に貸し付ける形をとっていたものを,実質的な借主である陶陶商事に債務を付け替えることにしたものである。
b上記の貸付実行後の保全状況は,すべての貸付を共通に担保するものとして,不動産担保3件(伊東市富戸の別荘,練馬区上石神井の自宅,大田区西蒲田の店舗)のほか,春山個人及び世新商事に対する貸付を担保するものとしてゴルフ会員権があった。
また,陶陶商事に対する貸付のみの担保として道玄坂店の入居保証金4570万円があったが,店舗の賃貸借契約には譲渡禁止,担保禁止の特約がなされていた上,担保設定につき賃貸人の承諾は得られていないものであった。
そして,これらの担保(入居保証金を除く)をすべて合算しても,時価評価では金4億7700万円,担保評価では金3億1800万円にしかならず,大幅な保全不足の状況にあった。
(a及びbにつき,甲B3,甲B5)
(エ)春山グループの延滞再開と陶陶商事に対する融資の継続
aしかしながら,その後も,春山グループの業績は回復せず,春山個人が平成4年10月以降,次いで陶陶商事と世新商事が平成5年1月以降,さらには豊丘商事も同年4月以降,原告に対する返済を延滞するようになった。
このため,陶陶商事は道玄坂店の家賃の支払も困難な状況となった。
そこで,原告は,陶陶商事に対して,平成6年1月25日,「運転資金(諸払い・家賃)」として金280万円を,同年2月8日にも「運転資金(諸払い)」として金280万円を,それぞれ貸し付けた。
これらの貸付に,被告Aは決裁権限者として,被告B及び被告Cは融資審議会のメンバーとして,被告Eは営業店長として関与した。
これらの貸付実行時には既存貸付は延滞状況にあり,貸付の融資稟議書に添付された資料には「借入れ過大に付赤字
,債務超過」と記載されていた。
(甲B6,甲B8,甲B9)
bさらに,原告は,同日,陶陶商事に対して,金1億6500万円を貸し付けた。
融資稟議書には,資金使途は道玄坂店開店時調達不足金及び追加保証金の補てん金とされていたが,添付資料によれば,実際の資金使途は次のとおりであり,既存貸付の延滞金の元金化及び春山の個人借入れ(高利貸し)などの肩代わりを目的とするものであった。
春山グループの原告に対する延滞分の返済金7900万円
先日付小切手の支払金1700万円
個人借入れ(高利貸し)に対する返済金3800万円
こくぎんリースに対する返済金2000万円
家賃(1・2月分)金600万円
金利等金500万円
また,融資稟議書には,返済条件は「営業収入により今後の営業推
移をみて期間内に切替え予定」とされており,具体的な返済予定ないし返済計画の策定はなく,審査部の意見も,「業績増収傾向ながら収支尻は借入れ過多,設備投資過大等により欠損発生,債務超過状態にある。
今次調達分及び既往借入れ分に対する償還財源不足並びに関連グループを含めた不動産担保余力の不足は否めないが,事業継続による体制建て直し意欲は認められる。」というものであった。
この貸付には,被告Aは決裁権限者として,被告B及び被告Cは融資審議会のメンバーとして,被告Eは営業店長として関与した。
(甲B10)
c前記の貸付により,春山グループの延滞はいったん解消した形となったが,その後も,春山グループの業績は回復せず,平成6年4月以降,再び返済を延滞するようになった。
このため,原告は,同年8月31日,陶陶商事に対して,金2000万円を貸し付けた。
貸付の資金使途は,春山グループの原告に対する8月及び9月分の元利金の返済金900万円と道玄坂店の未払家賃1100万円に当てることを目的としていた。
融資稟議書には,貸付の返済条件は,「営業収入により今後の営業推移をみて期限内に長期切替え予定」とされており,具体的な返済予定や返済計画を前提としていなかったが,今後の合理化計画として,錦糸町店,光が丘店の撤退,蒲田店の売却か賃貸というリストラ策と渋谷へのバイキング店の出店による収益増強
策とが挙げられていた。
審査部の意見としては,「返済は営業収入金をもって対応するも当面見通し立たず,長期割賦金に切り替えるもの。
取扱い不芳ながら目下リストラ推進中につき支援やむを得ない。」としていた。
被告A,被告B,被告C,被告Eは,この貸付の融資稟議に関与した。
(甲B11)
dさらに,原告は,平成6年10月31日,陶陶商事に対して,金500万円を貸し付けた。
この貸付の資金使途は「運転資金(諸払い)」とされ,春山グループの原告に対する返済金の延滞分に当てるものとされており,返済条件も営業収入により今後の営業推移をみて期限内に長期切替え予定とされていた。
なお,店内融資協議書には,売上増強策として渋谷にバイキング専門店を作るべく一応の計画を策定し,資料に基づき検討中であるとされていた。
この貸付にも,被告Aは決裁権限者として,被告B及び被告Cは融資審議会のメンバーとして,被告Eは営業店長として関与した。
(甲B12)
イ本件融資1の実行
(ア)融資審議会の審査
a上記のとおり陶陶商事は売上増強策として渋谷にバイキング専門店を出店することを計画し,平成6年8月ころから,原告本店営業部に貸付を打診していたが,同年9月,本店営業部に対して,新規店舗出店資金の借入れを申し込んできた。
陶陶商事から出された新店舗の企画書は,渋谷区宇田川町に75.58坪の店舗(120席)を賃借(家賃月265万円)し,営業時間を午前11時から翌朝5時までとして,中華風バイキングの店を開店するというものであり,売上は月2000万円,利益は月740万円を見込む計画であった。
借入れ申込額は,当初は入居保証金1億3000万円及び内装・諸経費7000万円の合計2億円とされたが,その後入居保証金1億3000万円,内装工事6500万円及び雑費(家賃・手数料等)390
0万円の合計2億3400万円に変更された。
さらに,同年11月6日以降,再び陶陶商事と豊丘商事において原告に対する返済の延滞が発生したことから,金2500万円が加算され,借入れ申込額は最終的には総額2億5900万円となった。
(甲B13,甲B14)
b本店営業部は,本件融資1に応じる方向で融資内伺書を作成し,営業店長である被告Eの決裁を得て,本部審査部に回した。
融資内伺書による本店営業部の検討は以下のとおりであった。
原告の春山グループに対する平成6年11月19日現在の融資残高は合計8億2200万円であるのに対して,これらに対する担保の評価額は1億1100万円に過ぎない。
また,春山グループの原告に対する毎月の弁済額は441万円であるほか,道玄坂店の店舗の追加保証金2400万円及び税金等約1500万円が未払となっている。
他方,陶陶商事の6月の収支は道玄坂店の売上が約1220万円,営業利益が約85万円にとどまっており,原告に対する弁済を行っていくためには月1800万円の売上が必要であるが,その達成は困難であり,現に
7月は約1150万円,8月は約800万円,9月は約900万円と低迷している。
また,春山グループの他の店舗はいずれもリストラ計画中である。
本件投資計画では,新店舗により月2000万円の売上と740万円の利益が見込まれるので,原告に対する前記の月441万円の返済と本件貸付の返済金(1年間は利息のみで月118万7000円,1年以降は平成27年9月20日まで元利合計226万7000円)の返済が可能となる。
そこで,現状のままでは延滞状態が続く見込みが大であることから,収益増強策を展開することとしてはどうかというものであった。
c融資内伺を受けて本部審査部は,審査を行ったが,1春山グループ各社の実績については,いずれも赤字・債務超過であり,これまで3回にわたり金融支援を余儀なくされてきたこと,2春山グループのリストラとして物件売却は目下のところ進展がないこと,3本件貸付の収益・返済計画について未払債務3900万円(道玄坂店の入居保証金2400万円,消費税1500万円)の返済原資が除外されていることなどの問題があるとして,「新規事業収益により固定化した貸金を一挙に正常化し,現状打破をねらうものであるが,計画どおりの償還継続はかなり厳しく,かつ与信過大にてリスク増大否めず,今次申出案件回避がベターであると思料される。」という意見を付して上位者に回付した。
d本件融資内伺についての融資審議会は,平成6年11月11日,同月16日,同月30日の3回にわたって開催され,被告B,被告C,被告Dは,いずれの融資審議会にも出席した。
当初の2回の融資審議会においては,1これ以上の担保物件がなければ純資産10億円程度ある保証人2人以上つけることはできないか(被告C),2税金・家賃の支払状況をチェックすること,3春山の妻の保証人としての意思を確認すること,4前回の融資分により高利貸しへの返済が行われたのか確認すること,5家賃は新旧店舗とも原告の口座より振り込みすることなどの意見が出され,本件融資1に消極的な意見もあったが,筆頭役員の地位にあった被告Bの意見により春山の意思が確認できれば再度のチャンスを与えるという方向になった。
eそこで,本店営業部において春山夫妻と面談し,1事業遂行の意
思,2収益改善できない場合は,道玄坂店は営業権・造作付で売却し,代金全額を原告への返済に充てること,3新店舗は営業権・造作付で譲渡担保に入れる旨の賃貸人の承諾を得ること,4所有資産すべての処分を原告にゆだねることなどを確認し,その結果を書面にまとめ,同年11月25日に,本部審査部へ提出した。
fこれを受けた審査部の意見は,道玄坂店の賃借権に関する担保権の設定は賃貸人の承諾が得られないので保全強化とならず,新店舗の入居保証金についても家主の承諾は得られるものの正式担保とは認められず,新規融資により保全不足が増大するため問題はあるが,信用扱いで対応せざるを得ないとするものであった。
g以上の経過を経て,融資内伺に対する3回目の融資審議会が同月30日に開催され,本件貸付を認める方向で意見が集約された。
なお,以上の経緯については被告Aにも報告がなされ,融資内伺書に被告Aの決裁がなされた。
(bからgにつき,甲B14)
(イ)融資稟議と審査
a本店営業部は,店内協議を経た上,本件融資1を認める融資稟議書を作成し,被告Eの決裁を得て,本部審査部に稟議を回した。
稟議の内容は,貸付総額2億5900万円,返済期限は平成27年11月,返済は平成7年11月までは利息のみで月118万7000円,平成7年11月以降は元利合計で月226万7000円,最終回は88万円とするものであった。
融資稟議書によると,陶陶商事は原告への返済を延滞中であるとされ,また添付された貸借対照表によると,陶陶商事を含めた春山グループの各社はいずれも債務超過状態にあった。
また,原告の本件融資1前の平成6年11月9日時点の春山グループに対する融資残高は8億2200万円(陶陶商事3億8000万円,豊丘商事2億8500万円,世新商事4000万円,春山
個人1億1700万円)であるのに対して,これらの債務の担保とされた不動産等の担保評価は1億1000万円にとどまり,7億1100万円の保全不足とされていた。
本件融資1の保全措置としては新規店舗の入居保証金が担保評価9100万円であるほかは,春山夫妻の連帯保証に過ぎず,春山個人の資産は既存融資の担保とされており,また春山の妻の個人資産は60万円とされていたことから,本件融資1の実施により春山グループに対する融資残高は10億8100万円,担保評価は2億200万円となり,保全不足は8億7900万円に拡大するとされていた。
なお,融資稟議書には前記の融資内伺書が添付されていたが,店舗企画書は貸付額が前記のとおり2500万円増額したことから,これに伴う返済金の増額分(元利合計約30万円)を
賄うため,営業時間を当初午前11時から翌朝5時までとしていたのを24時間営業とし,毎月の売上を当初月2000万円としていたのを月2200万円に変更していた。
bこれに対して,本部審査部は,現状では既に借入金返済は不可能な状況にあり,経営者の意思確認に基づき新規事業により現状打破する以外ないものと思料されるとの意見を付した。
cこれに基づき本件融資1は,平成6年12月6日,被告B,被告
C,被告Dが出席する融資審議会で承認され,同日,被告Aの決裁を得て,翌14日に実行された。
(甲B1)
ウ本件融資1後の状況
(ア)陶陶商事の事業の撤退
a本件融資1後も春山グループは原告に対する延滞を繰り返し,本件融資1も平成7年6月から延滞が生じた。
このため,陶陶商事は道玄坂店を閉店することを余儀なくされたが,同店の入居保証金4750万円は滞納家賃約2400万円のほか,春山が原告に隠していた暴力団関係者からの借入金の返済に当てられ,原告の貸付金の回収には回らなかった。
bさらに,本件融資1による新規店舗も,平成10年3月時点では売上は月1200万円,経費控除後の利益は約100万円にとどまるなど計画を大幅に下回り,家賃を長期間滞納(13か月分6800万円)し,家主から明渡し訴訟を提起され,平成10年9月15日を期限として立ち退くこと,返還すべき保証金はないことを確認する旨の裁判上の和解が成立し,明渡しが行われた。
以上により陶陶商事の事業の実態はなくなり,陶陶商事に対する貸付残高の回収は不能となった。
(甲B6,甲B15,甲B16の1及び2)
(イ)本件融資1の回収不能額
a陶陶商事は,本件融資1について,次のとおり合計1728万円を返済したため,その残高は2億4172万円となった。
平成8年3月29日432万円
平成8年5月28日216万円
平成8年6月28日108万円
平成8年9月30日324万円
平成9年3月28日648万円
b上記残高2億4172万円は,平成9年4月28日,別口の貸付金(平成4年9月30日に実行された2億円)の残高1億7228万円と一本化され,4億1400万円の貸付金となった。
陶陶商事は,この4億1400万円の貸付金について,次のとおり合計550万円を返済した。
平成9年5月28日50万円
平成9年6月30日50万円
平成9年7月28日50万円
平成9年9月30日50万円
平成9年12月30日50万円
平成10年3月30日300万円
cそこで,上記550万円を一本化前の本件融資1の残高2億4172万円に充当したものとすると,本件融資1の回収不能額は2億3622万円となる。
(甲B17)
(3)被告らの責任
ア本件融資1の問題点
(ア)以上のとおり,本件は債務超過にあり既存融資の延滞を繰り返し,その返済の見込みの立たない貸出先に対して,新規事業のための資金を新たに融資するものであり,これによる収益で新規融資のみならず既存融資の回収をも図ろうとしたものである。
本件のように既存融資の返済の延滞を繰り返すなど返済能力に重大な懸念が顕在化している貸出先に対する追加的融資は,貸出先が既存債務の返済をすることができなければ直ちに資金ショートを来たし,新規事業自体の遂行も困難となり追加融資分の返済にも支障が生じるおそれがあることから,新たに貸倒れリスクを増大させ回収不能の損害を拡大させる危険性の高いものである。
したがって,融資の判断にあたっては通常の場合にも増して慎重に償還可能性を検討することが必要であり,追
加融資分について確実な担保がある場合か追加融資分のみならず既存融資分の返済を可能とする事業計画の実現について相当高度の蓋然性が客観的に確保されるような特段の事情のない限り融資を差し控えるべきである。
(イ)本件融資1は,既に述べたとおり貸出額2億5900万円に対して担保評価額は9100万円にとどまり大幅な保全不足であり,春山グループの既存店舗はいずれも既存債務の弁済が可能な収益を挙げることが期待できずリストラを検討中であったのであるから,事業計画の実現可能性が審査の最重要ポイントとなるべきところ,本件においては以下のような問題が指摘される。
(ウ)すなわち,前記認定によれば,最終的な本件事業計画は,渋谷区宇田川町に24時間営業の中華風バイキング店(店舗面積75.58坪,120席)を開店し,売上として月2200万円,利益として月740万円を上げ,これにより既存債務(弁済額月約440万円)及び追加融資(弁済額月約230万円)を20年間にわたって弁済するというものであった。
しかることろ,春山の提出した収支計画は,売上見込みとして平日と土日に分けて各時間帯ごとの来客予想(平日は1日平均700名,土日は900名)に客単価を乗じたものを合計し月2190万円から3000万円の売上が見込まれるとし,他方,経費としては,材料費を売上の35パーセント,人件費を10名で300万円,家賃約265万円,光熱費50万円,税金約26万円,雑費400万円合計1450万円とし,利益を740万円としていたが,売上の積算の前提となる各時間帯ごとの来客予想や人件費等の経費について何らの具体的裏付けや客観的資料をも伴わないものであった(甲B1)。
さらに,返済計画についても陶陶商事には道玄坂店の入居保証金2400万円及び税金1500万円の合計3900万円の未払金があった
にもかかわらず,これが返済計画に反映されていないとの指摘が本部審査部からなされているものであった。
そして,本件融資1は,融資内伺についての3回の融資審議会の過程で償還可能性について疑問視する意見が出されていたにもかかわらず,収支計画の根拠の確認・検証や類似店舗あるいは春山グループの既存店舗の実績等と比較した分析・検討はなされず,また本部審査部の指摘も未解決のまま,春山の事業遂行意思の再確認のみを決め手として融資実行の判断が形成されたものである。
しかしながら,本件収支計画は,同種の事例と比較しても,原告の主張するとおり,キャッシュフローでみた利益の売上に占める比率が過大である一方,人件費の売上に占める比率は過小であり,さらに客単価に比して本件店舗の面積が広く初期負担が過大である
との指摘が妥当するものであった(乙ヌ1)。
さらに,現実にも,陶陶商事は,本件融資1から半年足らず後の平成6年6月30日以降,本件融資1の返済の延滞を繰り返し,計画を大幅に下回る実績しか達成できないまま(平成10年3月時点での新規店舗の売上は月1200万円,粗利50パーセント,経費控除後の利益は約100万円にとどまる。),長期間の家賃滞納の末,撤退を余儀なくされるなど,本件事業計画は実現性の乏しいものであった。
以上によれば,本件の事業計画は,その実現の高度の蓋然性を裏付けるものとはほど遠いもので,かかる資料と債務者の意思のみに期待して,既存債務の延滞を繰り返し,債務超過にある貸出先に,大幅な保全不足のまま長期間の融資を行うことは取締役の裁量の範囲を超えた冒険と評価せざるを得ず,本件融資1は審査のための合理的な情報収集・分析,検討を怠って,明らかに償還可能性の乏しい融資を実行したものというべきである。
(エ)なお,被告らは,本件融資1の当時,原告には償却財源がなく,本件融資1を行わなければ原告自身が破綻する危険があったため,これを実行する必要があったと主張する。
しかしながら,本件融資1の稟議書等にはこのような事情は一切触れられておらず,このような考慮が実際になされたのか疑わしいのみならず,破綻回避のための融資であったとしても,それが許されるためには後にカミパレスに対する融資について判示するとおり,原告自体の破綻の危険を除去しうる合理的かつ具体的な施策を伴う必要があるところ,本件においてはこれらについて何らの主張,立証もなく,被告らの主張は失当である。
イ被告らの注意義務違反
(ア)被告A
被告Aは,本件融資1に決裁権限者として関与したが,同被告のこれまでの陶陶商事に対する融資への関与,融資内伺書及び稟議書の記載内容からして,本件融資1に上記のような問題点があることは容易に認識し得たのであり,稟議書における検討の不足・不備は被告Aの立場におかれた銀行の取締役として,これに基づき融資実行の意思決定をすることに当然に躊躇を覚えるべき内容であったというべきである。
しかるに,被告Aは,これを看過して本件稟議を決裁し,明らかに回収可能性の乏しい融資を実行したのであって,取締役の善管注意義務の違反があると認められる。
(イ)被告E
a被告Eは本店営業部を担当する取締役として,営業店業務を推進・統括する立場にあり,融資の申請に対しては必要な調査検討を行い,回収可能性の乏しい融資を推進してはならない注意義務を負っていた。
しかるところ,被告Eは,本店営業部長として春山グループの状況及び本件融資1の内容を知悉していたにもかかわらず,必要な調査・検討を怠り,回収可能性の乏しい本件融資1を推進する稟議書を作成し,決裁権限者に回したのであって,取締役の善管注意義務に違反したものと認められる。
bこれに対して,被告Eは,「本件事業計画の実行により新規融資も既存融資もその事業収益の中から返済させることができると判断したが,大きな金額を担保不足の状態で融資することによるリスクがあった。
他方で,新規貸付に消極という選択は将来7億円以上のロスを出すことにつながるので,融資消極という最終判断を行うためには,償却に対する情報が存在し,償却についての銀行経営上の政策を立てている経営の中枢部に本件案件を上げて,その判断を仰ぐことが必要であった。
そこで,融資内伺を上げたものであり,これにより被告Eは取締役としての注意義務を果たしたものである。」旨主張する。
しかしながら,原告においては,他の銀行と同様に融資の判断の適
正を図るために,営業部店,本部審査部及び融資審議会による重畳的な情報収集・分析,検討の手続が整備されていたが,このようなシステムにおいては,営業部店たる本店営業部は,貸出先と直接の関係を有し,貸出先に関する情報の最も豊富な部署として,融資の申請に対して必要な調査・検討を尽くし,融資の可否についての第1次的判断を行うことが当然の前提となっているというべきである。
したがって,仮に,本店営業部として本件融資1の回収可能性に懸念があり,融資を行うことの相当性に疑問があるというのならば,さらに調査・検討を尽くし,その可否を判断すべきであり,このような調査・検討を行わないまま,償却について判断を求めるために,とりあ
えず融資の方向で内伺や稟議を上げるということは,それ自体が営業部店を担当する取締役の注意義務に違反するものであって,被告Eの主張は採用できない。
また,被告Eは,新規事業により追加融資分及び既存融資分の全額
が回収できなくとも,追加融資分以上の回収が図られれば本件融資1のメリットはあると主張するが,少なくとも追加融資分の回収が図られるためには収支計画どおりの売上が一定期間継続することが前提となるが,既に述べたように本件収支計画はこのような見込みを支えるものとしても不十分であったといわざるを得ない。
(ウ)被告B,被告D及び被告C
a被告B,被告D及び被告Cは融資審議会のメンバーとして本件融資1に関与した。
ところで,証拠(甲A8の1ないし3,甲A9の1,甲A21ない
し24)によれば,原告における融資審議会の権限について,以下のとおり認められる。
すなわち,頭取が決裁権限を有している融資案件のうち,一般取引先の増額1件につき1億円以上の案件等については,融資審議会に付するものとされていた。
融資審議会のメンバーは,本件融資1当時は,副頭取,専務,頭取が指名する常務,審査部長及び審査部長が指名する審査部副部長又は審査部次長であり,副頭取,専務及び常務2名以上の出席を要するものとされていた。
そして,以上のような審議会の構成メンバー,付議の対象案件からして,原告において融資審議会が設置された目的は,重要案件について慎重な審査を行い,頭取の決裁権限の行使の適正を図ることにあった

さらに,融資審議会要綱によると,「この審議会で審議した案件は,審査部副部長又は審査部次長が所定の記録簿に債務者名・金額・稟議番号・取扱い条件及び可否(否決の場合はその事由)を記録する。」旨定められていたことからして,審議会として融資の可否についての結論を出すことが想定されており,融資を可とする場合は出席した取締役は稟議書の役員欄に押印することとなっていた。
原告の融資手続の内規において特段の規程が置かれていなかったことから,融資審議会の結論は必ずしも決裁権限者の判断を拘束するものとは解されないが,融資審議会が否決した案件は上記のような設置の趣旨からして決裁権限者も当然慎重に判断することが期待され,現実にも融資審議会が否決した結果,頭取も融資を認めなかった実例も存した。以上のと
おり認められる。
しかるところ,取締役は取締役会の構成員として代表取締役及び他
の取締役の業務執行全般について監視義務を負っているところ,融資審議会は,上記のような制度趣旨及び機能からして,そのメンバーたる取締役にとっては,監視義務の前提たる情報収集及び監視義務の履行の機会を提供する場とみることが可能である。
しかるに,被告Bらは,既に述べたとおり本件融資1の融資内伺書及び稟議書の記載内容並びに融資審議会における議論状況から,本件融資1についての情報収集・分析,検討に前記の不足・不備があり,これに基づき融資の判断をすることに当然躊躇すべき状況にあったのであるから,そのような融資が実行されることを阻止すべきであったにもかかわらず,融資審議会において本件融資1を承認し,決裁権限者たる頭取
に稟議を回したものであり,取締役の善管注意義務違反たる監視義務違反があったというべきである。
b被告らは,融資審議会において本件融資1に反対する意見を述べたのであるから,取締役の善管注意義務は果たしたと主張する。
しかしながら,仮に,被告らにおいて,本件融資1に反対し,監視
義務を果たしたというためには,融資審議会において融資が否決される結論となるよう他の出席者の説得に努めるとともに,自らが多数となることができない場合にはあくまでも審議会の結論に反対である旨の意見を明記し,決裁権限者への警告を発することが最低限必要であったというべきである。
しかしながら,融資審議会は本件融資1について融資内伺書及び稟議書のいずれについても承認する結果となっており,被告らはいずれも融資内伺書及び稟議書の役員欄に何らの留保もなく押印している(甲B1及び甲B3)のであるから,審議の過程で反対の意見を表明したかどうかは別として,結論として本件融資1に賛成したものであって,取締役としての善管注意義務を
尽くしたとは言い難い。
さらに,被告らの中には,「融資審議会における検討時間が短く検
討を尽くすことができなかった。」あるいは「融資の専門ではないので判断ができなかった。」旨の主張をするものもあるが,いずれも取締役としての任務を放棄する主張であり,自らの責任を否定する理由にならない。
さらに,「融資審議会は,審議する場であり会として結論を出すものではなかった。」,あるいは「稟議書等の役員欄への押印は内容に賛成する趣旨のものではなく,融資審議会に出席したことの確認の意味を有するに過ぎない。」と主張する者もいるが,これらについても既に判示したとおり失当である。
なお,融資審議会の位置付け,機能に関する上記判断は,後に判断
する他の融資案件についても同様である。
(4)結論
以上によれば,被告らには,本件融資1をなすにあたって取締役としての善管注意義務違反があり,その結果前記のとおりの回収不能の損害を原告に与えたものと認めることができ,原告の被告らに対する損害賠償請求権は,原告訴訟引受人に譲渡されたことから,原告訴訟引受人の被告らに対する請求はいずれも理由がある。
2トーコーに対する融資について
(1)証拠(後掲)及び弁論の全趣旨によれば以下の事実が認められる。
ア本件融資2ないし4に至る経緯
(ア)原告は,平成2年8月,地創工業に対して富ヶ谷物件の購入資金として2億円を貸し付けた。
当該貸付の原告担当支店は新宿支店であり,被告Hは新宿支店長として,被告Fは業務推進部及び管理部を担当する専務取締役として,それぞれ上記貸付に関与した。
この貸付は,原告の子会社であるこくぎんリース及びサン・アミティ株式会社(以下「サンアミティ」という。)との協調融資であり,こくぎんリースは7億円,サンアミティは9億円を貸し付けた。
上記協調融資の担保として,富ヶ谷物件に原告,こくぎんリース及びサンアミティに対して,いずれも第1順位の抵当権が設定された。
地創工業は,富ヶ谷物件上で分譲マンションを建設する計画であったが,マンションの建設を全く行わないまま,平成3年10月,銀行取引停止処分を
受けて事実上倒産した。
(甲C4,甲C6の1及び2,甲C8,甲C12,甲C19)
(イ)そこで,サンアミティから,富ヶ谷物件について抵当権に基づく競売が申し立てられ,東京地方裁判所は,平成3年10月14日,不動産競売開始決定を行った。
さらに,東京地方裁判所は,平成4年7月,最低売却価格を3億8240万円と決定した。
このため,競売手続が進行すれば,原告及びこくぎんリースの地創工業に対する融資について,7億円強の損失が発生することが見込まれる状況となった。
(甲C5,甲C7,甲C8)
(ウ)原告では,不良債権の管理・回収については本部監理部が管掌しており,当時の監理部の担当取締役は,被告Fであった。
(甲A2の4,甲A7,甲C21)
上記のとおり,原告及びこくぎんリースの両社で7億円強の損失が発生するとの情報を得た原告本部は,新宿支店長の被告Hに対して,地創工業から追加担保を徴求するなどの方法により損失を軽減させるよう強く指示をした。
被告Hは,地創工業に追加担保を出す余力がなかったことから,原告が第三者に対して富ヶ谷物件の購入資金を貸し付け,富ヶ谷物件を10億円程度で買い取らせ,その買取代金の中からサンアミティに2億円を弁済して抵当権の抹消を得るとともに,原告が1億円,こくぎんリースが7億円の回収を図るという処理案を策定した。
そして,被告Hは,平成4年11月25日,新宿支店の取引先である株式会社ジェイ・ケー・シー(以下「ジェイ・ケー・シー」という。)に買い取らせることとして,上記処理案を原告本
部に打診した。
これに対し,原告本部は,被告Hに融資内伺書を出すように指示したため,被告Hは,同年12月7日,ジェイ・ケー・シーに対して合計12億3000万円を貸し付けるという,上記処理案を反映した融資内伺書を原告本部に対して提出した。
融資内伺書には,営業店意見として,ジェイ・ケー・シーは原告八丁堀支店の取引先であるトーコーと業務・資本提携に向けて話合いを進めており,このような動きに併せてジェ・ケイ・シー主体で富ヶ谷物件上で富ヶ谷ラドンセンター・プロジェクトが進行し,ほぼ計画が煮詰まった旨及び債権保全については富ヶ谷物件の他,不足分をトーコー所有の伊東リゾートマンションを追加担保とする旨記載されている。
(甲C9,甲C21)
(エ)その後,原告本部において前記融資内伺書を検討した結果,富ヶ谷物件は,ジェイ・ケー・シーではなく,八丁堀支店の取引先であるトーコーに買い取らせる方がよいとの結論になった。
(甲C21)
(オ)トーコーは,昭和41年9月30日に設立された広告・広告代理店に関する業務等を目的とする資本金200万円,従業員約80名の会社であり,夏川太郎が代表取締役社長であった。
原告の八丁堀支店は,昭和60年12月に第一勧業銀行の肩替資金の貸付に応じることによりトーコーとの取引を開始し,静岡県伊東市十足のリゾートマンション開発資金として平成2年10月及び平成3年3月に合計5億円の融資を行ったが,同事業の失敗等からトーコーに対する既存融資のうち6億1000万円が長期固定化しており,大蔵省の検査においても第2分類とされていた。
トーコーとしては,伊東市十足の物件売却を図るとともに,本業での売上の拡大のために広告大手のアイ・アンド・エスとの提携を目指して,既にアイ・アンド・エスと提携していたジェイ・ケー・シーとの関係を深めていた。
しかし,既存債務の金利負担等からトーコーの収支は厳しい状況にあり,経常利益は平成3年度及び平成4年度と2年連続で赤字で
あり,資金繰り面でも,平成4年8月ころからはジェイ・ケー・シー等との間で融通手形を振り出すようになっていた。
このため,原告八丁堀支店は,平成4年11月4日,トーコーのグループ会社であるスペースコアから,ジェイ・ケー・シー振出しの約3000万円の手形割引を依頼されたが,トーコーでのジェイ・ケー・シー振出しの手形割引総額が既に約6000万円となっていたことからこれを断るような状況となっていた。
(甲C1,甲C2,甲C3,甲C14,甲C20,甲C21)
(カ)審査部長であった被告Gは,平成4年12月16日午後3時10分,原告八丁堀支店長である秋野に電話をし,上記(エ)の経緯を説明の上,八丁堀支店で受けるかどうか確認したところ,秋野はいろいろな観点から受けざるを得ない旨答えた。
これを受けて,秋野は,同日の午後5時15分,トーコーの夏川太郎と面談したところ,夏川太郎は「本日10時に本店に行って被告G,頭取と会ってきて資金的な援助が得られるという感触を得た。
本格的にこれからつめていくので八丁堀支店で面倒をみてもらいたい。
当面の運転資金1億円については同月25日(金)までに出してもらえばよい。」などと述べたことから,秋野は,同日午後6時,被告Aに架電し,トーコーを買受人とする処理案について確認した。
(甲C21)
(キ)平成4年12月17日,夏川太郎は,秋野に対して,被告Hから1億円は本部も了解していることなので八丁堀支店へ早く申し込むよう助言されたとして,1億円の早期の貸付を打診してきた。
そこで,秋野は,同日,本部審査部を訪れ,被告F及び被告Gに対して新宿支店で何か急ぐ理由があるのか確認するとともに,「本件についてあとあと事故があった場合は八丁堀支店に責任を負わされたら困る。」などと述べたところ,被告Gは,「頭取以下役員も承知していることなのでそれはない。」などと答えた。
(甲C21)
(ク)地創工業とトーコーは,平成4年12月17日,富ヶ谷物件について予定対価を10億1740万7000円として,国土利用計画法第33条1項に基づく届出を渋谷区長に対して行った。
この届出に対して,渋谷区長から,同月21日,不勧告の通知がなされた。
(甲C1)
(ケ)夏川太郎は,平成4年12月18日,秋野に対して,「1億円は22日にできればお願いしたい。
富ヶ谷の件で後順位抹消費用他で1.5億円くらい地創工業に流れているため運転資金がつまっている。
土地の売買は24日がタイムリミットだ。
計画書は21日に提出する。」と申し入れてきた。
また,被告Hは,同日,八丁堀支店を訪れ,秋野と,トーコーに対する融資の稟議書について打合せをしたが,その際,被告Hは秋野に対して「本件にて将来とも何かあった場合には私が責任をとる。
八丁堀支店には迷惑をかけない。」と述べた。
さらに,被告Hは,サンアミティと抵当権抹消につき交渉をしていたが,同日,1億9564万円の弁済と引換えに富ヶ谷物件への9億円の根抵当権を抹消することについて同意を得た。
(甲C10,甲C21)
イ本件融資2及び3の実行
(ア)被告Hは,平成4年12月21日,地創工業に対する前記の融資に関して,富ヶ谷物件に原告が設定していた抵当権抹消に関する融資条件変更稟議書を作成し,翌22日,被告Aの決裁を得た。
同稟議書に添付された店内融資協議書には,営業店意見として,1本件は,当初マンションプロジェクト資金として,サンアミティ9億円,こくぎんリース7億円,当行2億円の取上げをしたものであるが,地創工業は,同プロジェクトによる借入金が80億円ないし85億円となり金利負担増により,平成3年10月に銀行取引停止処分となり,当行の貸付も延滞中であったこと,2平成3年10月に協調融資元のサンアミティが不動産競売を申し立てたが,平成4年7月に最低売却価格が3億8240万円と決定されたこと,3そこで,借主において
任意にて売却すべく活動した結果,今般任意売却先が決定し,後順位者と協議の結果,当行1億円,こくぎんリース7億円を返済し,抹消売却する方針となったものであること,4競売の場合の配当予想は,当行が4248万8000円,こくぎんリースが,1億4871万1000円となるのに対して,任意売却の場合は,当行が1億円,こくぎんリースが7億円となるので,総体を勘案の上,本件応諾いたしたいことなどが記載されていた。
(甲C8)
(イ)平成4年12月21日にトーコーから八丁堀支店に事業計画書が提出された。
この事業計画書は,表紙も含めて5ページのものであり,その内容は,富ヶ谷物件上に「メディカル・ヘルス・センター」を建設・運営することにより,初年度から年間8億2600万円の収入をあげて,5億3160万円の支出を控除した2億9440万円の年間営業利益を実現するというものであり,土地の購入資金及び建設資金等を含めた総事業費を23億1000万円とし,そのうち会員権の売却による入会金を7億円見込み(1口50万円を1000口,1口20万円を1000口,いずれも5年間据置き,全額返済),その差額の16億1000万円が所要資金として必要であるとするものであった。
また,建築されるメディカル・ヘルス・センターのフロ
ア構成,事業計画推進関係者グループ及び事業収支計画等の記載はあったが,前記の資金計画や収支計画の積算の裏付けとなる資料は何ら添付されておらず,また,所要資金のうち,原告から融資を受ける12億7000万円以外の3億4000万円の具体的な調達方法についても全く記載のないものであった。
(甲C1,甲C2,甲C20)
(ウ)平成4年12月21日,原告八丁堀支店は,本件融資2及び本件融資3についての店内協議を行い,本件融資3については同日付で,本件融資2については同月22日付で融資稟議書を作成した。
本件融資2の融資稟議書には,金額11億7000万円は,利率年
6.5パーセント,期間1年間,期間経過後長期切替え(15年予定)とされ,資金使途は富ヶ谷健康センター建設用地購入並びに諸費用と記載されている。
稟議書の添付資料には,貸付額11億7000万円は,富ヶ谷物件の売買代金10億1000万円,差押等抹消代金5000万円,設計料他諸費用8000万円,登記料3000万円の合計であり,このうち合計約10億6000万円(サンアミティへ1億9560万円,こくぎんリースへ7億円,原告新宿支店へ1億円,後順位権利者へ6229万4000円)が債権者への弁済に充てられることとされていた。
また,本件事業計画については,総費用23億1000万円中入会金で7億円を調達することから,所要額はその差額の16億1000万円となり,これを期間15年,年利6.5パーセントで借り入れると,返済額は元利合計で1か月1400万円になるが,本件事業の収入を毎月8260万円,支出は5310万円と見込み,これにより返済する旨の記載がなされていた。
他方,本件融資3の融資稟議書には,金額1億円,利率年6.5パーセント,期間1年間,期間経過後長期切替え(15年予定)とされ,資金使途は富ヶ谷健康センター建設プロジェクトに伴う準備金とされていた。
そして,本件事業計画については,前記の事業計画が添付されているにすぎなかった。
そして,いずれにおいても,1トーコーの経常利益は,平成3年8月期がマイナス2億9200万円の赤字であり,平成4年8月期もマイナス8400万円の赤字であり,2期連続経常赤字であること,2トーコーに対する既存貸付金のうち,約7割を占める6億1000万円について大蔵省の検査により長期固定を理由として第2分類に分類されていたこと,3伊東市十足のリゾートマンションの資金の借入金負担により収支が厳しい状況にあり,物件の売却を図っていること,4流動性預金の平均残高は,平成4年9月以降減少しており,平成4年9月以降,原告において従来なかった手形割引が開始され,平均残高も増加していること,5本業での売上拡大を図るため広告大手のアイ・アンド・エスと業務提携を画策中で平成5年4月以降に正式に提携し
,5年度は業績10億から30億を期待していること,6本件は上記5の事業展開の一つとしてアイ・アンド・エスの業務提携先のジェイ・ケー・シーと共同して計画するものであることが記載されていた。
なお,本件融資2及び3に対する債権保全措置としては,富ヶ谷物件に極度額10億1000万円の根抵当権を新たに設定し,さらに,既に,原告の担保として極度額3億円の根抵当権が設定されていた伊東市十足所在のリゾートマンションの土地建物に極度額3億円及び1億円で後順位の根抵当権を追加設定するとされたが,本件融資2の稟議書によれば,本件融資2及び3の実行により,富ヶ谷物件の時価を本件売買価格とする前提で担保評価した場合には,6億5500万円の担保不足となることが記されていた。
(甲C1,甲C2,甲C20)
(エ)秋野は,被告G及び被告Hと,平成4年12月22日の午前,原告本部審査部において,本件融資2及び3の前記の稟議内容について最終打合せを行った。
その際,ジェイ・ケー・シー及び同社の門柳社長を本件プロジェクトに限定して保証人とすることとした。
(甲C21)
(オ)本件融資2及び3は,審査部の審査を経て,平成4年12月22日,被告F,被告C,被告B及び被告Gらを構成メンバーとする融資審議会の承認を得た上で,決裁権者である被告Aから,同日に本件融資3の,同月24日に本件融資2の決裁を得た。
そして,本件融資2及び本件融資3は,平成4年12月24日に実行され,その結果,原告のトーコーに対する貸付残高は21億8260万9000円となった。
(甲C1,甲C2,甲C21)
(カ)本件融資2は,平成4年12月24日,原告八丁堀支店のトーコー名義の預金口座に全額振り込まれ,そのうちの2億6513万6400円は,翌25日に,サンアミティに対する返済金1億9564万円,その他差押債権者らに対する返済金合計6209万3800円及び登録免許税等の登記手続費用740万2600円として支払われた。
また,8億円は,同月31日,原告新宿支店の地創工業名義の口座を経由して,原告に対する返済金1億円及びこくぎんリースに対する返済金7億円として支払われた。
さらに,2250万円はトーコーにより現金出金され,6000万円は原告八丁堀支店にトーコー名義の定期預金として預け入れられ,670万0721円は,トーコー名義の他行預金口座に送金された。
(甲C11の1)
また,本件融資3は,トーコーは自らの資金繰りに利用し,平成4年12月24日,いったん原告八丁堀支店のトーコー名義の預金口座に全額振り込まれた後,同日割り引かれたジェイ・ケー・シー振出しの手形割引金1699万5000円と一体化された上で,同年12月末までのトーコーの支払資金としてほぼ費消された。
そのうち5500万円は,同月30日に出金され,トーコー名義の他行預金口座を経由して,当時融通手形を振り出し合っていたジェイ・ケー・シーに送金された。
(甲C2,甲C11の2)
なお,被告Hは,平成4年12月25日,トーコーに対する融資に関連して,菓子折りやビール券を持参の上原告八丁堀支店を訪問し,会員権を売却するときには協力するなどと述べた。
また,被告Gは,同日,トーコーに対する富ヶ谷物件の売却等を確認するため新宿支店を訪れた。
(甲C21)
ウ本件融資4の実行
(ア)平成5年1月8日,秋野がジェイ・ケー・シーの門柳社長と面談し,保証人の署名・押印をもらった際に,「富ヶ谷プロジェクトの当面の活動資金として1月中2億4000万円が必要になる。」との話が出た。
(甲C21)
(イ)トーコーは,平成5年1月11日,八丁堀支店に対し,「メディカル・ヘルス・センター〔富ヶ谷店〕事業開発基本費用」と題する書面を提出した。
これによれば,総事業費として26億4550万円が見込まれるのに対し,入会金収入は8億円であり,差引き18億4550万円の所要資金が必要であるとされ,早期費用として合計2億4000万円が必要であると記載されていた。
本書面においても総事業費や出資計画についての積算の具体的な裏付けとなる資料は何ら添付されておらず,また,平成4年12月21日に提出された事業計画書と比較して,所用費用が2億3550万円増加していたが,この変更の理由についても何らの記載もなかった。
(甲C2,甲C3)
夏川太郎は,平成5年1月14日,八丁堀支店を訪問し,秋野に対して「スタッフとして医者をそろえるので見えない金が大分出ている。
プロジェクト総額の10パーセントくらい(23億円)の金が事前になければ思いきった仕事はできない。
地創工業の花守社長から聞いた最初の話では,5億円くらいの運転資金が出て,利息は2年間据置きというものだったが,大分違ってきている。
頭取,被告Gと会って全面的に支援するという言葉があり決心したことでもあり,資金的な面で4億円くらいは面倒をみてもらわないと困る。」などと言って,運転資金としての融資の追加を求めてきた。
秋野は,同日,被告Hに会って確認を求めたところ,被告Hは「夏川太郎が言っている5億円くらいは使っていいという話はしていない。」,「今日,
新宿支店でジェイ・ケー・シーに2000万の融資を実行したが資金繰りがきつそうなのでトーコーからかなり資金が出ているのではないか。
今回の富ヶ谷がらみでジェイ・ケー・シーの資金手当も含まれているのではないか。」などと答えた。
(甲C1)
(ウ)夏川太郎は,平成5年1月22日,秋野に対して,再び2億円の追加融資を求めてきたので,秋野は,夏川太郎に対して,担保が必要である旨答えたところ,夏川太郎は伊豆河津の8000坪の土地はどうかと打診してきたことから,八丁堀支店において当該土地の現地調査をすることとなり,同月25日,八丁堀支店の春駒次長が伊豆河津町の土地について担保調査をした。
(甲C21)
(エ)秋野は,平成5年1月27日,夏川太郎から,2億円の資金使途を聞いたところ,夏川太郎は「平成4年9月から地創工業へ現金で24回にわたり1億数千万円流れているため,本体の支払手形決裁資金に不足を生じてきた。
ジェイ・ケー・シーで7000万円から8000万円,トーコーで5000万円から6000万円足りない。」などと説明した。
秋野から上記報告を受けた被告F,被告G及び被告Hは,同日,本部審査部において,午後2時から2時間にわたり協議した。
その結果,トーコーからの借入れ申込みは,資金使途が不明確であり,担保もないこと,5億円の運転資金は最初から聞いていないことなどから,結論としては,本件プロジェクトについては,今回1億円の融資で打ち切ること,建物についてはその時になって考える
との方針となった。
そこで,秋野から,夏川太郎に対し,原告の方針を伝えたところ,夏川太郎は,「5億円の運転資金が国民銀行から出るという地創工業の花守社長の言葉を信じて,それがあったからこそ土地の肩替わりを引きうけたのであり,1月29日の支手決裁は不足を来している現在何とかしてもらわなければ困る。
被告Hには花守社長に一度会ってもらいたい。
被告Gと会ったときは,7億の土地を10億で引き取ってもらうことになるがそれでいいのかと念を押されたが,私からはそれによって事業をさせてもらいますということを言ってきた。
具体的な金額の明示はしなかったが,5億円の運転資金が出してもらえるものと思っていた。」との対応であった。
(甲C21)
(オ)原告は,トーコーに対し1億円を貸し付ける(本件融資4)こととし,八丁堀支店において店内協議の手続を経た後,審査部の審査を経て,平成5年1月28日に被告F,被告C,被告B及び被告Gらをメンバーとする融資審議会の承認を得た上で,同月29日,決裁権者である被告Aの決裁を得た。
本件融資4の融資稟議書の記載によれば,資金使途は富ヶ谷メディカルヘルスセンター事業開発基本費用とされていたが,その明細は何ら具体的に特定されておらず,事業計画の概要についても,上記メディカル・ヘルス・センター〔富ヶ谷店〕事業開発基本費用と題する書面が添付されているにすぎなかった。
トーコーの経営・財務内容等についての記載は本件融資2及び3とほぼ同内容であり,本件融資4を実行した後の保全不足額は8億1200万円とされていた。
(甲C3)
(カ)本件融資4は,平成5年1月29日に実行され,本件融資4実行後の,原告のトーコーに対する貸付残高は23億4089万5000円となった。
本件融資4は実際には,トーコーの資金繰りに使われた。
すなわち,同日,原告八丁堀支店のトーコー名義の当座預金口座に全額振り込まれた後,同年2月1日にトーコー及びトーコーのグループ会社であるジェイ・ケー・シー振出しの小切手合計1000万0721円と一体化された上で,同月10日までのトーコーの支払資金としてほぼ費消された。
また,そのうち6000万0721円は,同日,当時融通手形を振り出し合っていたジェイ・ケー・シーに対して直接振り込み送金された(甲C3,甲C11の3)。
エトーコーの倒産
(ア)トーコーは,平成5年9月16日に1回目の不渡りを出し,さらに同月20日に2回目の不渡りを出し,同月24日,銀行取引停止処分を受け,事実上倒産した。
なお,トーコーに対する融資のうち大部分は,その後,トーコーアドに重畳的債務引受されたが,そのトーコーアドも,平成10年5月20日に銀行取引停止処分を受けて事実上倒産した。
(甲C14,甲D13)
(イ)トーコー(トーコー倒産後はトーコーアド)は,本件融資2について,次のとおり合計1359万0191円を返済したため,本件融資2の残高は11億5640万9809円となった。
平成6年6月13日20万0000円
平成6年8月10日779万5428円
平成6年8月18日300万0000円
平成6年8月22日6万3325円
平成6年12月1日91万2572円
平成6年12月30日75万1468円
平成7年2月1日86万7398円
その後,上記残高11億5640万9809円は,平成7年6月5
日,別口の融資金(平成5年7月2日に実行された融資金残金2700万円)と一本化され11億8340万9809円の融資金としてトーコーアドが重量的債務引受をした。
トーコーアドは,上記11億8340万9809円の融資金につい
て,次のとおり合計4893万円を返済した。
平成8年7月8日233万0000円
平成8年8月6日233万0000円
平成8年9月6日233万0000円
平成8年10月7日233万0000円
平成8年11月6日233万0000円
平成8年12月6日233万0000円
平成9年1月6日233万0000円
平成9年2月6日233万0000円
平成9年6月10日932万0000円
平成9年7月7日233万0000円
平成9年8月6日233万0000円
平成9年9月8日233万0000円
平成9年10月6日233万0000円
平成9年11月6日233万0000円
平成9年12月8日233万0000円
平成10年1月6日233万0000円
平成10年3月20日466万0000円
そこで,上記の返済額4893万円を上記の一本化前の本件融資2の残高11億5640万9809円に充当したとすると,本件融資2の残高は11億0747万9809円となる。
(甲C15,甲D8)
(ウ)なお,本件融資3については,平成8年6月3日に本件物件1が任意売却され,1億円が弁済充当されたことにより,本件融資3の残高はゼロになり,本件融資4については,平成10年3月24日に伊東市十足のリゾートマンションが任意売却され,3000万円が弁済充当されたことにより,本件融資4の残高は7000万円になった。
(甲C15)
(2)被告らの責任
ア本件融資2ないし4の問題点
(ア)以上のとおり,本件各融資は,新宿支店の取引先である地創工業が事実上倒産し,地創工業に対する原告及びこくぎんリースの貸付金の大半が回収不能となったことから,八丁堀支店の取引先であるトーコーに原告が資金を融資することにより担保物件を買い取らせ,これにより地創工業に対する債権の回収を図ろうとして行われたものである。
銀行が貸付先に対する融資の回収について,担保物件を第三者に売却することにより,法的手続によるよりも有利な回収が見込まれる場合に,自らの取引先に物件を紹介したり,あるいはこれに対して購入資金を融資すること自体は問題とされるべきものではない。
しかしながら,本件においては,以下に指摘するような通常の任意売却による処理とは認め難い問題点があった。
a本件処理は,原告本部から地創工業に対する融資の回収不能の損失を最小化するよう強い指示を受けた新宿支店長の被告Hが発案し,原告本部主導のもとに進められたものであり,トーコーに対する融資の担当支店である八丁堀支店から積み上げられた案件ではない。
b富ヶ谷物件の価格は競売手続において最低売却価格が3億8240万円と決定され,甲C17号証によっても当時の時価としては4億9500万円が相当であるとされている。
被告Gも,富ヶ谷物件の時価は6億円ないし7億円であると認識していたと主張していることからしても,富ヶ谷物件の売買価格10億1000万円は時価と大幅にかい離するものであった。
しかるに,買受人であるトーコーには,富ヶ谷物件について格段に高い価値を見いだすべき事情は認められなかった。
c買受人であるトーコーは,経常利益が2年連続で赤字であり,また伊東市十足のリゾートマンション事業の失敗から原告に対する既存債務のうち6億1000万円が長期固定化し,原告からの借入金の金利負担により資金繰りが厳しい状況にあった。
したがって,債権保全の観点からは,本件各融資の担保となる富ヶ谷物件の時価評価が当然行われるべきであったが,担当支店である八丁堀支店は富ヶ谷物件の時価調査を何ら行わないまま,売買価格とされた金10億1000万円を前提に担保評価を行った。
しかし,このように時価を大幅に上回る価格を前提とした担保評価によっても,本件融資2及び3の実行により6億5500万円,本件融資4の実行により8億1200万円という大幅な担保不足が生じるものであった。
d上記のようなトーコーの経営・財務状況に加えて,時価よりも著しく高額で物件を買い取ることになるのであるから,本来ならば融資の償還可能性の前提となる事業計画の実現可能性については慎重な審査が求められていたはずである。
しかしながら,トーコーから平成4年12月21日に出された事業
計画書は,資金計画として総事業費を23億1000万円とし,このうち会員権の販売により7億円の入金が見込まれることから16億1000万円の資金が必要となるとしていたが,総事業費のうち土地代を除く建物建設費用,機器・機材費,什器・備品,広告宣伝費などの各支出項目については見積書などの具体的根拠を欠き,会員権の売却についても価格の相当性や2000口の会員権をどのように売却していくのか,その見込み等についても何らの裏付けもないものであった(甲C1)。
さらに,所要資金16億1000万円のうち原告からの貸付による12億7000万円を超える3億4000万円についてどのように資金手当を考えているのか不明であり,そもそも
本件各融資はメディカル・ヘルス・センターの運営による営業収益により返済を想定しているにもかかわらず,同センターの建設自体の実現性が懸念されるような状況であった。
さらに,事業計画においては,収支計画としてメディカル・ヘルス・センターの開業により初年度から8億2600万円の収入を上げ,5億3160万円の支出を控除した2億9440万円の年間営業利益を実現するとしていたが,その積算の根拠や実現可能性の裏付けとなる客観的資料は何ら付されていなかった。
トーコーは,上記事業計画書を提出後1か月足らずの平成5年1月11日に,新たに事業計画書を提出してきたが,これによると総事業費は26億4550万円,入会金収入8億円,所要資金18億4550万円となっており,先の事業計画よりも所要資金額が2億3
550万円増加しているにもかかわらず,この変更についての合理的説明はなされていない。
このようにトーコーから提出された事業計画書は極めて不十分なも
のであったにもかかわらず,いずれについても担当支店である八丁堀支店は提出を受けたその日のうちに事業計画書の数字を引き写すだけの店内協議書を作成して稟議に回し,審査部もこれを承認しているのであって,事業計画については何らの審査も行われていないものといわざるを得ない。
e前記のようなトーコーの経営・財務状況からすると,本来ならば,必要額を超えた融資をすることとならないように融資の申出に対して慎重に資金使途を審査すべきものであった。
しかしながら,本件融資2のうちの設計費用8000万円について
は見積り等何らの裏付けもなく(甲C2),さらに本件融資3及び4の各1億円についてはメディカル・ヘルス・センター事業とどのような関係があるのか全く不明であるにもかかわらず,この点についての何らの審査もないままに稟議書が作成され(甲C2,甲C3),融資部の承認がなされた。
そして,実際にも,これらの融資はいずれも本件プロジェクトとは全く関係のないトーコー及びジェイ・ケー・シーの資金繰りに使われた。
(イ)以上に指摘した点及び既に認定した本件の経緯を総合すると,本件各融資は,地創工業に対する既存融資の回収不能による損失の顕在化を避けるため,本部主導のもと,トーコーに富ヶ谷物件を時価を著しく上回る価格で買い取らせることを最優先させ,その見返りに,資金使途や必要資金額の把握,担保価値の評価,事業計画の実現可能性の審査といった審査事務を犠牲にして実行されたものであり,これを「飛ばし」と呼ぶかどうかは別として銀行業務の本来の在り方からは到底是認し難い融資であった。
そして,その結果,地創工業からの回収額をも大幅に上回る回収見込みのない融資をトーコーに対して行うこととなったものである。
(ウ)なお,被告らの中には,本件各融資は原告自身の破綻回避のために必要であったと主張するものもあるが,本件各融資を実行しなければ原告自身の破綻を来すような状況にあったことを認めるに足りる証拠はない。
イ被告らの注意義務違反
(ア)被告A,被告F,被告G及び被告Hの責任
a本件各融資の当時,被告Aは融資決裁権限を有する代表取締役頭取であり,被告Fは不良債権の監理・回収等を所管する監理部担当の代表取締役専務であり,被告Gは常務取締役審査部長,被告Hは取締役新宿支店長であったところ,既に認定したところから明らかなごとく,被告らは本件各融資が新宿支店の既存貸付の回収不能による損失の顕在化を避けることを目的とした実質無審査融資であり,本来の銀行業務に照らし是認し難いものであることを知悉した上,被告Aにおいてはこれを決裁し,その余の被告らにおいてはこれを推進あるいは加担したものであって,銀行の取締役の忠実義務にもとる重大な義務違反があったというべきである。
b被告Gは,「地創工業に対する既存融資の回収について競売手続によると原告及びこくぎんリースで7億円強の損失が確定するのに対して,本件融資2及び3を実行する場合には,地創工業に対する原告及びこくぎんリースの既存貸付金9億円のうち8億円が回収可能となることから地創工業関係の融資の損失は1億円にとどまり,仮に本件融資2及び3(合計12億7000万円)が焦げ付いた場合にも富ヶ谷物件の時価相当額である6億円と貸付金のうち預金に留保される6000万円を除いた6億1000万円が回収不能となるから,損失は合計7億1000万円であり,本件各融資を実行する場合としない場合とでは損失に変わりがない。
他方で,原告の実質的子会社であるこくぎんリースは当時5億円を超える損失を償却できる余力は
なく,またこくぎんリースに資金を貸し付けていた金融機関が資金を引き上げるタイミングをうかがっていたこともあり,仮に本件各融資を実行せず,こくぎんリースにおいて償却が必要な事態となるならば,原告においてこくぎんリースに対する債務免除等により償却財源を捻出するのみならず,他の金融機関の資金の引上げへの肩代わりなど多大な負担が生じたことが予想された。
本件融資2及び3は,以上のような経営判断に基づき実行されたものであって,取締役の裁量の範囲内である。」旨の主張をする。
被告Fも,「競売により原告とこくぎんリースに合計7億円強の損
失が確定するが,富ヶ谷物件の時価が8億円であるとすると本件融資2及び3を実行する場合は,これらの融資が回収不能となっても,損失は地創工業分の1億円と本件融資2及び3の合計額12億7000万円から富ヶ谷物件の時価相当分を控除した5億7000万円の合計6億7000万円となり,かえって有利であり,本件融資2及び3を実行することは経済合理性にかなうとともに,原告には損害は発生していない。」旨主張する。
cしかしながら,まず,本件各融資を行う場合とそうでない場合の損失比較については,本件各融資は既に述べたとおり本来の銀行業務に照らして到底是認できない無審査融資であり,このような取締役の忠実義務にもとる違法融資を仕組むことにより得られる回収分をあらかじめ利益に計上することにより,自らの経営判断の正当性を主張することは許されるべきものではない。
また,仮に,被告らの主張が損益相殺の主張を含む趣旨であるとしても,既に述べたところと同様に,本件のような場合に既存融資の回収分について損益相殺を認めることは,かえって取締役の忠実義務違反を助長することにもなり損害の衡平な分担という損益相殺の制度趣旨にも反するのみならず,そもそも本件においては,前記のとおり11億7747万9809
円が回収不能となっており,仮に地創工業関係での回収利益を差し引いても原告請求額を上回る損害が発生していることは明らかである。
次に,こくぎんリースの支援の必要性についても,地創工業の抵当
権抹消の稟議書あるいは本件各融資の稟議書の審査部の意見等にもこの点に触れる何らの記載がなく,またこのように重要な事項については当然相談や承認を求められるべき立場にあった被告Aや被告F自身から本件訴訟でそのような主張がなされていないことからしても,被告G主張のような考慮が本件各融資に際しての組織の意思決定として検討されたとすること自体大いに疑問がある。
仮に,こくぎんリースに対する支援と考える場合にも,銀行が支援として短期的な損失を甘受することが許されるのは,それを上回る長期的な利益が見込まれる場合に限り,その実現策が具体的に検討されるとともに,損失負担の方法が相当であることなどの条件を満たすことが必要であ
ると考えられるが,本件においては上記のとおり方法の相当性に問題があるのみならず,その余の点についても具体的な検討がなされたとの主張がない。
以上のとおり,被告らの主張はいずれも失当である。
(イ)被告B及び被告Cの責任
被告B及び被告Cは融資審議会のメンバーとして本件各融資に関与した。
両被告は,本件各融資が新宿支店の既存融資の損失の顕在化を回避することを目的とした実質無審査融資であることまでの認識を有していたことを認めるに足りる証拠はないが,既に認定したとおり融資審議会の資料たる本件各融資の稟議書の記載自体から,トーコーの経営・財務状況が厳しく,本件各融資の実行により大幅な担保不足が生じること,他方で,資金使途の把握や事業計画の実現可能性の審査について不足・不備があることは認識可能であったのであり,本件各融資の償還可能性について当然躊躇を覚えるべきものであったにもかかわらず,融資審議会において本件各融資を承認したものであって,取締役の監視義務に違反したものというべきである。
(3)結論
以上のとおり被告らには本件各融資について取締役の注意義務違反が認められるところ,既に認定したとおり,原告の請求額を超える損害が発生していることが明らかであり,原告の被告らに対する損害賠償請求権は,原告訴訟引受人に譲渡されていることから,原告訴訟引受人の被告らに対する請求はいずれも理由がある。
3トーコーアドに対する融資について
(1)本件事実関係について
証拠(後掲)及び弁論の全趣旨によれば以下の事実が認められる。
ア本件融資5及び6に至る経緯
(ア)トーコーアド(旧商号株式会社トーコー写植ブラシセンター)は,昭和45年5月26日に写真植字及び写真修正業務を営むことを目的として設立された株式会社であり,トーコーのグループに属する会社である。
トーコーアドの代表取締役は,トーコーと同じく,夏川太郎であったが,トーコーの倒産直前である平成5年8月14日に,夏川太郎が代表取締役を辞任し,同人の子である夏川杉男がトーコーアドの代表取締役になった。
夏川太郎は,その後も,トーコーアドの取締役・会長に就任して,同社の経営に実質的にかかわった。
(甲D4)
(イ)トーコーは,前記のとおり,平成5年9月に不渡りを出して事実上倒産したが,当時の原告のトーコーに対する債権残高は24億1305万4000円となっていた。
トーコーは,平成5年10月22日に開かれた債権者集会において,トーコーアドでトーコーの営業を引き継ぐ方法により任意整理を行う方針を示し,7名の一般債権者からなる債権者委員会の設置を提案し,了承された。
(甲C14,甲D5)
その後,平成6年1月ころから原告本部,監理部及び八丁堀支店と夏川太郎との間で,トーコーの債務をトーコーアドが債務引受して分割返済する方法によるトーコーに対する不良債権の整理策が断続的に話し合われた。
(ウ)原告は,平成7年5月26日,延滞貸出金回収促進委員会(委員長は被告B)において,トーコーに対する不良債権の整理策として,1トーコーに対する不良債権のうち11億8300万円をトーコーアドに債務引受させること,2債務引受においては,原告はトーコーアドに対してトーコーの債務の返済資金11億8300万円を貸し付け,原告がトーコーに対する融資について同額を回収した形式を整えること,3原告はトーコーアドに対してトーコー所有の借地権付本件建物をトーコーアドが譲り受けるための資金(担保権解除資金・名義書換料)及びトーコーアドの運転資金等として3億4000万円を新規に貸し付けること,4以上の債務の返済は15年分割弁済とすること,5トーコーアドから原告になされていた1億円の借入れ申込
みについては,トーコーアドの資金操り・業況等を勘案し,短期扱いで対応することなどを決定した。
これを受けて,トーコーアドに対する金3億4000万円と金11億8341万円の融資が,平成7年6月2日,融資審議会で承認され,被告Aの決裁を受けて,同月5日実行された。
被告B及び被告Cは,融資審議会のメンバーとして融資に関与した。
この稟議書には,トーコーアドは,平成6年3月期における平均月商が2800万円,営業損益が2600万円の赤字,経常損益が3000万円の赤字とされており,担当支店である八丁堀支店,審査部,監理部の意見とも,保全不足,償還財源不足であるが,債権整理・回収上やむを得ないとするものであった。
(甲D6,7)
(エ)その後も,原告は,平成7年7月27日,トーコーアドに対し,トーコーアドが請け負った原宿焼き肉店内装工事を外注するについての下請先への支払資金として5800万円を貸し付けた。
被告Bは,この融資を決裁し,被告C及び被告Iは融資審議会のメンバーとしてこれに関与した。
(甲D9)
原告は,平成8年10月1日に開催された原告の延滞貸出金回収促進委員会(委員長は被告B)において,トーコーに対する不良債権の追加整理策として,1トーコーアドが,トーコーの原告に対する債務のうち1億3000万円を重畳的に引き受けること,2これと引換えに,原告が,トーコーアドに対し,1億円を貸し付けることを決めた。
このトーコーアドに対する1億円の融資は,トーコーアドが請け負った上記の焼き肉店の内装工事に施行ミスがあり,契約を解除されたことから,完成した内装工事一式を放置することもできず,トーコーアド自身が,焼き肉店の経営を引き継ぐこととなったために必要となった資金及び前記の5800万円の貸付の回収資金を貸し付けるものであった。
この追加整理策を受けて,トーコーアドに対する
1億円の融資が,同月14日に被告Bの決裁を得た上,翌15日に実行された。
この融資の稟議書において,八丁堀支店は,トーコーアドにとって当該事業は新規分野であること,トーコーアドは債務超過の状態にあり,保全も不足しており,財務内容も不良資産があるとの問題点を指摘していた。
(甲D10,11)
(オ)トーコーアドの取引先である株式会社自然食品センター本店(以下「自然食品センター」という。)は,平成9年2月28日に1回目の手形不渡り,同年3月10日に2回目の手形不渡りを出して事実上倒産した。
トーコーアドは,同年3月25日当時,自然食品センターに対する売掛総額が6543万6728円となっており,同社の倒産により「非常に苦しい状況に追い込まれており,このまま推移いたしますとまた倒産という大きな問題になり兼ねません。」などと記載された書面を原告の八丁堀支店に提出して,原告に対する元利金の返済について猶予を申し入れ,翌26日,自然食品センター振出しの手形2通(額面合計3562万0748円)を高利貸しで割り引いていたため買戻請求されて資金繰りが悪化した旨を原告の八丁堀支店長海老根次郎(以下「海老根」という。)に対して説明した。
そして,トーコーアドは,債務引受に伴う融資金11億8340万9809円及び3億4000万円並びに焼き肉店開店資金に対する融資金1億円について,原告に対する元利金の支払を平成9年3月分以降順次停止した。
(甲D12,13)。
イ本件融資5の実行
(ア)海老根からの報告を受けた原告本部監理部加須美副部長(以下「加須美」という。)は,海老根に対し,今後のトーコーアドの資金繰りや元利金の支払の見通しを把握するとともに,トーコーアドに対する支払の督促を強めるよう指示した。
海老根は,平成9年5月14日,夏川太郎らに来店を求め,トーコーアドに対して,元利金の支払を督促するとともに,9月ころまでの資金繰表,平成9年3月期の決算予想,他からの借入れ状況等の資料を提出するように求めた。
これを受けて,トーコーアドから提出された他からの借入れ状況は,高利貸しであるエヌ・アンド・ビー及び森田商会からそれぞれ1億円及び4000万円,商工ファンドから400万円,明治乳業の子会社から1500万円となっていた。
また,トーコーアドが提出してきた決算書には,自然食品センターに対する売掛金等が記載されていないなどの問題のあるものであったが,この点についてトーコーアドから合理的な説明はなされなかった。
(甲D13)
(イ)夏川太郎は,平成9年6月2日,原告の加須美を訪問し,手形決裁資金として同月10日に3000万円,同年8月10日に2000万円が不足するとして,合計5500万円の追加借入れの申込みを行った。
(甲D13)
(ウ)平成9年6月4日,加須美から海老根に対して,審査部長を交えて話合いをした結果,トーコーアドからの借入れ申込みについて面倒を見ることとなった旨の連絡がなされた。(甲D13)
(エ)これを受けて八丁堀支店は,同月6日,本件融資5について店内協議を行い,審査部及び監査部担当の代表取締役副頭取であった被告Bの承認を得た上で,同月9日,決裁権限者である被告Aの決裁を得て,同月10日,本件融資5を実行した。
本件融資5の融資稟議書の記載及び添付資料からは,1トーコーアドは平成9年3月の自然食品センターの倒産により売掛金6500万円の焦げ付きが生じるとともに高利貸しで割り引いた同社振出しの手形(3500万円)の買戻しを求められ,資金繰りが悪化し,原告への返済が延滞していること,2上記資金繰りのためトーコーアドは高利貸しから8000万円の借入れを行ったこと,3本件融資5は原告に対する延滞解消資金2300万円,6月10日の手形決裁資金3500万円に充てられること,4トーコーアドの売上は,平成7年度及び平成8年度の平均月商が8100万円であるのに対して,平成9年4月の月商が6500万円,5月の月商が6800万円と減少していること,5トーコーアドの決算書には平成9年3月期におい
て資産は18億7620万円であるのに対して,負債は18億8460万円であり,840万円の債務超過であったこと及びこの決算書には自然食品センターの売掛金,これに対する買掛金や高利貸しからの借入金も計上しておらず不明確なものであり,実際の債務超過額はさらに拡大することが見込まれたこと,6大蔵省検査により債務超過を理由としてトーコーアドに対する貸付金残金15億8100万円のうち,1億8000万円が第2分類と,14億0100万円が第3分類とされていたこと,7トーコーアドの格付が,原告内部の貸出先の分類基準によれば,「企業資質面で問題有りとされた先」「問題点を洗い直し,仕振,保全の強化ができない場合には圧縮する先」であるDランクとされていたこと,8本件融資5について新たな物的担保は徴求
されておらず,本件融資5の実行後には15億5700万円の保全不足となることなどが明らかであった。
(甲A10,甲D1)
ウ本件融資6の実行
(ア)トーコーアドから提出された資金繰表によると,本件融資5実行後の原告からの追加融資は,8月10日の手形決裁資金2000万円が予定されているだけのはずであったが,夏川太郎は,平成9年7月9日,被告Bを訪問し,手形不渡りによる清算金6500万円と運転資金5000万円の合計1億1500万円を追加融資してほしい旨申し出た。
(甲D1,甲D13)
(イ)八丁堀支店は,平成9年7月25日,本件融資6について店内協議を経て,稟議を回し,同月28日に被告B,被告C,被告I及び被告Kを構成メンバーとする融資審議会の承認を得た上で,同日,決裁権者である被告Aの決裁を得て,同月30日,本件融資6を実行した。
本件融資6の稟議書の記載及びその添付資料からは,1トーコーアドは,倒産したトーコーの債務引受を行い,これを分割返済中であること,2本件融資6のうち,6500万円は,取引先である自然食品センターの倒産により資金繰りが悪化したことから,急場をしのぐ為に高利貸しから借りた借入金5000万円の返済(エヌ・アンド・ビーに2500万円,森田商会に2500万円)及び自然食品センターに係る買掛金1500万円の返済に充てられるものであり,その余の5000万円は,明治乳業の子会社との取引開始に伴う運転資金に充てられるものであること,3高利貸しであるエヌ・アンド・ビーにはトーコー倒産時の借入金7500万円があり,元金据置きで利息を毎月75万円は返済中であり,売上が軌道に乗った時点で元本
の返済を行うこととなっていたこと,4本件融資6は新たに物的担保を徴求するものではなく,本件融資6実行時には,保全不足額が16億5500万円となることのほか,トーコーアドの経営・財務状況について本件融資5の稟議書におけると同様の趣旨が明らかであった。
(甲D3,甲D13)
エ本件融資5及び6実行後の状況
(ア)トーコーアドは,平成10年5月11日に第1回の不渡りを出し,同月15日に第2回の不渡りを出し,同月20日に,銀行取引停止処分を受けて事実上倒産した。
(甲D13)
(イ)なお,トーコーアドは,本件融資5について,次のとおり合計280万円を返済したため,本件融資5の残高は5220万円となった。
平成10年1月6日70万円
平成10年3月20日140万円
平成10年4月20日70万円
また,トーコーアドは,本件融資6について,平成10年3月20日に294万円を返済したため,本件融資6の残高は1億1206万円となった。
(甲D14)
(2)被告らの責任
ア本件各融資の問題点
(ア)本件各融資は,倒産会社の多額の債務を引き受け,自らも債務超過状態にある会社が,取引先の倒産により資金繰りが悪化し,原告への返済を延滞させるとともに高利貸しからの借入れでしのいでいる状態にあるのに対して,無担保でさらに追加融資を行ったものである。
(イ)本件融資5の資金の使途は,原告に対する延滞金の支払資金及び手形決裁資金であり,その返済原資はトーコーアドの事業収益しかないところ,売上は減少傾向にあり,高利貸しへの返済を含む既存債務の返済に加えて本件融資5の返済原資を賄えるだけの収益の格段の向上を見込む具体的な根拠は全くなかったのであるから,償還可能性の極めて乏しい融資であったといわざるを得ない。
(ウ)また,本件融資6の資金の使途は,高利貸し等への返済資金及び明治乳業の子会社との取引の開始のための運転資金であるところ,稟議書における管理部の意見は返済原資として,明治乳業の子会社との取引の開始により年間7億円の売上が見込まれるとしているが(甲D2,甲D3),これは従来のトーコーアドの年間売上にも匹敵するものであり(甲D1),果たしてそのような大幅な売上の増大が確実に期待できるものであるかどうか,その取引の内容について具体的な検討が行われているわけではなく,また運転資金5000万円がどのように売上拡大のために必要であるのかの把握もなされていなかった。
そして,現実にも明治乳業の子会社との取引は不調であり,当初の見込みに反して月2000万円程度の売上しか実現できなかった
(甲D13)。
このように,本件融資6も高利貸しへの7500万円の債務を含む既存債務に加えて,本件融資6の返済を期待し得る根拠の全く薄弱な融資であった。
(エ)以上要するに,本件各融資は,債務超過に陥った会社に対して再建の具体的な見込みもないまま,無担保で徒に回収可能性のない融資を継続し,当該会社破綻時の原告の傷口を広げたものといわざるを得ない。
(オ)なお,被告らは,本件各融資は原告自身の破綻回避のために必要であったとしてその正当性を主張するが,仮に破綻回避を目的とする融資であったとしても,これが許されるのは,後にカミパレスに対する融資について判示するとおり,原告の破綻の危険性を除去しうる合理的かつ具体的な計画が必要であるところ,本件においてはこのような検討がなされたことを認めるに足りる証拠は全くないから,失当である。
イ被告らの注意義務
(ア)被告A
被告Aは,決裁権限を有する代表取締役頭取として,本件融資5及び6を決裁したが,稟議書の記載内容からして,本件各融資に上記のような問題点があることは容易に知り得たのであり,稟議書における検討の不足・不備は被告Aの立場におかれた銀行の取締役として,これに基づき融資実行の意思決定をすることに当然に躊躇を覚えるべき内容であったというべきである。
しかし,被告Aは,前記認定のとおり,これを看過し,明らかに回収可能性の乏しい融資を実行したのであり,取締役の善管注意義務の違反があると認められる。
(イ)被告Bの責任
被告Bは,審査部及び監理部を担当する代表取締役副頭取として,本件融資5の稟議書を承認し,また,融資審議会のメンバーとして本件融資6を承認し,決裁権者たる頭取に稟議を回した。
しかるところ,被告Bは,稟議書の記載内容からして,本件各融資に上記のような問題点があることは容易に認識し得たのであるから,監視義務を負う取締役としてこの様な融資が実行されることを阻止すべきであったにもかかわらず,上記のとおりこれを怠り,取締役の善管注意義務に違反したものと認められる。
(ウ)被告C,被告I及び被告Kの責任
被告C,被告I及び被告Kは,融資審議会のメンバーとして本件融資6に関与した。
そして,稟議書の記載内容からして,被告らは,本件融資6に上記のような問題点があることは容易に認識し得たのであり,稟議書における検討の不足・不備は被告らの立場におかれた銀行の取締役として,これに基づき融資の判断をすることに当然に躊躇を覚えるべき内容であったというべきものであるから,この様な融資が実行されることを阻止すべきであったにもかかわらず,融資審議会において本件融資6を承認し,決裁権者たる頭取に稟議を回したものである。
したがって,被告らには,取締役の監視義務違反たる善管注意義務違反があったというべきである。
(3)結論
以上によれば,被告らには,本件各融資をなすにあたって取締役としての善管注意義務違反に違反し(被告C,被告I及び被告Kについては本件融資6についてのみ),その結果前記のとおりの回収不能の損害を原告に与えたものであり,原告の被告らに対する損害賠償請求権は,原告訴訟引受人に譲渡されていることを認めることができるから,原告訴訟引受人の被告らに対する請求はいずれも理由がある。
4国際販売に対する融資について
(1)証拠(後掲)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。
ア本件融資7に至る経過
(ア)国際販売
国際販売は,昭和45年に国際不動産株式会社の商号で設立された不動産取引を業とする株式会社であり(平成2年11月1日に現商号に変更),国際商事こと桜貝健太(以下「桜貝」という。)が代表取締役であった。
国際販売は,桜貝の率いる国際商事グループのl社であり,神田及び上野地区を中心に都心の物件を扱っていた。
原告は,昭和61年2月から国際販売と与信取引を開始した。
(甲E1,甲E11)
(イ)成和鉄工株式会社の破綻
a成和鉄工は,鉄骨工事を業として昭和43年に設立された会社であり,昭和49年8月から原告の神田支店と与信取引を開始した。
成和鉄工は,平成2年l月5日,2回目の手形不渡りを出し,同月l0日,銀行取引停止処分を受けて事実上倒産した。
原告は,成和鉄工の倒産当時,同社及び蜻蛉の代表取締役青桐正義に対し,元金約3億6000万円余りの貸金債権を有していた。
(甲E1)
b原告は,上記債権の担保として蜻蛉所有に係る東京都台東区西浅草○丁目○番に所在する土地建物である西浅草物件に対し,第2順位から第4順位まで,極度額合計3億6000万円の根抵当権を設定していたが,同物件には,第一勧業信用組合が第1順位の極度額7億円の根抵当権を設定していた。
(甲E2のl,甲E3)
c平成2年11月,第一勧業信用組合は,東京地方裁判所に対し,根抵当権に基づき西浅草物件の不動産競売の申立てを行い,同裁判所は,同月27日,競売開始決定を行い,平成3年8月30日に最低売却価額を2億9598万円とする期間入札の通知を発出した。
(甲E4,甲E5)
(ウ)西浅草物件の売却交渉
a成和鉄工の倒産当時の原告の神田支店長であった被告E(国際販売に対する案件では,被告Eの責任は問われていない。)は,成和鉄工の倒産後,同社に対する貸金を回収すべく,同じく神田支店の取引先であった国際販売に対し,西浅草物件の購入を打診した。
(甲E3)
b被告Eが原告本店営業部に異動となったことから,平成3年5月以降は,西浅草物件の購入のための交渉は,従来より国際販売に対する融資を担当していた神田支店融資課長の草笛麻雄(以下「草笛」という。)が引き継いだ。
(甲E24)
c平成3年6月7日,草笛は,審査部の雲海審査役を訪ね,成和鉄工に対する貸付金の回収策として,国際商事に西浅草物件の購入を打診中であることを説明の上,審査部の考え方を確認したところ,雲海審査役は,従前から話は聞いており,審査部長及び監理部と協議の上,同年6月12日ころ迄に具体的指示をする旨答えた。
平成3年6月12日,草笛は,再び雲海審査役を訪ね,上記の件について確認したところ,被告G(当時,審査部長)から直接,1西浅草物件の売却希望価格は11億円であるが,10億5000万円まで価格を引き下げることは可能であること,2抱き合わせ融資は10億円まで認められること,3国際販売と交渉した経過を報告することなどの指示を受けた。
d平成3年6月13日,草笛が,桜貝と面談したところ,桜貝より,1西浅草物件の購入意思はあるが,不動産価格は高く見積もっても8億5000万円程度であり,価格が高すぎることから再考してほしいこと,2抱き合わせ融資は,東京都江東区森下○丁目○番○号に所在する物件(以下「森下物件」という。)の8億円(土地5億円,建築工事代金3億円)としてもらいたいこと等の要望を受けた。
草笛は,桜貝の要望を審査部の雲海審査役に連絡したところ,被告Gより直接電話があり,1価格は10億5000万円が限度であり,やむを得ない場合にはl000万円から2000万円の引下げは可能であること,2抱き合わせ融資を8億円とすることは可能であること等が伝えられた。
e平成3年6月14日,草笛は国際商事を訪問し,西浅草物件に関する融資については,土地価格を10億5000万円,改装費1億5000万円とし,利息1年分8000万円及び機器リース料を前貸しするとの条件で了解する旨を伝えるとともに,融資は,西浅草物件と森下物件の抱き合わせ融資であることを確認した。
平成3年6月21日,草笛は,国際商事を訪問し,桜貝に対して,10億5000万円で西浅草物件を購入することについて意思確認を行ったところ,桜貝より,同年7月1日に森下物件の売買をしたいので,同日までに5億円を融資して欲しい旨依頼された。
草笛は,同年6月21日,審査部を訪問し,雲海審査役と協議した結果,森下物件に関する融資の稟議書を作成するとともに,西浅草物件の売買についても同時進行するとの打合せがなされた。
f平成3年6月24日,草笛は,審査部を訪問し,被告Gから,西浅草物件の引渡時期等について指示を受けたが,その際,被告F(当時,監査部担当の専務取締役)より,草笛に対し,本件融資7については,西浅草物件及び森下物件の融資を同時に実行するよう指示がなされた。
g平成3年6月26日,草笛は,被告Gから,本件融資7を実行する方向で話を進めるが,役員会等も必要であり時間がないため,森下物件の売買を1週間程度延期することを桜貝に依頼するよう指示を受けた。
そこで,草笛は,国際商事を訪問し,森下物件の5億円の融資を同年7月l日に実行することは不可能である旨伝えたところ,桜貝より,森下物件の契約書上,違約金条項があり,売買の延期はできないことを伝えられ,同日の5億円融資の実行を再検討するよう依頼された。
そこで,草笛は,被告Gに電話し,桜貝の要望を伝えたが,被告Gより,同日の5億円の融資の実行は不可能なので,本件をキャンセルするよう指示された。
草笛が,その旨を国際商事に連絡したところ,桜貝は,「本件については,原告から持ち出した話であり,納得
できない。
原告が理不尽な行動をしている旨報道に公開する。」とし,草笛に再検討を迫った。
(aからgにつき,甲E24)
(エ)抱き合わせ融資の実行
a結局,原告は,国際販売に譲歩することとし,平成3年7月l日,国際販売が西浅草物件を10億5000万円の価格で蜻蛉から購入する意思があることを確認するため,国際販売より同金額による同日付の買付証明を徴求した上,被告A,被告F及び被告G(当時,常務取締役)をメンバーとする融資審議会を開催し,森下物件の土地部分の購入資金5億円の貸付について了承した後,被告Jがこれを決裁し,融資が実行された(以下「森下物件融資」という。)。
b森下物件融資の融資稟議書及び添付資料によれば,1申込金額5億円,利率年8.5パーセント,返済期間は1年11か月とし,期限後長期へ切替え(20年割賦)予定であること,2資金使途は,店舗付賃貸マンション用土地購入資金であること,3融資実行後の融資残高は8億円,担保評価額は5億2000万円であり,保全不足額は2億8000万円であること,4本件プロジェクトの利回りが20年平均で年6.63パーセントであること,5国際販売は,平成3年3月期の決算の当期利益1億2100万円,減価償却が4億9300万円あり,これをベースにすると6億1000万円の償還能力があり,弁済懸念がないこと等が記載されているが,貸付日前後の国際販売の月商欄は空欄のままであった。
また,国際販売の借入金の合計額は,4
95億円余りに達し,原告が国際販売に同年4月26日になした2億円の手形貸付が延滞となっているとされていた。
また,稟議書には,国際販売から提出された店舗付賃貸マンションの計画書が提出されていたが,これは,保証金,賃貸収入,初期支出,経常収入,経常支出などの積算を記載したわずか2ページの書面に過ぎず,建物の設計図や工事見積り,家賃・保証金の価格設定等の根拠を何ら伴わないものであり,また家賃収入を年間4946万円と見込んでいながら,20年間の元利均等弁済額は年間8300万円となっており,収支において赤字となることが見込まれるものであった。
(a及びbにつき,甲E9)
(オ)西浅草物件の売買契約
平成3年9月30日,蜻蛉と国際販売との間で,代金総額10億5000万円とし,うち手付金4000万円を契約書作成と同時に,残金10億1000万円を平成4年2月6日までに支払う旨の西浅草物件の売買契約が締結された。
(甲Ell)
平成3年9月30日,原告は,国際販売に対し,合計4300万円(西浅草物件購入手付金4000万円及び諸経費300万円)を貸し付けた。
そして,同社が蜻蛉に対し支払うべき手付金4000万円のうち3500万が蜻蛉を経由せず,直接国際販売から原告へ振り替えられ,成和鉄工に対する未収利息金3500万円の弁済に充当された。
(甲E1)
また,平成3年9月30日,原告は,西浅草物件の売買契約が正式に締結されたことから,第一勧業信用組合に対し,国際販売が蜻蛉から西浅草物件を購入するにあたり購入資金を融資する用意があるので,競売手続を延期もしくは取り下げるよう求める「願い書」を提出した。
(甲E12の1,甲E12の2,甲E12の3)
イ本件融資7の実行
(ア)本件融資7は,平成4年l月30日,神田支店における店内協議の手続を経た後,同年2月4日に審査部の審査を経て,同月5日,被告A,被告F,被告B及び被告Gをメンバーとする融資審議会の承認を得た上で,被告Jの決裁を得て,同月6日,実行された。
(甲E1)
(イ)本件融資7の融資稟議書及びその添付資料について
a本件融資7の融資稟議書及びその添付資料には,申込金額は13億円であり,返済条件は,利率年7パーセント,期間11か月とし,期限後に長期へ切替え予定であるとされていた。
bそして,資金使途は,土地建物購入資金10億5000万円,建物改修資金他2億5000万円であり,その内訳として,1平成3年9月30日付貸付金(手付金)の回収金4300万円,2西浅草物件購入残金10億1000万円,3西浅草物件の改修工事費(ホテルからカラオケルーム)l億5000万円,4l年分の金利8500万円,5諸費用1200万円となっていた。
c次に,担保評価については,本件融資7実行後の総融資額が18億6000万円となるのに対して,担保評価額が9億9200万円であることから8億6800万円余りの担保不足であり,担保不動産を時価評価しても16億5000万円に過ぎないことから,2億1000万円の保全不足であることなどが記載されていた。
しかしながら,西浅草物件に関する鑑定や公示価格・路線価格等の調査は行われておらず,本件融資7より1年近く前の平成3年3月1日付の不動産業者による西浅草物件を11億2000万円で売却する広告が添付されたのみであり,担保物件の実地調査の年月日も平成「3年l月20日」と本件融資7実行日よりl年以上も前の日が記載されていた。
さらに,本件融資7は保証人を桜貝としていたが,稟議書上,桜貝の正味
資産の欄には何ら記載がなく,桜貝の支払能力・資産等についての資料も添付されていなかった。
d国際販売の経営状況については,1咋今の業種規制,土地政策により,売買実績は低迷なるも,カラオケルーム直営等経営の多角化を進めていること,2国際販売は,土地建物の売上において,金融費用を除外すると年間9100万円の営業収入があるが,9月30日現在借入金が合計506億5000万円あり,うち95パーセントは利息が棚上げとなっていること,3これらの借入金の金利を平均年8パーセントとみると,借入金のうち棚上げされている5パーセント部分の支払利息が2億0300万円となるが,上記の営業収入により支払える9100万円を除いた1億1200万円について金策中であること,4国際販売の有する事業用固定資産は,帳簿上449億円余りであるが,時価は883億円余りであることが記載されていたが,国際
販売が所有する資産の具体的な内容等についての資料は添付されておらず,融資稟議書の融資前後の国際販売の月商記載欄も空欄のままであった。
e本件融資7の返済計画としては,国際販売が提出した営業収支計画をもとに,西浅草物件をカラオケルームヘ改修し,その経営により返済原資を捻出することとされていたが,国際販売より提出された営業収支計画は,国際販売が東上野で営業するカラオケルームの実績を基に,西浅草物件のホテル12室をカラオケルームに変更し,年間売上高を約1億9699万円と見込み,約8671万円の経費と9075万円の借入れ利息を支払い,2052万円余りの利益を確保するというものであった。
しかしながら,改修のための見積書も入手中とのみ記載され,また,国際販売が現に東上野で営業するカラオケルームに関する資料や同業の近隣店舗や一般的な業種別の数値のデータ等の資料も添付されていなかった。
さらに,利息及び元金の返済計画は
,計算上の可能性として示されているにとどまり,それにおいても約30年の長期に及ぶものであり,約1年後に営業の実績を見て検討するというもので,その間の設備投資の必要性や情勢の変化等は考慮されておらず,具体的返済計画として策定され,その実現可能性が検討されているとは到底言い難いものであった。
(aからeにつき,甲E1)
ウ本件融資7前後の国際販売の状況
(ア)国際販売は,不動産市況の低迷による減収,大規模設備投資による返済負担増から,資金繰りが悪化し,平成3年3月ころには株式会社住宅ローンサービスに対する支払を延滞している状況にあった。
(甲El3,甲E14,甲E15)
さらに,国際販売は,平成3年5月31日,原告から,1億円を毎月元金1000万円分割支払の約定で借り入れたが,同社は,1000万円の割賦金を2回返済した時点で支払を遅延し,その後本件融資7実行前までにさらに2000万円の返済が行われたのみであった。
(甲E1,甲E25)
(イ)さらに,本件融資7当時,国際販売の経営内容は,以下のとおり悪化していた。
a本件融資7が実行された年度である平成3年度(平成3年4月l日から同4年3月31日)の国際販売の業績は,次のとおり土地建物の売上及び仕入が,前年度の10分の1に低下し,営業損益で赤字に転落していた。
(平成2年度)(平成3年度)
土地建物売上214億1182万円15億5000万円
土地建物仕入153億0575万円14億1853万円
営業損益48億4196万円 4億8304万円
経常損益3億6652万円7819万円
bまた,平成2年度における未払利息は,4億5831万円余りであり,債務超過額が1億7722万円余りであったものが,平成3年度末における未払利息は10億4452万円余りに増加し,債務超過額も2億5542万円余りに増加していた。
(a及びbにつき,甲El7,甲E18)
エ本件融資7実行後の状況
(ア)本件融資7の資金の使途
平成4年2月6日,原告内の国際販売名義の普通預金口座に振り込まれた本件融資7の資金13億円の中から直接第一勧業信用組合に7億円が支払われ,その結果,第一勧業信用組合は不動産競売申立てを取り下げた。
また,平成4年2月6日,原告は,蜻蛉を経由することなく,同口座に振り込まれた本件融資7の資金の中から,成和鉄工に対する貸付元利金2億4102万9332円,青桐正義に対する貸付元利金5897万0668円の各弁済充当を行い,合計3億円を回収した。
本件融資7の実行後,西浅草物件のカラオケルームヘの改修は行われず,本件融資7の資金のうち,カラオケルーム改修費相当額は国際販売の運転資金等に流用された。
(甲E16)
(イ)その後の原告と国際販売との交渉
平成4年9月28日,桜貝から原告神田支店に対し,西浅草物件購入時,損を承知で購入したのだから,若干の面倒はみてほしいとして,借入れの増額が可能か打診があった。
その後も,神田支店に対し,度々融資の申込みがあり,その際,桜貝は,原告担当者に対し,原告より再三西浅草物件の購入を依頼され,渋々購入を了解したもので,原告に貸しがあるなどと述べていた。
さらに,平成5年7月6日には,被告Gと神田支店長らとの間で協議がなされ,国際販売に買わせた西浅草物件について,今後,金利が入ってくる可能性も少なく,原告が引き受ければホテル営業中であり,金利相当分の回収も可能となってくることから,買い戻すことも考えることが必要ではないかとして,役員室の議題としてもらうことが議論された。
(甲E23)
(ウ)西浅草物件に対する差押え
西浅草物件に対しては,東京国税局による差押えが平成9年9月29日に,東京都による参加差押えが同年10月3日に,それぞれ行われたが,本件融資7に伴う根抵当権に優先する租税債権は,合計10億1361万1043円に及ぶものであった。
(甲E20,甲E21)
なお,平成9年3月3日時点での,西浅草物件の鑑定評価額は,2億0095万6000円であった。
(甲E22)
(2)被告らの責任
ア本件融資7の問題点
(ア)以上のとおり,本件各融資は,神田支店の取引先である成和鉄工が事実上倒産し,成和鉄工等に対する原告の貸付金が回収不能となったことから,同支店の取引先である国際販売に原告が資金を融資することにより担保物件を買い取らせ,これにより成和鉄工等に対する債権の回収を図ろうとして行われたものである。
しかしながら,既に認定したところによれば,本件融資7は,稟議書の記載自体からも以下のとおりの問題点を指摘し得るものであった。
aすなわち,本件稟議書及びその添付資料によれば,国際販売は,約506億円の多額の借入金のうち95パーセント分の借入金については,利息が支払えないことから棚上げされており,残り5パーセント分の借入金に対する年間約2億円の利息についても約9000万円しか支払ができず,その余の約1億1000万円について金策中であるとされていたのであるから,資金繰りが逼迫していたことは明らかであった。
したがって,新規の融資を行うにあたっては,十分な担保を徴求するか,あるいは,既存の借入金の返済を含めて全体として資金繰りを踏まえた事業計画の実現可能性について慎重な審査が必要であったというべきである。
しかるに,担保の時価評価については,公示価格・路線価格等の調査すら行われず,融資日よりも1年近
く前の売買広告のみによって時価評価を行っており,不十分であり,これによっても大幅な保全不足となっていた。
また,国際販売の所有不動産に約400億円の含み益があるとされていたが,これらについて担保を徴求することも検討されていない。
b次に,事業計画の実現可能性についてみるに,国際販売から出された事業計画における売上や経費の見込みについて客観的資料に基づく検討がなされていないのみならず,元金及び利息の返済計画についても単なる計算上の返済可能性を示すに過ぎず,具体的な計画としてその実現可能性が検討されているわけではなく,国際販売の全体としての資金繰りの見通しについても何らの情報収集・分析もなされていない。
(イ)これらに加えて,既に述べた本件融資7のなされた経緯,特に,1西浅草物件の価格は競売手続において最低売却価格が2億9598万円と決定され,甲E26号証によっても当時の時価としては2億9100万円が相当であるとされており,桜貝も抱き合わせ融資を前提とした交渉においてすら高く見ても8億5000万円であるとしていたことに照らして,西浅草物件の売買価格10億5000万円は時価と大幅にかい離した高額なものであったこと,2西浅草物件の売却価格を最低でも10億5000万円とすることは,原告本部審査部長であった被告Gの指示によるものであるが,これは先順位である第一勧業信用組合の根抵当権の極度額7億円と原告の成和鉄工等への貸付金の元本額との合計に合致するものであること,3被告G及び被
告Fの了解の下に,森下物件への融資を抱き合わせとして行うという条件で西浅草物件の価格及びこれに対する融資の交渉が国際販売との間で進められたこと,4森下物件に対する融資は,国際販売が多額の借金を抱え,原告に対する借入金の返済を遅滞しており,また,事業計画自体不十分なものであったにもかかわらず,十分な保全措置をとることなく実行されており,また建物についての具体的見積りもないにもかかわらず,さらに3億円の融資を行うことが当然の前提とされていたことを総合すると,本件融資7は,これを「飛ばし」と呼ぶかどうかは別として,成和鉄工等に対する既存融資の回収不能による損失の顕在化を避けるため,国際販売に西浅草物件を時価を著しく上回る価格で買い取らせることを最優先させ,畢竟,本来なすべき審査事務
をおざなりにして実行された健全な銀行業務においては,是認し難い融資であったといわざるを得ない。
イ被告らの注意義務違反
(ア)被告F及び被告Gの責任
被告Fは不良債権の監理・回収等を所管する監理部担当の代表取締役専務であり,被告Gは常務取締役審査部長であったところ,既に認定したところから明らかなごとく,被告らは,融資審議会のメンバーとして本件融資7に関与したのみならず,神田支店の草笛に対して抱き合わせ融資及び本件融資7の実現に向けて具体的に指示を与えていたものであり,本件融資7が本来の銀行業務からは許容し難いものであることを知悉しながら,これを推進あるいは加担したものであって,銀行の取締役としての忠実義務にもとる著しい注意義務違反があったというべきである。
(イ)被告J,被告A及び被告Bの責任
被告Jは,融資決済権限を有する代表取締役頭取として,被告A及び被告Bは融資審議会のメンバーとして本件各融資に関与した。
被告らは,少なくとも本件融資7の稟議書の記載自体から,本件融資7についての情報収集・分析・検討に前記のとおり不足・不備があることは認識可能であったのであり,本件融資7の償還可能性について当然躊躇を覚えるべきものであったにもかかわらず,本件融資7を決裁し,あるいは融資審議会において本件融資7を承認したものであって,取締役の善管注意義務違反があったというべきである。
(ウ)被告らの主張について
a被告Jは,稟議書上の「利息棚上げ」とは,銀行が健全な経営をしている優良な不動産販売貸付先に対して,運転資金を確保させ,倒産を防ぐための一時的な措置として,利息徴収を留保していたものであり,他行が国際販売を優良取引先として扱っていた証拠であること,本件稟議書上,平成3年3月期の連続貸借対照表,損益計算書において利息支払の事実が認められることや経常利益の増額が認められること等を基に国際販売の経営状況を不安視する材料は稟議書の決算書にはなかったことなどを主張し,他の被告らも同様の主張をする。
しかし,利息を棚上げにしなければならないということは,会社の資金繰りが困難な状況にあることを表すものであり,不動産市況の状況によっては,全く資金繰りがつかなくなるおそれも存するのみならず,
国際販売においては,利息棚上げとされていない借入金の5パーセント部分の利息の支払資金すら確保できていない状況にあったのであるから,利息が棚上げとされていることをもって,支払能力が十分に見込まれる根拠であるとする主張は採用し難いし,その余の主張についても同様である。
b被告Gは,1一時的に落ち込んでいる地価は近い将来反騰する見込みであった,2設備投資資金を貸し付ける対象である事業計画は,公刊物に掲載されたモデルプランと比較しても堅実で,無理なく返済財源が生み出される計画であったと主張する。
しかし,地価の上昇については,一つの見込みにすぎなかったものといわざるをえず,回収可能性の具体的な根拠となり得るものとはいえない。
計画の実現可能性についても,単なる事業としての収益可能性のみならず,既に資金繰りが逼迫した借り手において,これを実行することが可能かという観点を含めて検討を要することは既に判示したとおりであり,仮に,主張するモデルプランが妥当性を有するものであったとしても,結論を左右するものではない。
c被告らは,本件融資7稟議書上,国際販売に多額の含み益が認められたとも主張する。
しかしながら,たとえ含み益が存したとしても,保全措置をとっていない以上,売却した上で,余剰が生じない限り,確実な弁済原資とはならないものであり,また,当時の不動産業界が厳しい状況にあり,売却の可能性自体確実に見込まれなかったことからすると,含み益が存することをもって,具体的な根拠に基づいて回収可能性があった融資であると認めることはできず,被告らの主張は,いずれも理由はない。
d被告Bは,「当時,多額の不良債権を抱え,償却のために経営困難に陥って存亡の危機に立たされていた原告の常務取締役であった被告Bが,原告の存続を図るため行った融資である。」旨主張する。
しかし,本件融資7を行わなければ原告の存続に影響を及ぼしたと認めるに足りる証拠はなく,被告Bの主張は採用できない。
ウ損害額
(ア)以上のとおり被告らには本件融資7について取締役の注意義務違反が認められるところ,既に認定したとおり本件融資7については,原告の根抵当権に優先する租税債権の差押等がなされており,13億円が事実上回収不能となっており,原告訴訟引受人請求額を超える損害が発生していることは明らかである。
(イ)この点,被告らは,本件融資7後の管理が不十分であったことや,そのことにより本件債務が消滅時効にかかっている可能性を指摘する。
しかしながら,前記のような本件融資7後の状況に鑑みると,本訴請求までに原告が国際販売から弁済を受けることが可能であったことを窺わせる事情はないというべきであり,被告らの主張は理由がない。
(3)結論
以上によれば,被告J,被告A,被告F,被告B及び被告Gには,本件融資7をなすにあたって取締役としての善管注意義務違反があり,その結果前記のとおりの少なくとも原告の請求額以上の回収不能の損害を原告に与えたものであり,原告の被告らに対する損害賠償請求権は原告訴訟引受人に譲渡されていることを認めることができるから,原告訴訟引受人の被告らに対する請求はいずれも理由がある。
5カミパレスに対する融資について
(1)本件事実関係について
証拠(各項に掲記)及び弁論の全趣旨によれば以下の事実が認められ,乙ロ2ないし6,乙ハ1ないし42号証中これに反する部分は措信しない。
ア本件各融資に至る経緯
(ア)カミパレスと福一産業
カミパレスは,昭和62年4月,アイスクリームの移動販売を目的として株式会社サンモービルの商号で,霜降昇(以下「霜降」という。)らにより設立され,平成6年1月,カミパレスに商号変更された。
霜降は,カミパレスの代表取締役とともに福一産業株式会社(以下「福一産業」という。)の代表取締役も兼任していたが,平成2年ころから,折からのカラオケブームにのって,福一産業がカラオケ店舗を建設し,カミパレスが同店舗の営業を行うという形でカラオケ業界に進出した。
(イ)高額家賃保証方式によるカラオケ店舗の拡大
福一産業とカミパレスは,1福一産業が,カラオケ店舗を経営しようとする者(以下「オーナー」という。)から,カラオケ店舗建築工事や内装工事を受注するとともに,2カミパレスが,オーナーから当該カラオケ店舗の経営委託を受け,オーナーに対し,店舗建築資金の返済額を上回る高額な家賃の支払を約束し,3さらに福一産業がこれを保証する高額家賃保証方式を売り物としており,オーナーに一定の投資利回りを保証する一種の財テク商品として顧客を拡大し,最盛期には140店舗以上に出店数を増やした。
((ア)及び(イ)につき,甲F17,甲F18)
(ウ)平成5年時点における福一産業の実態調査
a原告と福一産業との取引は昭和59年に遡るが,原告及びその関連会社であるこくぎんモーゲージサービス株式会社(以下「こくぎんモーゲージ」という。)及びこくぎんリースの3社を合わせた福一産業に対する融資残高は,平成2年3月期に約35億円であったものが,平成3年3月期には約62億円,平成4年3月期には約80億円となるなど短期間に急増するとともに,大幅な保全不足に陥った。
そこで原告は,平成4年11月,福一産業の経営実態を把握し,これに基づき再建策を模索するために,本店営業部次長の若菜和義及びこくぎんモーゲージ代表取締役秋風新平(以下「秋風代表」という。)に対し,同月26日から1か月間,福一産業の調査を命じたが,その結果,福一産業には売掛金及び貸付金を中心に14億円から24
億円の範囲での粉飾が存在することが判明し,当該調査結果は,被告Aら原告経営陣に報告された。
(甲F19,甲F20,甲F21,甲F42)
b上記報告を受け,引き続き原告は,秋風代表,支店推進役の雨月金吾(以下「雨月」という。)及び本店営業部融資課長の尾花平蔵(以下「尾花」という。)を福一産業に出向させ,実態調査を行わせた。
(甲F42)
c原告においては,平成5年4月2日,同年5月7日,同年6月18日に,被告A,被告B及び被告Cらが出席して,上記出向者3名からの報告会が開かれたが,いずれの出向者からも福一産業,カミパレスの再建可能性につき,経営陣に問題のあることや,高額家賃保証方式がカミパレスの経営を圧迫している上,カラオケブームが頭打ちとなっているためカミパレスの売上も落ちており,赤字体質に改善の見込みがないこと,カミパレスの資金不足を補てんするため福一産業から資金を流さざるを得ないことに加え,福一産業自体の工事の受注も落ちていることなど,再建に悲観的な見通しが報告された。
しかし,被告Aは福一産業に対する融資を打ち切ることに対しては否定的な考え方を示していた。
(甲F42)
d平成5年6月24日に開催された報告会には,被告B及び被告Cらが出席したが,上記3名から福一産業の実態について以下のとおり報告がなされた。
すなわち,雨月からは,1霜降は,経営能力に疑問あり,会社の再建を含めてやる気があるのか判断しにくく,他の経営者も心もとなく,責任感が欠如していること,2会社組織は人員が多く,効率が悪いこと,3営業は17人で実施されているが,成果を上げているのは6人に過ぎず,全く実績を上げていない者も2,3人おり,また,営業マンの給料が高く,前歴がまちまちで,教育指導もできておらず,競争力がないこと,4今後の見通しとしては再建が難しいことが報告された。
尾花の報告も,1霜降の経営は,経営の域に達しておらず,経営ビジョンがなく,政策も思いつきで立てる
ため失敗しており,責任を他人に転嫁する傾向があること,2福一産業の実態は赤字経営であり,悪意の粉飾があること,3従業員は総勢74名であるが,福一産業創業時からの者は3名のみであり,経験5年未満のものが75パーセントを占め,建設業経験のない者が多いこと,4業態としては,一般建築業ではなく,カラオケボックスの建設に特化しており,投資利回りが高いことをセールスポイントにして営業しているが,福一産業とカミパレスを併せ月間1億8000万円の赤字が生じていること,5カミパレスは赤字決算はできないという前提で2億6000万円のリース料を資産勘定に振り替えるなどの粉飾処理をしていること,6再建の見通しは,霜降のやる気が条件となるが,赤字解消策がない現状では無理であることなどを内容とするもので
あった。
さらに,秋風代表からは,1経営の現状は危機的状況であり,役職員には自覚がなく,改革に力が入らないこと,2期間損益を考えると,5月に8億円,6月に8億8500万円の受注継続が再建の前提となるが,成否は疑問であること,3大口含み物件を優先して,順次不動産を売却していき,所有不動産をすべて売却すべきであることなどの報告がなされた。
(甲F22,甲F55)
e原告は,平成5年6月24日,上記報告会に引き続き被告B及び被告Cらが出席して融資審議会を開催したが,その際審査部から福一産業の再建についての意見書が提出された。
その内容は,現状分析については,1霜降の経営者としての資質に問題があるとして,同人が破産会社である北商の元専務であり,裁判記録によるとカズノコ仕入れの責任者であったにもかかわらず,全責任を社長に転嫁した経歴の持ち主であること,福一産業においても粉飾決算指示や不良資産隠蔽の疑いがあり,平成4年10月期までの集計で26億円から30億円にのぼること,さらにドンブリ勘定であり,平成5年4月末で借入金残高が150億円と極めて過大であること,2福一産業が恒常的赤字体質であるとして,平成4年11月から平成5年4月までの
6か月間の試算で15億円の赤字が出る結果となっており,赤字補てん資金として貸出が急増していることや,カミパレスも毎月8000万円の資金不足状態であり,資金不足は漸増拡大基調にあり,カミパレスも2億6000万円の粉飾決算をしていること,さらに,3契約ベースが大幅にダウンしているとして,平成4年11月から平成5年4月までの契約実績が対前年同期と比較して15億円減少しており,カラオケ業界に陰りが見えることを指摘した上,福一産業は資金繰り破綻必至であるとしている。
そして,原告の支援上の問題点については,1貸出のピークが現状では見通しが立たないこと,2原告,こくぎんリース及びこくぎんモーゲージの3社合計で45億円と大幅な保全不足が生じていること,3他行が福一産業との取引から撤退する方針
であり,今後の融資継続は,原告単体での信用貸しとなることを挙げた上で,対応策として,1粉飾決算が判明したので,原告経営陣の特別背任罪回避の観点から,福一産業から撤退し,新規貸出も当然ストップすること,2原告,こくぎんリース及びこくぎんモーゲージサービスを含めて大幅な保全不足であるが,担保物件処分等法的処置により迅速に対応すること,3経営破綻先債権も多額となることから,平成5年9月末のディスクロージャを展望し,最悪の場合は取付のおそれがあり,金融秩序維持のため,原告資産処分にも迅速に対応し,補てんすることも考慮することとしていた。
しかし,被告Bが,さらにカミパレスの粉飾決算を調査しながら,当面は,福一産業に対する融資を継続しなければならないとの意見であったことから,福一産業に対
する融資継続の可否について結論がでず,苅田常務から被告Aに検討状況を報告することになった。
しかしながら,結局,被告Aは,審査部の上記意見を受け入れず,取引は継続された。
(甲F23,甲F45,甲F54)
(エ)カラオケ店舗の営業権の譲渡による債務の圧縮策
a平成7年3月時点における原告,こくぎんモーゲージ及びこくぎんリースの福一産業に対する貸付残高は,3社合計で96億4400万円となった。
当時原告の福一産業に対する貸付残高は54億8870万円であったが,このうち18億4400万円は大蔵省の検査により第2分類債権として分類されていた。
また,銀行法13条による原告の福一産業に対する与信限度額は55億4400万円であったため,貸付の余裕枠は5530万円に過ぎない状況となっていた。
(甲F19)
bそこで,原告経営陣は,カラオケ店舗の営業権譲渡の方法をもって原告の福一産業に対する貸付残高を圧縮することにし,カミパレスは,株式会社ビッグワンコーポレーション外5社(以下「受け皿会社」という。)に対し,平成7年4月,同年6月,平成8年4月及び平成9年11月の4回にわたってカラオケ店舗合計44店舗の営業権を譲渡した。
右営業権譲渡に際しては,原告は受け皿会社に対して営業権購入資金として,合計約143億1000万円の貸付を行い,カミパレスは,これら6社から受領した営業権売却代金のうちの相当額を福一産業の原告に対する債務の弁済に充当し,原告の福一産業に対する貸付残高を圧縮した。
しかしながら,営業権を譲り受けた受け皿会社は自らカラオケ店舗を経営せず,経営はあくまで受け皿会
社から委託を受けたカミパレスが行い,カミパレスは受け皿会社に対し賃料として受け皿会社の原告に対する借入金の毎月の返済額を上回る金額を支払う一方,受け皿会社はカミパレスから毎月支払われる賃料により原告に対する借入金の毎月の返済を行い,なお差額を利益として取得する仕組みになっていたため,カラオケ店舗経営の実態は何ら変わっておらず,単に福一産業の債務の一部が受け皿会社に移し替えられただけにすぎなかった。
したがって,カミパレスと福一産業との債務残高の合計額は,営業
権譲渡が実行された時点では債務残高が一応は圧縮されるものの,カミパレスの経営する店舗の大部分は赤字(平成9年当時135店舗中100店舗が赤字)であったことから,受け皿会社に対し原告からの借入金返済額を上回る金額の賃料を支払うという仕組みを維持するため,原告からの借入れを続けざるを得ず,平成9年1月時点では福一産業とカミパレスを合わせた原告に対する債務残高は約59億円となり,平成7年3月の圧縮前の債務残高を上回るまでに増加することとなり,その後も,債務残高の増額は止まらなかった。
加えて,受け皿会社への債務残高も合わせると平成9年1月時点での債務残高は183億円となるなど,営業権譲渡による形だけの債務圧縮策
は原告の全体としての融資残高を拡大させることとなった。
(甲F17,甲F24,甲F25,乙ハ35)
cこのような状況の中,福一産業は,平成8年10月,原告に対し,同月から同年12月までの3か月分の支払手形の決済資金及び賃料の支払資金として合計11億3000万円の借入れ申込みをした。
原告では,この借入れ申込みは多額の与信増で,原告の経営に大き
な問題であるとして,平成8年10月31日午前9時30分から11時40分まで,被告B(当時代表取締役副頭取),被告C(当時代表取締役専務)及び被告I(当時常務取締役)が出席して,拡大融資審議会が開催された。
審査部からは,資金不足の生じた原因として,1福一産業の発注工事の入金見込みが甘いこと,2カミパレスの賃料支払を少なく見込んでいること,3賃料,公共料金,給与等の未払金のしわ寄せが大きくなっていること,4カミパレスの店舗の採算がとれておらず,カミパレスの赤字補てんのための福一産業の借入れが増加していること,5受け皿会社の債務残高は減少しているが,受け皿会社の店舗の採算がとれていないため,福一産業が補てんし
借入れが増加していることなどが指摘されるとともに,福一産業の資金繰り,与信,保全状況,1年間の回収実績などについて説明がなされた。
席上,被告Cは,「カミパレスへの資金の流れがザルである。
採算店はどの位あるのか。
収支管理ができていない。」,「カミパレスの運営スタイルは以前と変わっていない。」などの懸念を示し,被告Bからも「今後借入れは減っていくのか。
貸すと返らない。
全体像から大変な問題である。
危機感大きく,先方のデーターも甘い。
経営者としてどうするのか意見確認をする必要がある。」との意見が述べられた。
これを受けて,同日午後には,上記拡大融資審議会のメンバーに霜降社長ら福一産業関係者を加えて検討会が開催され,被告Bらから,「営業権譲渡の方法による支援により負債の大幅減となりやって
いけると思ったが,最近急激な資金不足となった。」として,「カミパレスは毎月1億円赤字。
返済源資のないものは出せない。
担保か保証人がなく増額できない。
回収ならないものはできない。
担保なしで貸し増しは不可能であり,保証金担保等なければ異常。」などと今後の福一産業の経営をどのようにしていくのかについて霜降らに問い質し,売上増額,リストラ策,資金繰り見込みについての具体的な全体計画の提出がなければ,融資に応じることはできない旨伝えた。
しかしながら,その後,原告は,結局,福一産業からの借入れ申込
みに応じることとし,これを実行した。
(甲F25,甲F26)
(オ)平成9年当時における原告の償却財源及び第三者割当増資計画原告は,国際決済銀行のBIS基準に適合させるために,自己資本比率を4パーセント台に達成する必要があったことから,平成9年3月までに40億円の増資を計画していた。
しかし,平成8年4月に大蔵省検査を受け,第4分類債権が255億円と認定され,同額を平成9年3月までに償却しなければならないこととなったことから,原告の大株主である国際興業株式会社(以下「国際興業」という。)の照葉竹治会長(以下「照葉」という。)と相談の上,169億円余りの第三者割り当て増資を行うとともに,本店の建物及び不動産を国際興業に購入してもらうこと等により,255億円の償却財源を得ることとした。
しかし,この段階で,福一・カミパレスに対する貸付金は,償却対象には含まれておらず,照葉に対しても何ら相談はなされなか
った。
(甲F43,乙ハ3,乙ハ8,乙ハ17)
(カ)平成9年1月時点における福一プロジェクトチームの検討
福一産業の債務残高は,引き続き増加するという状況になったため,平成8年11月ころ,審査部と本店営業部を中心とする福一プロジェクトチームが結成され,福一産業に対する融資について解決策を検討することになり,審査部審査役の花野光正(以下「花野」という。)を中心に,福一産業及びカミパレスの再建策についての検討が行われた。
花野は平成9年1月下旬ころ,福一産業は実質死体会社であることから福一産業の借入れをカミパレスに一本化にしても,カミパレスに対する融資残高が銀行法13条の制限を越えるし,損益分岐点をクリアーする売上の達成は見込めないことから,福一産業・カミパレスの再建策は無く,福一産業及びカミパレスの実態を把握して回収不能となる債権額を確定し,償却を行う必要があるが,償却額
が多額となることから,国際興業の照葉に報告し,判断を仰ぐのが最善策であるとする報告書をまとめ,被告Bに提出した。
被告Bは被告Aにこれを見せて,相談したが,結局照葉への相談はなされないまま,花野の報告書は黙殺された。
(甲F25,甲F28,甲F29)。
(キ)福一産業からカミパレスへの融資の付け替え
このような状況において,福一産業の平成8年10月期の決算書上,三和ビジネスクレジットの債務免除益の計上があることが判明したことから,原告は,大蔵省の検査において,これが実質死体会社に対する債務免除と認定されると,原告の福一産業に対する約56億円の貸付金も第3分類,第4分類債権に認定されるおそれのあることを懸念し,平成9年1月31日以降,カミパレスへ貸付を行い,これにより福一産業に対する貸付金を回収することにより,福一産業に対する貸付金を徐々にカミパレスにシフトしていった。
(甲F27,甲F49)。
(ク)平成9年2月10日の2億7000万円の融資
a平成9年2月10日,カミパレスから,2億7000万円の支払手形決済資金融資の申出がなされたが,本店営業部は融資実行に反対し,融資稟議書の作成を拒否した。
そこで,被告Bの指示で同日,融資審議会のメンバーと福一プロジェクトチームのメンバーの合同で融資の可否並びに福一産業及びカミパレスの再建策及び処理策の検討をすることになり,同日,被告B,被告C及び被告Iらが出席し,融資審議会が開催された。
同融資審議会において,審査部及び本店営業部は,1平成4年11月から平成8年1月まで,延べ11名の出向者等により行われた調査報告のとおり,福一産業・カミパレスの実態は何ら変わっておらず,特に平成8年8月以降カミパレスの売上減少,福一産業の受注減少により,2社の赤字幅は拡大しており,抜
本的処理方向を見いだせないまま赤字補てん増額融資を繰り返すことは,背任行為にあたるし,平成9年3月13日に実施される予定の国際興業他による増資を控え,国際興業への背信行為にもあたるので回避すべきであること,返済財源が見込めず,回収の保全措置もなく,与信急増の問題があること,2今後の対処方針を明確にしないようでは,窓口である本店営業部も融資稟議書を作成できないし,審査部としてもロス拡大の増額融資について反対であること,3資金繰りや再建試案より見て両社の再建は望めないこと,4処理策に基づいてどう処理するかの方向付けが必要であること,5これ以上先延ばしできないこと,6処理方法を検討するにしても,再三指示のある実態把握,すなわち,資金繰り,受注内容,家賃引下げが契約書等よりみて出来る
か,赤字店の廃店の可能性,売上増加ができるか等を検証するためには専担者を増員し早期に実態固めが必要であるなどとして,融資に反対した。
上記融資審議会には,花野が同年1月下旬ころに被告Bに提出した報告書と同趣旨の資料も提出された。
被告Bは,償却財源がないのでつぶすわけには行かず,3月の増資
を控えて不良債権を表面化させることもできないとして融資の実行を認める方向でまとめようとしたが,審査部,営業部の反対意見が強く,融資審議会としても,上記貸付を可とする結論を出せなかった。
bしかし,平成9年2月10日,審査部及び本店営業部は,被告Bから,被告Aと相談した結果,福一産業もカミパレスもつぶせないという結論になったとして,融資稟議を上げるよう指示をされ,審査部は「融資審議会事案」の用紙に前記内容の審査部意見を記載し,融資稟議書に添付の上,稟議に回した。
被告B,被告C及び被告Iからは,上記貸付に係る融資稟議書に承
認印を押捺する際に,この「融資審議会事案」にもそれぞれ押印した。
ところが,被告Aは,この「融資審議会事案」に赤字補てん増額融資を繰り返すことが「背任行為にあたる」と記載されていたことから押印せず,花野に対し,審査部意見の書き直しを命じた。
そのため,このときの融資稟議書には「審査部所見」と題する紙を貼付する形で審査部の意見が付されたが,そこには下記のとおり福一産業・カミパレスとも経常赤字であり,短期間に巨額の資金不足が予想されることが指摘されるにとどまった。
・福一産業(株)平成8年11月12月経常赤字294百万円
カミパレス(株)平成8年4月12月経常赤字512百万円
合計806百万円
・資金不足予想額(平成9年2月10日5月末日)
福一産業(株)1199百万円
カミパレス(株)879百万円
合計 2078百万円資金不足
(甲F31,甲F49,甲F56)
(ケ)平成9年2月13日の福一産業検討会
a以上のとおり,被告A及び被告Bら経営陣と審査部,営業部との間で溝ができたことから被告Bの発案で,平成9年2月13日,被告Aも参加して福一産業検討会が開催された。
席上,花野から被告A,被告B,被告C,被告I,被告D(本件各融資については,責任を追及されていない。)らに対し,1現状は,福一産業は,信用低下により受注が減少した結果,売上が減少し,赤字であり,カミパレスも,平成8年6月から11月にかけて売上が減少し,支払の繰延から支払手形や未払家賃が増大し,資金繰りが繁忙状態であること,平成8年9月から平成9年2月10日までの間に,原告の福一産業及びカミパレスに対する融資残高は合計24億5000万円も急増していること,平成9年2月13日現在の原告の福一産業及びカミパレス
に対する融資残高は合計61億7600万円であるところ,このうち53億5900万円が保全不足となっていること,同年2月14日から,同年5月末までの間に2社併せて18億800万円の資金不足が見込まれるところ,融資を継続すると2社に対する同年5月末の融資残高は79億8400万円,保全不足額は71億6700万円までふくらむこと,2再建見通しとしては,福一産業及びカミパレスの平成9年1月から12月までの資金不足が,2社の作成した資金繰表によってすら,福一産業については16億3600万円,カミパレスについては7億4800万円,合計23億8400万円となる見通しであるところ,霜降の資質に問題があり,カミパレスや福一産業の自己破産の懸念があること,カミパレス・福一産業とも損益計算書・貸借対照
表の内容が不透明であり,現資料では,今後必要とされる資金額が算出できないこと,今後とも赤字体質の改善が難しく,赤字補てん資金の増額が続くと予想されること,分社化して独立採算とすること(営業権譲渡したカミパレス店舗の経営をカミパレスから切り離すこと)もオーナーの承諾が得られず,また営業権譲渡先の利益を確保するためにカミパレスの黒字店舗も譲渡するとなるとカミパレスの売上減少を来すなどの困難があり,現状ではカミパレス・福一産業の再建策の見通しが立たないこと,3問題としては,平成4年11月から平成8年1月まで,延べ11名が調査報告を行ってきたとおり,福一産業は資金繰りのためカラオケ店舗の利廻り保証付きで受注をとり,カミパレスがカラオケ店舗を経営してきたが,売上が伸びずカミパレスの赤字
体質は何ら変わっていないこと,店舗数が121店舗に増加したことに伴い福一産業の受注減少により,赤字は拡大傾向にあること,カミパレス・福一産業に対しては債権保全策もなく,また返済源資もないことから,再建の見通しも立たないまま赤字補てん増額融資を継続することは,背任行為にあたるし,また増資を控え,原告オーナー企業である国際興業への配慮等を勘案して回避すべきであること,赤字補てん増額融資をやめるとカミパレス・福一産業が経営破綻し,償却が必要となるが,償却財源はなく,現状では営業権譲渡先とのトラブルの懸念があること,処理策が見い出せないこと,処理策を検討するにも実態把握が必要であることなどが説明された。
bこれに対して,被告Aは,償却財源がなく,増資を控えて福一産業もカミパレスも倒産させられないとし,福一産業及びカミパレスの実態調査を改めて指示し,花野,青木健司審査部副部長及び冬木勝男審査部審査管理課主任調査役の三名が実態調査を行うこととなった。
そして,その後も赤字補てん増額融資が継続された。
(a及びbにつき,甲F34,甲F57,甲F58)
(コ)第三者割当増資の実行
原告は,予定どおり,平成9年3月13日,国際興業外8社を割当先とする第三者割当増資による新株発行(株式数1115万株)を行い169億4800万円の払込みを受けた。
(甲F32)
(サ)平成9年4月2日の経営会議
原告は,平成9年4月2日,経営会議を開き,被告A,被告B,被告C,被告I及び被告Kらが出席の上,花野らから,福一産業・カミパレスの実態調査の結果,今後の取り組み方針及び問題点について中間報告がなされた。
それによると,1福一産業の平成8年10月期の決算処理上,特別利益として,債権者三和ビジネスクレジットの債務免除による債務免除益24億3900万円が計上されているが,実際は債務免除されておらず,株式会社共同債権買取機構に譲渡されたものであって,これを除くと,同期は約23億円の赤字となること,さらに,平成9年10月期決算は,4か月試算だけで14億2400万円の赤字であり,平成8年10月期以上の大幅赤字が予想されること,2カミパレスは,平成7年3月期決算において,カラオケ店舗のみの収支では18億円の赤字であり,また,平成8年3月期決算においては,カラオケ店舗のみの収支では25億円の赤字であったこと,さらに,平成8年4月から平成9年1月までの10か月間の試算によっても約6
億9800万円の経常赤字になることから平成9年3月期も大幅な赤字に陥ることが確実であること,3カミパレスの赤字要因は,売上に対し45パーセントを占める家賃支出であるが,これは福一産業の売上確保のため,カミパレスにおいて高額家賃保証契約を行ったためであること,4福一産業とカミパレスの今後6か月(平成9年4月から9月)の資金不足は,合計22億6600万円にも及ぶこと等が報告された。
さらに,今後の取り組み方針及び問題点として,1福一産業については,高額家賃保証方式による発注を取りやめ事業縮小するが,大幅赤字であり三和銀行等大口債権者からの破産申立ての懸念があること,2カミパレスについては,売上増加を図るとともに家賃引下げ,赤字店の廃店による経営削減が考えられるが,売上向上については,多額の設備投資を図っていかないと,毎年売上低下となることは必至であること,また,経費削減については,賃貸借契約上10年内の中途解約はオーナーの投資額の損失補償特約がなされており,家賃も10年間固定で利回り保証しており,130店舗について店別に検討する必要があるが,いずれにしても実現が極めて困難であることが報告された。
また,花野からカラオケ業界の動向について,1カラオケビジネス誌のアンケート調査によると,カラオケボックスの経営者の54.5パーセントが,今後カラオケボックスの売上が低下すると見ていること,2カラオケ施設は,カラオケ機器の充実はもとより,飲食や接客サービスの質,アピール力のある販売促進等,施設の総合力が問われる段階にきていること,3男女年代別の客のニーズが多様化してきており,カラオケ施設のイメージが特定できない状況にあること,4カミパレスは,通信カラオケの設置率が70パーセント程度に過ぎず,今後,設備投資の必要があること,5カミパレスの従業員教育は,店別の店長に格差があり,また,飲食の点についても,店別に欠品が存するなど,体制がいまだ不十分であることが報告された。
これらに対して,調査結果に対する解決策をプロジェクトチームでまとめることの指示がなされたのみで,その後も赤字補てん増額融資は継続された。
(甲F35,甲F58)
(シ)監査役による指摘
平成9年6月末には,原告のカミパレスに対する融資残高は26億6100万円にまで達し,福一産業の債務残高62億4900万円を併せると合計で89億1000万円にも及んだ。
同年7月4日には霜降が,原告の若菜次長に対し,カミパレスの平成9年3月期の決算書に虚偽の記載がなされていた旨の報告書を提出した。
さらに,原告の立花四郎監査役は,同年7月10日,被告Bに対し,1福一産業・カミパレスはともに粉飾決算を行い,福一産業は,平成8年10月期で25億8800万円の,カミパレスは,平成9年3月期で13億5100万円の債務超過を有する取引先であること,2カミパレスに対する融資が毎月増加しているが,資金繰表から見て,これは赤字補てん資金であること,3福一産業の支払手形決済資金をカミパレ
スの融資で賄っているのは「分割融資」の疑いがあること,4結論の先送りは結果的に原告負担の増加となること等の,カミパレスに対する融資の問題点を列記したメモを手渡した。
(甲F25,甲F36,甲F38)
イ本件各融資の実行
(ア)上記のような指摘が行われていたにもかかわらず,原告は,カミパレスに対する融資を継続し,平成9年7月31日から平成10年6月1日までの間,別紙1「貸付債権一覧表」(省略記載のとおり20回にわたって合計90億5100万円の融資を実行した。
本件各融資は,被告Aの決裁(本件融資16については,被告Bの代決及び被告Aの承認)により行われたものである。
被告B及び被告Cは本件各融資につき,被告Iは,本件融資8,10,12ないし15,17ないし26につき,被告Kは,本件融資8,9,11ないし13,15ないし21,24ないし27につきそれぞれ審議をした融資審議会のメンバーであり,いずれの融資も融資を可として上位者の決裁に回したものである。
(イ)本件各融資金の資金使途は,稟議書上,いずれもカミパレス及び福一産業における支払手形決済資金がその大部分を占め,その貸付金額の決定に際しては,カミパレス及び福一産業の資金繰表から不足資金額を算出し決定されていた。
また,本件各融資の融資稟議書中「資源及び返済方法」の欄には本件融資8においては売上金回収による旨記載されていたものの,その他の融資については返済用小切手預かりとのみ記載されていた。
さらに,本件各融資については,貸金の返済用として,概ね貸付金額を10で割った金額を額面とし,各月ごとに支払をなすことを前提に先日付小切手10枚を交付させる方法がとられた。
毎月決済される先日付小切手の合計金額は平成9年7月には3億1700万円であったものが,その後漸増し,平成10年7月の時点では8億6300万円に及んでおり,本件各融資に係る融資稟議書には,最新の決済小切手の合計金額等が記載された資料が添付されていた。
(ウ)この間,融資残高は別紙2「融資稟議書記載内容一覧表」(省略)記載のとおり増額したものの,同表記載のとおりの保全措置がとられたのみであり,担保不足額は本件融資8実行前には26億4200万円であったものが,本件融資27がなされた段階では,82億9100万円に達した。
((ア)から(ウ)につき,甲F1ないし甲F16)
ウ本件各融資実行後の状況
(ア)平成10年6月の日銀考査
平成10年5月25日から同年6月9日までの間,原告に対する日銀考査が行われたが,その結果,カミパレスについて売上粉飾を含む多額の含み損があり,期間損益は連続4期赤字で,実質は大幅な債務超過となっており,融資金は回収の目途が立たないこと,このような会社に対して無担保で増額融資を行うことは特別背任罪となり許されないことが指摘された。
このため,原告は,同月12日に,被告Bが霜降に対して,カミパレス及び福一産業への今後の融資に応じることはできない旨を伝えた。
(甲F47,甲F52)
(イ)カミパレスに対する破産申立て
以上のような経緯にもかかわらず,原告は金融業者等を通じてカミパレスへのう回融資を行っていたが,平成11年1月半ばにカミパレスがカラオケ店舗の営業権を含む有形無形の財産を霜降の親族の経営する会社へ譲渡していることが判明するに及び,原告は,平成11年3月31日,カミパレスの破産の申立てを行い,同年10月20日,東京地方裁判所八王子支部において,同社に対する破産宣告決定が出された。
破産宣告時における原告のカミパレスに対する債権総額は,合計181億4494万7037円に及び,そのうち,本件各融資の残高は合計58億7400万円であった。
(甲F17,甲F25,甲F52)
(2)被告らの責任
ア本件各融資の問題点
(ア)既に認定したところによれば,以下の事情が明らかである。
a福一産業及びカミパレスについては,平成4年以降数次の実態調査により,粉飾決算の存在,経営陣の経営能力の欠如,高額家賃保証方式に起因する構造的な赤字の拡大などの問題が指摘され,再建策は見出し難いとの報告がなされながら,その抜本的解決が先送りされ,本件各融資当時において巨額の融資残高が積み上がっていた。
bそして,本件各融資がなされた平成9年当時において,福一産業は同社の見積りによっても1年間に約16億円の資金不足が見込まれた外,三和ビジネスクレジットが既に同社に見切りをつけ保有する債権を株式会社共同債権買取機構に譲渡するなど実質死体会社であり,原告内部においても原告の福一産業に対する債権が大蔵省等の検査において第3分類ないし第4分類に査定されることが懸念される状況であった。
cまた,カミパレスについても,平成9年当時,同社の見込みによっても1年間に約7億円の資金不足が見込まれ,カラオケ店舗のみの収支においても大幅な赤字を続けていた上に,カラオケブームは既に下火になっており売上の向上は期待できず,かえって売上の維持のために多額の設備投資を必要とする状況にあり,他方で構造的赤字を解消するための家賃の値下げや赤字店の廃止,営業権の譲渡先の完全分社化の方策もオーナーとの交渉の行き詰まりにより実現困難な状況にあったのであって,平成4年以降の数次の調査においても再建策はないとされたまま,際だった改善もなく推移してきたことからしても,もはや再建を期待し得ないものであった。
d以上のとおり福一産業及びカミパレスは再建を期待し得ないことは客観的に明らかであったにもかかわらず,本件各融資が継続されたが,その資金使途はカミパレスの赤字補てん資金とともに,福一産業の原告に対する既存融資の返済原資(福一産業の債務のカミパレスへの付け替え)をも含むものであった。
eしかしながら,原告においては,これまでも何度も繰り返された調査を継続するのみで,支援をいつまで続けるのか,その間の資金需要はいくらになるのか,資産売却をどのように進めるのか,償却財源はどのように確保するのかなど不良債権処理に向けての具体策が検討されることなく推移した。
f以上のような状況のまま,本件各融資は,平成10年6月に日銀考査において,カミパレスは売上粉飾を含む多額の含み損があり,実質債務超過となっており,融資金は回収目処が立たないことから,このような会社に対して無担保で増額融資を続けることは特別背任罪にあたるとの指摘を受けるまで続けられた。
(イ)これらの事情及び既に認定した本件各融資の経緯を総合すると,本件各融資は,実質的に破綻状態にあったカミパレス及び福一産業に対する不良債権の実態を関係機関から隠蔽し,正常債権であるかのように偽装しつつ,他方で不良債権処理のための何らの具体的方策を講じることなく関係機関から指摘されるまで,漫然と回収可能性のない融資を継続していたものといわざるを得ない。
イ被告らの善管注意義務違反
既に判示したとおり,本件各融資に至るまでの間,福一産業及びカミパレスの実態調査の結果は原告の経営陣に直接報告され,営業部及び審査部からカミパレス・福一産業へ融資を継続することは特別背任罪にあたるとして融資打ち切りを求める意見が出されたことは一度や二度に止まらなかったが,頭取であった被告Aは,不良債権処理の抜本的方策を講じることなく,カミパレス・福一産業の破綻により前記の不良債権が顕在化することを避けるために,その都度これらの意見を封じた上で融資を継続してきたところ,本件各融資についても,さらにカミパレス・福一産業の延命を図って,何ら具体的展望もないままこれを漫然と継続したものと認められる。
さらに,副頭取であった被告B,被告C,被告I及び被告Kは,上記実態調査の報告会
等への出席を通じ,カミパレス・福一産業の問題状況を知悉しながら,被告Aの融資継続の意思の固いことをそんたくして,これに追随したものと認められる。
したがって,被告らは,いずれも本件各融資が償還可能性のないことを承知の上で,これを実行,あるいは容認し,その結果,前記のとおり本件各融資の回収不能により原告に多額の損害を負わせたものであって,取締役の忠実義務をも損なう重大な注意義務違反があったといわざるを得ない。
ウ被告らの主張について
(ア)被告Bの主張について
a被告Bは本件各融資を継続しなければ原告自体の破綻を招き,信用不安を惹起しかねないおそれがあったとし,これらを回避しつつ償却を段階的に行うために融資を継続する必要があったと主張し,他の被告らもこれに同調する。
bしかるところ,証拠(甲A4,乙ハ43,乙ハ44,乙ハ45)によれば原告の破綻に至る経緯として以下の事実が認められる。
すなわち,原告は,いわゆるバブル経済の時期,競争力・収益力の強化を重点課題とした中期経営計画(昭和62年4月から平成2年3月)を策定し,積極的な営業推進を行った。
しかし,貸付金の内容は,不動産業,サービス業,ノンバンク等に傾斜していたため,平成2年以降バブル経済の崩壊により多額の貸付金が不良債権化し,不良資産が急増した。
その結果,平成4年の大蔵省検査においては,損益収支が急速に悪化しているとの指摘を受けるとともに,いわゆる決算承認銀行に指定され,平成6年4月の大蔵省検査では,第4分類債権が48億8000万円,第3分類債権が136億5300万円にまで
増加し,第3分類債権を50パーセント,第4分類債権を全額償却した場合の正味自己資本率は1.71パーセントまで低下した。
その後,平成8年4月になされた大蔵省検査では,第3分類債権が378億4700万円,第4分類債権が255億400万円まで増加し,正味自己資本比率はマイナス3.32パーセントまで下落し,実質債務超過となっており,自己資本比率の向上に努める必要があるとの指摘がなされた。
このように不良債権が拡大し,平成9年3月期の償却必要額は資本勘定(206億円)を上回る255億円にも達したため,169億円の第三者割当増資を行うなどしたものの,本件福一産業・カミパレスに対する融資も含めて不良債権の処理に歯止めがかからず,平成10年9月には,自己資本が約50億円まで低下し,平成11年4
月8日以降預金の流出が急速に進み,同月11日,金融再生法第68条1項に基づき,預金の払戻しを停止するおそれがある旨の申請を行い,同日,金融再生委員会から管理を命ずる処分を受けた。
cそして,以上によれば本件各融資の時点において福一産業・カミパレスが破綻した場合に,原告にはこれによる不良債権を償却し得る財源はなく,原告自らも破綻することが懸念される状況にあったことが認められる。
そこで,銀行の経営状態が極度に悪化し,大口融資先の倒産により自らも破綻する危険がある場合に,これを避けるために融資を継続することが許されるかが問題となる。
このような状況下においても,銀行の取締役としては,営利企業であるとともにその行う業務の公共性に鑑み,銀行自体の破綻の危険を除去し得る合理的かつ具体的施策を伴う場合にのみ支援融資を継続することが許されるというべきであり,このような具体的な見通しもないまま,自らの健全性を装い徒に延命を図らんがために一時しのぎの融資を継続す
ることは,その公共性に反するのみならず,銀行自体の破綻の回避にもつながらず,結局は破綻時の損害を拡大することとなり許されないものというべきである。
dしかるところ,本件においては,既に認定したとおり,カミパレ
ス・福一産業は実質的に破綻していたのであるから,原告経営陣としては,カミパレス・福一産業に対する不良債権の処理のための具体的な方策を早急に策定すべきであり,それが,銀行の再建策そのものの検討・立案にもつながるものであったにもかかわらず,かえって,このような検討を怠り,実質破綻先に対する不良債権を隠蔽しつつ,その処理を漫然と先送りする目的で本件各融資を継続したものであり,およそその正当性を主張しうるものではない。
要するに本件各融資は原告の破綻の回避に何ら寄与しないのみならず,かえって原告破綻時の損害を拡大させたものと評せざるを得ない。
信用不安を引き起こすおそれがあったとの点についても,銀行業務の公共性に鑑み
るならば,銀行の取締役としては,銀行自体の再建の見通しが乏しい状況に立ち至ったのであれば,むしろ早期に情報を関係機関に開示した上で信用不安の回避のための方策を講ずべきであったというべきである。
(イ)その余の被告らの主張について
a被告Aは,カミパレスについては,売上の増加や賃料の引下げ可能性等が存し,再建の可能性はあったことから,融資を継続することにより既存融資のみならず新規融資も回収を図ることが可能であったと主張する。
しかしながら,既に判示した如く,本件各融資当時おいて福一産
業・カミパレスの再建の見込みはなかったものというべきであり,被告Aの見込みは裏付けを欠いた不合理なものと言わざるを得ず,これに基づき自らの判断を正当化し得るものとは到底言い難い。
b被告Kは,カミパレス案件について初めて知ったのは平成9年4月2日の経営会議においてであり,それまでは福一産業・カミパレス問題に関する会議等に出席していなかったことから,本件各融資の時点において,直ちに融資を阻止すべきとの認識まで持つに至らなかった旨主張する。
しかしながら,既に認定したところ及び証拠(甲F35,乙ハ33)によれば,同日の経営会議において,午後3時5分から午後5時45分ころまでの間,時間をかけてカミパレス・福一産業の問題状況についての報告がなされ,被告Kは自ら日誌にメモをとりながら報告を聴取しているところ,会議においては,三和ビジネスクレジットが福一産業に対する債権を株式会社共同債権買取機構に譲渡するなど他の金融機関が再建に見切りをつけていたこと,福
一産業はこの債務につき免除を受けたとして債務免除益を計上するなど粉飾していたこと,カミパレスも福一産業も赤字体質であり,平成9年4月から6か月で約23億円の資金不足が見込まれること,検討中の再建策はいずれも実現が極めて困難であることなどが報告されたことが認められ,これらによれば,被告Kにおいて,カミパレスに対して十分な保全措置をとらずに赤字補てん融資を継続することが問題であることは当然に認識し得たものというべきであり,被告Kの主張は理由がない。
c被告Cは,本件各融資の融資稟議書の記載からは,本件各融資に異論を述べるべき事情はなかった旨主張する。
しかし,前記認定のとおり,本件各融資の融資稟議書の記載のみによっても,カミパレスに対する融資が大幅な保全不足の状態になることや多額の融資残高を有しながら,融資額が増加傾向にあることは明らかであり,さらに,被告Cは,本件各融資がなされる以前から融資審議会等への出席を通じてカミパレス及び福一産業の問題状況を認識しており,また刑事裁判の公判において本件各融資を行うことについて問題があると考えていた旨証言している(乙ハ42)のであるから,被告Cの主張は到底採用できない。
dさらに,被告Cは,融資についての実情を把握していない一取締役の反対によっては,融資を実行する結論は変わり得なかった旨主張し,被告Iや被告Kらも自らが融資審議会のメンバーになる以前の,しかも既に多額の融資が行われている案件について,反対の意見を押し通すことは不可能であった旨主張する。
しかしながら,原告部内において被告Aや被告Bに対して福一産業・カミパレスに対する融資の打ち切りを直言する者も現にいたのであり,カミパレスに融資を継続することの問題意識は取締役の間においても共有される状況にあったのであるから,融資審議会のメンバーたる被告らとしては部内の心ある意見を見殺しにすることなく融資に断固として反対すべきであったのであり,このような行動を起こさずして,結論は変わり得
なかったとのみ主張するのは,取締役としての任務を自ら放棄する主張であり,失当である。
eその他,被告らは,「融資審議会は,諮問機関に過ぎず,また一定の結論を出すものでもなく,決裁権者たる頭取の決済を阻止する機能を有しない。」,「融資審議会における検討時間が短く検討を尽くすことができなかった。」,「融資の専門ではないので判断ができなかった。」,あるいは,「営業店・審査部が反対意見を述べない限り担当役員以外の融資審議会のメンバーがあえて反対意見を述べる理由はない。」旨の主張をするものもあるが,これらが理由のないことは陶陶商事に対する融資についての判断において示したところと同様である。
エ損害
(ア)前記認定のとおり,本件各融資の合計額90億5100万円のうち58億7400万円が回収不能となった。
各融資ごとの回収不能額は別表記載のとおりであり,本件各融資により同額の損害が発生としたものと認められる。
(イ)被告Kの主張について
a被告Kは,担保権実行により回収できる金額は損害から除外すべきであるとするが,根抵当権は総額6億2700万円であるところ,保全不足額は52億4700万円(入居保証金2億6200万円を担保に含めても,保全不足額は49億8500万円)であり,担保権を勘案しても回収不能額は原告訴訟引受人の一部請求額を上回ることは明らかである。
bさらに,被告Kは,本件各融資により,原告は,福一産業及びカミパレス等に対する既存の貸付金を回収することができるとともに,貸付金に対する利息をも得ることができたのであり,当該部分を損害から控除すべきであると主張する。
しかしながら,既に述べたとおり,被告らは,融資を継続すること
は特別背任罪にあたると部内において指摘されるような,粉飾決算の存在する慢性的かつ構造的赤字企業に対して,回収可能性がないことを承知の上で,漫然と赤字補てん融資を継続したものであり,被告らには取締役の忠実義務にももとる重大な注意義務違反がある。
したがって,本件のような重大な注意義務違反のある場合に,被告主張のような形で損益相殺の主張を許すことは,かえって取締役の違反行為を助長する結果となり損害の衡平な分担という損益相殺の制度の趣旨に反して相当ではないものというべきである。
のみならず,本件においては,本件各融資の合計額は90億5100万円であり,その回収不能額は58億7400万円となっているところ,本件各融
資実行前の福一産業・カミパレスに対する融資残高は合計28億1100万円であり(甲F1),本件各融資実行後のそれは合計89億1880万8000円であり(甲F16),融資残高の増加分は61億0780万8000円である。
したがって,仮に本件各融資の合計額と融資残高の増加分の差額の全額が既存の貸付金の回収に回されたとしても,この融資残高の増加分は原告訴訟引受人らの請求している額を上回っているから,仮に既存の貸付の回収分等を損益相殺するとしても,原告訴訟引受人の一部請求を上回る損害が生じていることは明らかである。
以上のとおり,被告Kの主張はいずれも理由がない。
なお,被告Bは,本件各融資により,こくぎんモーゲージ及びこく
ぎんリースのカミパレスに対する既存の貸付金をも回収することができた旨主張する。
しかし,こくぎんモーゲージ及びこくぎんリースは,原告とは異なる法人であることからすると,本件各融資により,カミパレスからこくぎんモーゲージ及びこくぎんリースに対し返済がなされたとしても,このことをもって,原告に対する損害から控除すべきものということはできない。
また,仮に,本件各融資が,原告の関連会社であるこくぎんモーゲージ及びこくぎんリースに対する救済の意味を有していたとしても,救済融資を行うことができるのは,前記のとおり,具体的な計画に基づいて,原告に長期的な利益が見込まれる場合に限られるというべきところ,本件において,こく
ぎんモーゲージ及びこくぎんリースを救済するための具体的な計画が立案された形跡は認められず,被告Bの主張は採用できない。
(3)結論
以上によれば,被告らには,それぞれが関与した本件各融資について善管注意義務違反が認められ,その結果,少なくとも原告訴訟引受人が請求している額の損害を生じさせていることから,原告訴訟引受人の被告らに対する請求はいずれも理由がある。
6反訴について
前記のとおり,原告訴訟引受人の本訴請求に理由がある以上,原告が被告Kに対して有する損害賠償請求権で被告Kの原告に対する定期預金債権,定期積金債権及び利息債権とを対等額で相殺する旨の意思表示は有効であり,被告Kの定期預金債権等の返還請求には理由がない。
また,原告がなした被告K所有不動産に対する不動産仮差押申立てについても,既に述べたとおり被保全権利たる損害賠償請求権が認められるところであり,当該申立てが違法であると認めるに足りる証拠はない。
したがって,被告Kの反訴請求はいずれも理由がない。
7結論
原告訴訟引受人の本訴請求はいずれも理由があるのでこれを認容し,原告の本訴請求は,その請求権がいずれも原告訴訟引受人に譲渡されていることが明らかであるから,これを棄却し,被告Kの反訴請求は理由がないからこれを棄却し,主文のとおり判決する。

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